転生とらぶる
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ペルソナ3
番外編064話 その頃のレモンとマリュー 後編
ヴァイクルという名前を聞き、レモンはすぐにそれがどういった機体なのかを思い出す。
エアロゲイターの機体の一種で、T-LINKシステム――正確には違うのだが――を搭載した機体。
PTのような20m前後のサイズではなく、全高80m程、重量にいたっては300t近い。
どちらかと言えば、特機という認識の方が正しいだろう。
ただし、分類上は特機であっても、実際にはレモンの知ってる特機のように人型という訳ではなく、鳥に近い形をしているのだが。
そこまで思い出すのに、数秒。
真面目な表情を浮かべつつ、レモンは映像モニタに映し出されている技術者に向かって尋ねる。
「不完全と言っていたわね。具体的にどういう事? あの機体はファントムのような浮遊砲台を大量に使う事が出来ていたと思うけど、その辺りの情報は回収出来たの?」
そう尋ねるレモンの言葉に、技術者は申し訳なさそうに首を横に振る。
『残念ですが……』
「そう」
量産型T-LINKシステムと呼ぶべきET-LINKシステムを開発中のレモンにしてみれば、一種のブレイクスルーになるのではないか。
そう思っていたのだが、その期待はあっさりと潰されてしまう。
『データは……5割から6割といったところです』
「だとすると、ヴァイクルをそのまま量産するという訳にはいかないのね。……もっとも、量産してもT-LINKシステム前提の機体である以上、運用は難しいでしょうけど」
レモンの言葉に、映像モニタに映し出された技術者は申し訳なさそうな顔をする。
だが、レモンはそんな技術者を責めるつもりはなく、引き出したデータを転送して貰ってから通信を切る。
そもそも、ハガネやヒリュウ改の部隊と戦い、ホワイトスターには大きな損傷を受けていたのだ。
その辺りは、未だにメギロートとイルメヤしか製造ラインが回復していないのを見れば、明らかだろう。
もっとも、実際にはメギロートとイルメヤがおり、量産型Wのシャドウを考えると、無人機については全く困っていないというのが実際のところなのだが。
ましてや、今は他にもバッタを始めとした木星トカゲの無人兵器も所有されている。
そうである以上、他の無人兵器をどうにかするよりも、他にやるべき事がまだ多くあるのだから、そちらに力を入れるのは当然だった。
(けど、技術班の子達がようやくサルベージしたヴァイクルのデータだし、折角なんだから、出来れば何かに有効利用はしたいわね)
そう考え……ふと思いついたのだが、残念そうな顔をして溜息を吐く。
「惜しいわね」
「どうしたのよ?」
そのようなレモンの顔を見るのは珍しい事もあり、マリューが尋ねる。
「いえ、ヴァイクルの大きさを考えれば、ファブニールの外殻として使えたんじゃないかと思ってね」
勿論、レモンは外部武装追加ユニットのファブニールに不満がある訳ではない。
シャドウミラーならではの、非常に高性能な機体であり、その性能には満足している。
だが、どうせ不完全なヴァイクルのデータがあるのであれば、それを流用しても面白かったのではないか、というのがレモンの思いつきだった。
これには、レモンがヴァイクルの外見を気に入っているというのもあるのだが。
「それはちょっと面白そうだけど、まさか今の状況で新たに設計しなおすなんて言わないわよね?」
普通であれば絶対に考えられない事ではある。
だが、レモンの場合は下手に高い能力がある分、やろうと思えば本当にそれをやれるのだ。
だからこそ、念を押すようにマリューはレモンに尋ねる。
実際、ファブニールは既に量産が開始されている。
コスト的に、ファブニール1機を作るのにシャドウ10機分程度のコストを必要とする。
シャドウミラーでは量産機という扱いのシャドウだが、その性能はエース級のパイロットが使うカスタム機といった面が強い。
そのような機体10機分なのだから、ファブニールがどれだけ高コストの機体なのかは明らかだろう。
勿論、それだけの性能を有しているのは事実であり、だからこそ誰も文句を言わないのだが。
もっとも、それが可能なのはあくまでも元素変換装置のキブツを有するシャドウミラーだからだ。
普通の組織であれば、それこそ数機作ってそれをエース級のパイロットが使うといった扱いの機体になる筈だった。
そんなファブニールは、こうしている今も量産されているのだ。
実際にそれを行っているのは、量産型W、メギロート、バッタといった者達であり、レモンやマリュー達は何もしなくても次々に完成している。
そんなファブニールを今更使うのを止めると言われれば、ちょっとしたどころではない混乱に陥るだろう。
勿論アクセルがいない今、シャドウミラーの実質的なトップであるレモンが強権を発動すれば可能であるが……そのような真似は、出来れば止めて欲しいというのがマリューの正直なところだった。
そんなマリューを安心させるように、レモンは笑みを浮かべる。
「当然でしょ。せっかくあそこまで設計を煮詰めたのよ? そんな真似をするつもりはないわ」
レモンの言葉に、安堵の息を吐くマリュー。
「レモンが賢明な判断をしてくれて嬉しいわ、。……けど、じゃあヴァイクルはどうするの?」
「そこが難しいところね。……正直なところ、迷うわ。勿論幾つか候補はあるんだけど」
「例えば?」
「そうね、実働班の中で専用機を持っていないのは、スレイ、スティング、アウル、レイ、綾子の5人でしょ? 以前その5人にも専用機を作った方がいいかもしれないって話はしたでしょ?」
その言葉に、以前夕食を食べている時の事を思い出したマリューはレモンが何を言いたいのかを理解した。
「つまり、ヴァイクルを誰かの専用機にするの?」
「ええ。誰かと言うよりは……スレイでしょうけどね」
その判断には、マリューも反対しなかった。
シャドウミラー実働班の中で、古参と言ってもいいだろうスレイだが、今までそんなスレイであっても乗っているのはシャドウだったのだから。
勿論シャドウではあっても、通常のシャドウという訳ではない。
高い品質の部品を使い、性能もかなりカスタム化されているその機体は、分類するのならシャドウの高位機種……と呼んでも不思議ではないだろう。
それこそ普通のエースパイロットであれば、機体に振り回されてきちんと操縦出来ないだけの性能を持つ。
だが、今のスレイであれば、そんなシャドウであっても機体性能に不満が出る事も珍しくはない。
勿論、カスタム化されたり、ファブニールという外部武装追加ユニットがあったり、と色々と手は打っているのだが。
「この機体特性から考えると、ヴァイクルは運動性と機動性が高い機体だったみたいね。そういう意味では、以前スレイが乗っていた……カリオンだったかしら? そんな感じの機体になるの?」
「そうする予定よ。ただ、色々とデータが不足している事もあって、元のままという訳にはいかないでしょうね。出来れば、PTサイズ……ファブニールを使用出来る程度の大きさまで縮めたいわ」
「本気? ……いえ、聞くまでもないんでしょうけど」
レモンの様子を見れば、とてもではないが冗談で口にした訳ではないのは明らかだった。
(ただ小さくするだけなら、レモンの技術力があればそれ程難しくはない筈。だけど、レモンがただ小さくする……なんて真似はする筈がないわ。恐らく性能を維持したままで、いえ、寧ろより高性能にしてPTサイズまで縮めるんじゃないかしら)
レモンの様子を見てそう考えるマリューだったが、実際その考えは当たっていた。
レモンの中では、着々とヴァイクルを現在のシャドウミラーの技術でどう改修するかの計画が練られていたのだ。
(取りあえずカリオンのような、攻撃力より運動性と機動力を優先させるのは間違いないとして、ASRSとミラージュコロイドを使ったステルス仕様にするのも面白いわね。ただ、ヴァイクルの中でも攻撃力と応用性の高い浮遊砲台の方は、T-LINKシステムを使っての……いえ、ET-LINKシステムが完成すれば、ある程度は可能かしら? ヴァイクルの大きさを特機クラスからPTクラスまで下げるんだし、そうなれば浮遊砲台もそこまで大量に運用するのは難しいわ。となると、ET-LINKシステムなら何とか……)
そんな風に考えているレモンの様子を見て、マリューもまた満足そうに笑みを浮かべ……テーブルに置かれていたレポートに気が付く。
何となくそのレポートに手を伸ばすと、そのレポートが以前綾子の言っていた使い捨ての支援用の機体の物だと気が付く。
そちらの方に関わっていなかったマリューは、自分の考えに没頭しているレモンの邪魔をするのもどうかと考え、紅茶を飲みながらレポートを見る。
(ふーん、結局ベースの機体はソルプレッサになったのね。グゥルとかも参考にするって言ってたけど……あくまでも参考は参考なのね。ソルプレッサの方も色々と細かいところは改良されてるみたいだし)
レポートには、ソルプレッサ後部の部分にシャドウのような機体が乗る為のブースターユニットが備え付けられていると書いてあった。
そのブースターユニットこそがこの機体の肝で、武器の類もミサイルとビーム砲はそちらのブースター部分に装着されているらしい。
唯一、ソルプレッサの機首近くにバルカンはあるらしいが、バルカンという武器の威力を考えると、それこそ対人用、もしくは向こうが撃ってきたミサイルを始めとする武器の迎撃用といったところだろう。
「ああ、それ? 技術班の方から上がってきたレポートだけど、案外と出来がいいわよね」
ヴァイクルの改修について考えていたレモンだったが、マリューが何のレポートを読んでいるのかを見て、そう話し掛ける。
「そうね。ただ……あまり好まれなかったんじゃない?」
レポートから目を離して尋ねるマリューに、レモンは頷きを返す。
実際、この機体はシャドウミラー特有の技術は一切使わず、エネルギー源もSEED世界のバッテリーを使っている。武器の類も重力関係の武器でもなく、普通のビームで、ミサイルもそれは同様だ。
まさしく、どこにでもある技術の組み合わせに等しい。
……勿論、だからこそファブニールと比べて圧倒的なコストの低さという利点もあるのだが。
この機体を100機作ったところで、ファブニールどころかシャドウ1機分のコストにもならないだろうという程の、圧倒的なコストの低さ。
だが、自分達が今まで蓄えた様々な技術の殆どを使わずに開発しろと言われただけに、技術班の者達は当然のようにあまりやる気になれなかった。
もっとも、それでもしっかりと使える設計データを作成する辺り、仕事は仕事として認識しているのだろう。
「そうね。けど、そのダラニは使い捨てとして考えれば、十分な性能を持っているわ」
「ダラニ? それって、北欧神話に出てくる馬の名前よね?」
「ええ。スレイプニルの血を引いていると言われている馬で、ジークフリートが乗っていた事で有名ね。……正直、使い捨ての機体にそんな名前を付けてもいいのかどうか迷ったんだけど、ファブニールがスレイプニルなら、簡易型のこちらはダラニでいいって言われてね。他に反対意見もなかったし、ならいいかという事でダラニに決まったわ」
それについては、特に何か不満はなかったのかマリューもそれ以上追求するような事はしない。
ただ、1つ。
レポートを見て、どうしても突っ込みたい部分があった。
「ねぇ、マリュー。このレポートの最後に書いてある部分だけど……」
「知らないわ。私には何も見えない」
即座に返事をする事こそが、そこをしっかりと読んだという事を示している。
……そう、レポートの最後には『敵の側まで移動した後は、敵にぶつけて自爆させるという風な使い方をすると聞いているので、個人的にはブースター部分の中にフレイヤを詰め込んでおく事をお勧めします』と書かれていたのだ。
フレイヤ。それはギアス世界で開発された、広域破壊兵器だ。
現在シャドウミラーの機体でも、装備している機体は決して多くはない。
それをダラニの中に仕込んでおいて、敵にぶつけた時にフレイヤを作動させる。
そうなれば、間違いなく敵に大きな被害を与えられるだろう。
ただし、ダラニを使っていた方も上手く逃げなければ巻き込まれるが。
また、敵に鹵獲されればフレイヤも奪われる事になる。
……唯一の救いは、フレイヤはサクラダイトが必須であり、フレイヤの技術を盗んでもあまり意味はないという事か。
もっとも、敵にフレイヤが渡った時点で洒落にならないのだが。
「全く、葉加瀬には後でしっかりとお仕置きする必要があるわね」
溜息を吐きながら、マリューはレポートに描かれているダラニのイラストを見る。
それは、もしアクセルが見れば『コアブースターじゃねえか!』と突っ込みたくなるような姿をしていた。
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