儚き想い、されど永遠の想い
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208部分:第十五話 婚礼その十七
第十五話 婚礼その十七
義正は今もかけられているそのワーグナーを聴きつつ真理に話した。
「悲しい結末になる作品の音楽でも」
「それでもですね」
「聴く者の如何によってです」
「それが変わりますね」
「はい、変わります」
そうだというのだ。
「心の持ち方によってです」
「私達二人の心の持ち方によって」
「そうです。変わります」
「そうですね。変わりますね」
真理もだ。彼のその言葉に頷いてだった。
笑顔で応えた。二人の問題だとわかったのだ。
それがわかるともうその音楽もだ。自然とだ。
「祝福を願う祈りの音楽ですね」
「舞台においてそのまま歌われる」
「ワーグナーは素晴しい音楽を創り出したのですね」
「はい。そして」
「そして?」
「もう一つの音楽は如何でしょうか」
義正は真理にこんなことも話した。
「もう一曲。如何でしょうか」
「もう一曲ですか」
「フィガロの結婚です」
次はそれだった。天才とまで謳われた音楽史の巨人の作品だ。その巨人は僅か三十五歳で夭折したがそれを全く感じさせない豊かな才能に基く多くの作品を残している人物だ。
「それの序曲です」
「その曲も確か以前に」
「聴かれていたでしょうか」
「そう思うのですが」
「では止めますか?」
「いいえ」
止めることはしない。それはだと答える真理だった。
「今度はその曲を」
「聴かれますか」
「そうしたいです」
義正に対して微笑んで答えたのだった。
「確かモーツァルトですね」
「そうです。モーツァルトです」
「母が好きでして」
「御義母様がですか」
「ええ。よく聴いておられます」
「そうだったのですか。あの方はモーツァルトが」
「聴いているととても落ち着くとのことです」
そうなるというのだ。モーツァルトを聴いていると。
「それで」
「そうですね。モーツァルトを聴いていると」
「何か心が変わってきますね」
「清らかになり心が弾み」
まさにモーツァルトの音楽の魔力である。それによってなのだ。
「沈んだものも上向いていきます」
「音楽の持つ力を」
「モーツァルトは最大限まで引き出してくれます」
「まさにそうしてくれるのですね」
「そうです。それがモーツァルトです」
「ワーグナーとはまた違った力」
モーツァルトの音楽の力についても話されていく。
「それがあるのですね」
「私はそう思います」
「では。これからは」
「モーツァルトも聴かれますか」
「そうしたいです」
こう義正にも答える。
「二人で」
「そうですね。二人でなければ」
「そうでなければ何もなりませんから」
「ええ。それでは」
こうした話をしてだった。二人はそのモーツァルトの音楽を聴くのだった。その中でだ。真理は珈琲を飲みながら不意にであった。
少し咳こむ。義正はそれを見て言った。
「風邪ですか?」
「いえ、最近どうも」
「咳が出るのですか」
「はい、それだけです」
実際に他におかしなところは感じない。だからこその返事だった。
「大丈夫です」
「そうですか。風邪でなければです」
「そうではありませんから」
「咳には飴がいいですね」
「飴ですか」
「後で買います」
真理の為にだ。買うというのだ。
そうした話をしてマジックでは終わった。そのうえで二人は二人の生活を本格的にはじめるのだった。二人の幸せ、それをだ。
第十五話 完
2011・6・26
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