儚き想い、されど永遠の想い
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224部分:第十七話 山でその一
第十七話 山でその一
第十七話 山で
真理の風邪は回復した。それを受けてだ。
義正はすぐにだ。彼女にこう言った。
「では。少ししましたら」
「山にですね」
「はい、六甲に行きましょう」
このことだ。彼女に言うのである。
「二人で」
「そうですね。二人で」
「まずは体力を回復されて」
それからだというのだ。山に行くのは。
「それから」
「では今は」
「何か美味しいものでも召し上がられて」
それで体力を回復するべきだというのだ。
「そうされて下さい」
「そうですね。それでは」
真理も彼のその言葉に頷く。その彼女にだ。
すぐに婆やがだ。こう言ってきた。
「それではです」
「婆や、今度もですね」
「この婆やが面白いお粥を作ります」
「面白いお粥?」
「中華街に出入りしている方に御聞きしたのですが」
その人から聞いてのことだというのだ。
「支那には色々なお粥がありまして」
「あの国はお粥の数も多いのですか」
「はい、その中に及第粥というものがあります」
「及第粥?」
「豚の内臓を入れたお粥です」
そうしたお粥があるというのだ。これは実際にあるお粥だ。
「大層力がつくお粥とのことです」
「豚の内臓を入れているからですね」
「それは中華街で手に入ります」
他ならぬ支那人達の街だからだ。それは当然だというのだ。
「そこで豚の内臓にダシになるトリガラを買って」
「そこから作ってくれるのですか」
「実は材料はもう買ってあります」
どうやら既に真理に食べさせたかったらしい。実に用意周到である。
「後はそれをです」
「私が食べれば」
「どうされますか?」
あらためて真理に尋ねる婆やだった。
「豚の内臓ですから癖が強いですか」
「いえ、それでもです」
真理は婆やの心を受け取ってだ。こう答えたのだった。
「御願いします」
「その及第粥を召し上がられるのですね」
「そうさせて下さい」
これが真理の返答だった。
「是非共」
「わかりました。それでは」
「ではその及第粥を」
こうして真理が食べるお粥が決まった。その話を横で聞いてだ。
義正はだ。少し考える顔になって婆やに言った。その言葉は。
「及第粥というのですか」
「あちらの国でお役人になる試験があるそうですね」
「ええ、清の頃までありました」
このことは義正も知っていた。支那は昔から官僚機構が発達しておりその登用の方法もかなり確立されていたのだ。それが試験だったのだ。
「科挙といいまして」
「科挙というのですか。その試験は」
「それに受かることを及第といいました」
つまりだ。その粥は。
「受験して及第する為に力をつけるものとして」
「食べられていたお粥ですね」
「はい、そうなりますね」
こう婆やに話す義正だった。
「そのお粥をこれから真理さんにですね」
「召し上がって頂きます」
「あの科挙は相当な難関でした」
何千人も受けて合格者は僅かだ。しかも四書五経を全て暗記することが最低条件だったのだ。そこまで困難な試験だったのである。
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