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儚き想い、されど永遠の想い

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11部分:第一話 舞踏会にてその八


第一話 舞踏会にてその八

「では涼みに」
「はい、行きましょう」
「酔ったせいでしょうか」
 義正はだ。その暑さの理由をそこに求めた。酔いにだ。そして他のものにも理由を求めた。そのもう一つの理由はこれであった。
「それに人も多いですし」
「そうですね。今日は特に」
「だからですね」
 こうその紳士に話すのだった。
「そのせいですね」
「では余計にですね」
「はい、人気の少ないその庭に」
「出ましょう」
 こうしてであった。二人で庭に向かう。そこは左右対称になっていて緑の中にだ。黄色い花々が咲いている。西洋、それもフランスのロココを思わせる庭であった。
 その庭でだ。二人はまた話した。
「この庭もいいものですね」
「そうですね。落ち着いていて」
 義正はこう紳士に述べる。
「こうして歩いているだけで」
「いいものですね」
「本当にそうですね」
 こう紳士に話す彼だった。
「それにです」
「それに?」
「バルコニーがありますし」
 そのバルコニーの話もするのだった。見ればだ。
 館にだ。それがあった。二階のところに白いバルコニーがある。窓とカーテンから出るそこもまた西洋風のものであり見栄えのいいものだった。
 義正はそれを見上げてだ。そうして紳士にこんなことを言った。
「あのバルコニーを見ているとです」
「何を思われますか?」
「シェークスピアです」
 それをだというのである。
「あの英吉利の戯曲家の作品をです」
「ああ、あの有名な」
「ロミオとジュリエットでしたね」
 彼はそれを話すのだった。
「それを思い出します」
「ロミオとジュリエットですか」
「はい、ありきたりでしょうか」
「ありきたりとは思いませんよ」
 紳士は穏やかな笑みを浮かべて義正に述べた。
「そうですか。ロミオとジュエリエットですか」
「ええ、それを思い出します」
 また述べる彼だった。
「どうもです」
「文学的ですね」
「文学的ですか」
「はい、いいものです」
 その英吉利文学の傑作についての話に入っていく。
「最近よく哲学を読む人がいますが」
「特に独逸だね」
「ニーチェやショーペンハウアー、それにカントにヘーゲル」
「哲学者が増えたね」
「僕は哲学はどうも苦手で」
 少し苦笑いになっての言葉だった。
「どうしても。あちらは」
「それはまたどうしてかな」
「自分でもどうしてなのかわかりません」
 それはだというのである。
「ですが。それでもです」
「苦手なのかい」
「哲学書はしっかりと読んだことがありません」
 そうだとだ。紳士に対して話す。
「やはり。それよりもです」
「文学なんだね」
「文学もまたいいものです」
 明らかにだ。文学に寄った言葉であった。
「決して馬鹿にはできないと思います」
「そうだね。それはその通りだね」
「はい。文学は哲学に劣りません」
 ここでも文学に寄った言葉を出す義正だった。
「同格であります」
「学問に位はないか」
「そう思います。それは我が国と海外のものについても同じです」
「我が国の文学も海外の文学もかい」
「はい、位の違いはありません」
 文学の間でもだ。それはないというのである。
 
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