八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百四十話 夏の雨を見てその八
「それって」
「俺のか?」
「だって親父の人生って波乱万丈だよね」
「酒に可愛い娘ちゃんに遊びにな」
「あとお仕事で」
「俺の人生は確かにそうだな」
親父自身も認めた、それも明るく笑って。
「ガキの頃から何かしら起こってな」
「それでだよね」
「いつも嵐だよ」
そうした人生だというのだ。
「今だってイタリアにいるしな」
「さっき話した手術みたいなこともあって」
「間黒男さんより色々あるな」
ブラックジャックの本名だ、あとある料理漫画では明らかにこの人をモデルにした味沢巧という人もいるらしい。
「俺の人生は」
「親父の人生はそうでも」
「御前の人生はか」
「幾ら何でもね」
確かにこの十七年、特にここ最近は色々あるけれどだ。
「親父程じゃないから」
「まあそうだろうな、俺の人生はな」
「桁が違うよ」
「その通りだな、けれどな」
「人生が嵐みたいに色々あるっていうのは」
「誰でも多少なりでもそうでな」
それでというのだ。
「別に悪いことでもないんだよ」
「そうなんだ」
「ああ、別にな」
これといってという返事だった。
「それに他人から見れば案外な」
「案外?」
「何でもなかったりするさ」
「自分では大変でも」
「ああ、それで自分自身でもな」
大変だと思っていてもというのだ。
「終わってみれば何でもない」
「そうしたものなんだ」
「それもまた人生なんだよ」
「自分が感じてるのと他人が見ているのは違うんだね」
「ああ、そうさ」
こう僕に話してくれた。
「俺の人生だって御前の人生だってな」
「他の人から見れば何でもない」
「そうだったりするんだよ」
「嵐も傍から見ればなんだ」
「ただのドラマさ」
「ただのなんだ」
「ああ、ただのな」
そんな程度という返事だった。
「そんなものさ」
「小さいものなんだ」
「当たり前だろ、人間自体が小さいだろ」
一人一人はというのだ。
「どんな人でもな」
「僕も親父も」
「俺だって小さいね」
また明るく笑って言ってきた。
「所詮な」
「人間で」
「小さいものさ」
そうだというのだ。
「所詮な」
「そんなものなんだ」
「だからあれこれ言って騒いで苦しんでもな」
「大したものじゃない」
「そんなものさ、まあそれでな」
「それで?」
「二学期になって何かあったらな」
その時はというのだ。
「自分でどうしようもなくなったら畑中さんに相談しろよ」
「親父に電話してもいいかな」
親だからだ、僕は親父にこう返した。
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