儚き想い、されど永遠の想い
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126部分:第十話 映画館の中でその十六
第十話 映画館の中でその十六
「一体何をするべきかな」
「困った話ですね」
「さて、それでだ」
ここまで話してだった。彼はだ。
それまで手にしていた手紙の封に手をつけてだ。それでだった。
「手紙を読むか」
「はい、それでは」
こうしてだった。その義正からの手紙を読む。まずは普通の顔だった。
しかしだ。少しずつ読んでいきだ。その顔がだ。
強張りだ。それから明るい顔になり。それからだった。
老従者にだ。こう話すのだった。
「今その剣が見つかった」
「剣がですか」
「結び目を断ち切る剣が見つかった」
こう話すのである。
「今ここでだ」
「といいますと?」
「わしに会いたいそうだ」
こう話すのだ。
「是非共な」
「あの八条家の三男の方がですか」
「そうだ。あの若旦那がな」
「そのこと自体は普通だと思いますが」
「そうだな。はじめてのことにしてもだ」
「しかしそれ以上のものがあるのですか」
「だから言うのだ」
厳しい顔が明るくなっていた。そのうえでの言葉だった。
「今こうしてな」
「ううむ、一体何でしょうか」
「ペンを用意してくれ」
これが伊上の従者への返答だった。
「わしも手紙を書く。いいな」
「旦那様もですか」
「そうだ、書く」
まさにだ。そうするというのだ。
「それも二つだ」
「一通ではないのですか」
「すぐにわかる。いいことだ」
自然にだ。こんなことも言うのだった。
「話がこれで変わる」
「変わりますか」
「何ごとも。争うよりはだ」
「それよりも?」
「親しむ方がいい。その方がいい」
こう話してだった。彼は従者からペンを受け取りだ。そのうえで手紙を書きはじめるのだった。
そうしてその二通の手紙をそれぞれ送る。賽が再び放たれたのだった。
第十話 完
2011・5・6
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