八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百四十話 夏の雨を見てその六
八条荘に着いて自分の部屋に入ってくつろいでいるとだ、携帯の音楽が鳴って誰かチェックするとだ。
親父だった、親父の携帯番号を見つつ何だと思いながら出ると親父は笑って僕にこう言ってきた。
「夏も終わりだな」
「こっちじゃね」
「身体大丈夫か?」
珍しく医者らしいことを聞いてきた。
「それで」
「うん、別にね」
僕は親父のその質問に何でもなく返した。
「何処も悪くないよ」
「疲れたりしてないか」
「絶好調だよ」
こう親父に返した。
「これ以上はない位にね」
「それは何よりだな」
親父は電話の向こうから僕に笑って言ってきた。
「俺も絶好調だがな」
「遊んでるんだよね」
「ああ、毎日な」
お約束の返事だった。
「可愛い娘達と楽しくな」
「あとワインもだね」
「パスタもな、イタリア最高だぜ」
「それは何よりだね」
笑って言う親父に冷めた声で返した。
「元気に遊んでるんだね」
「日本にいる時と同じさ」
「全く、親父は変わらないね」
「酒池肉林だ」
そうした日々だというのだ。
「魚介類も美味いぜ」
「ヴェネツィアだよね、親父がいるの」
「家はそっちにあってな」
「イタリア各地をなんだ」
「仕事があれば回ってる、この前もでかい手術してな」
「成功させたんだ」
「ヘリでヴェネツィアからナポリまで飛んでな」
そしてというのだ。
「その子手術して助けたんだよ」
「そのことも変わらないね」
「助かってよかった、オレンジ農家の子でな」
「お金持ちじゃないよね」
「医者は患者を選ぶなっていうだろ」
ここでこう言った親父だった。
「困ってたら誰でもな」
「全力でだね」
「助けるものなんだよ」
「ブラックジャックみたいにだね」
「人間ああしてな」
あの漫画の主人公みたいにというのだ。
「立場とか金とかな」
「そういうの抜きにだね」
「助けるのが人情ってもんだ」
「それでくれるものはだね」
「貰うんだよ」
ブラックジャックがそうである様にというのだ。
「それでそうしたんだよ」
「それはいいことだね」
「そうだろ、ただ尊敬はするなよ」
ここでこう言うのが親父だ、他の人に自分から自分を尊敬しろとか言う奴は恥知らずの馬鹿だと僕によく言った。
「いいな」
「親父をだね」
「俺は尊敬なんかいらないんだ」
「親父を尊敬するのならだよね」
「他の人を尊敬しろ」
これが親父の持論だ。
「いつもそう言ってるだろ」
「だからだね」
「俺は尊敬するな」
今もこう言った。
「間違ってもな」
「そこも変わらないね」
「俺は俺だ、遊んでくれるものは貰ってな」
「ブラックジャックみたいに生きてるんだね」
「ブラックジャックは遊び人じゃないけれどな」
ストイックなキャラだ、その雰囲気がまたいい。
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