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ラピス、母よりも強く愛して

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10ユリカ引っ越し

「ア~キ~トッ!」
 ラピスの制裁に懲りず、その目が行き届いていない時にはアキトに抱き付いて、頬擦りするユリカ。
「やめろよっ」
 何とかユリカを突き放そうとするアキトだったが、この年頃は女の子の方が発育が良く、アキトより力強かった。
「だめっ、アキトはわたしのことがすきっ!」
 気の毒なユリカちゃんは発達障害で、自分と相手の立場の違いがよくわかっておらず、自分が好き=相手も私が好き、の数式を書いてしまうストーカー思考バリバリのキ@@@で、ここまでの人物は講習やリハビリでは直せず、ひたすら「暴力」で間違いだと叩き込むしか無い。
「だからやめろって」
 アキトも別に女嫌いでは無かったが、こんな状態を見られると、ラピスの機嫌が恐ろしく悪くなり、アイちゃんも頬を膨らませて、一週間は口をきいてくれないのは明らかだったので、どうにかして引き離そうと必死になっていた。
「やめなさい」
 そこでジャンプして来たラピスに髪の毛を掴まれ、無理やり引き離されるユリカ。
「いたい、いた~~い!」
 髪の毛が何本か千切れたのか、泣き出すユリカ。ラピスの腕力はユリカの5倍はあり、握力は20倍ぐらいなので、子供のユリカが敵うはずもなかった。
「ラピス、もういいよ、それぐらいに……」
 周囲の温度が下がったような感触に、言葉を詰まらせるアキト。
「大丈夫? すぐにママの所に行って消毒してもらって」
 ハンカチを出して「ユリカ菌」がついた場所を拭き取るラピス。
「え?そこまでしなくても」
「違うの、ユリカさんのママの病気、覚えてるでしょ、あれはユリカさんの免疫機能がお母さんに入り込んだからよ、早くっ!」
 もう完全に「病原菌」扱いのユリカ、全て嘘ではなかったが、さすがに接触感染はしない。
「うわああああっ!」
 まだ子供のアキトは、wikiよりもグーグルよりも信用できる相手を信じ、ラピスの家である監視小屋に走って行った。

「ふざけた事をしてくれたわね、でもこれでアキトから貴方に近付いたりはしない、残念だったわね」
 ギリギリと髪の毛を捻り上げ、引き千切って行くラピス。
「いたい~~~~!」
「どうしたの?おねえちゃん」
 そこに、ラピスwifiで呼ばれたアイちゃんも駆け付けた。
「このバカがアキトに抱き付いて、「キス」しようとしたのよ、一緒にお仕置きしましょう」
 優しいはずのアイちゃんだったが、その言葉を聞いて表情が変った。
「それほんと? ユリカちゃん」
 下を向いたまま、低い声で話し掛けるアイちゃん、もちろんユリカの悲鳴など聞こえていない。
「いた~~い!」
「こたえてっ!」
 腰と体重が入った見事な中段突きが、ユリカのボディーに入る、護身術と格闘技もアイちゃんの必修科目らしい。
「げふっ!」
 お昼ご飯の味と、胃酸に喉を焼かれる感触を味わう哀れなユリカは、抵抗も虚しく地下牢に引きずられて行った。

 監視小屋
「おばさ~~ん!」
 ラピスの家に到着し、泣きながら事情を話すアキトだったが、ラピス(母)は何故か消毒液を持って待ち構えていた。
「大変だったわね、ちょっとしみるけど、我慢してね」
 ユリカがへばり着いた場所にスプレーをかけて拭き取り、そのまま風呂場へ連れて行く。
「さあ、叔母さんが洗ってあげるわ(///)」
 二人がいないのを良い事に、もっと凄い事をしようとしているラピス(母)、きっと「あ~んな所」まで隅々洗っちゃうに違いない。
(ああっ、「くすぐったくても我慢してね(///)」みたいな感じで、あっ、口の中や(ピーーー)に入ったのも吸い出さないと(ポッ)」

 その頃、すでに地下牢に連れ込まれ、両手を縛られてギャグボールを咥えさせられ、天井から金属製のチェーンでぶら下がっているユリカ。
「ここならどれだけ大きな声を出しても誰にも聞こえない、好きなだけ叫んでいいのよ」
「うっ、ぐすっ、うううっ」
「ふふっ、大丈夫、骨折してもすぐ治してあげる、痛みは消えないけどね、クスッ」
「どうしてお兄ちゃんに、むりやりエッチなことしようとしたの?」
 ラピスに嘘を吹き込まれ、怒り心頭のアイちゃん。
「あたしにだって「ほっぺにチュ」しかしてくれないのに!」
 アイちゃんも以前それ以上しようとして、アキトの目の前で「キュッ」とシメられ、それ以降は妹分?を心配してSATSUGAIしてしまわないよう、余りベタベタさせないように配慮されているらしい。
「うっ、うううっ」
「泣いてちゃ分からないわ、なんとか言ってみなさい」
 ギャグボールと言うか、舌を噛み切らないように何かを咥えさせられているので、喋れと言う方が無理な相談である。
「言えっつってんだろっ! このクソがっ!」
「うううーーーっ!」
 アイちゃんの、重い回し蹴りが入り、サンドバックのようにゆらめくユリカ。
 この世界ではもうユリカを救おうとする人物はおらず、コウイチロウですらラピスの支配下に置かれ、「近所の子供のイジメ」にも「母親の虐待」にも苦情を言わなかった。
「さあ、ゆっくり楽しみましょう、貴方の発達障害の治療には、ナノマシンより「暴力」が効くのよ」
「ううううーーっ(訳:助けてーーっ)」

 もうこの頃には、学校の教師、生徒もラピスの支配下に落ち、何か「太陽の牙」みたいな反政府組織も用意され、ユリカはダグラムのヒロインみたいに、幸薄そうな頬がコケたヒロインに改造されていた。
 さらにアキトは、どこかのソウスキー・セガール軍曹のように、子供の頃からサベージに乗ってアフガンで戦うような教育をされたり、中学生頃には豆腐の配達をさせられ、ドリフトの英才教育を受けたり、十七式衛人の替わりにゲキガンガーのシュミレータの最高得点を出すまで遊べたりしていた。
 サラ・コナーさんの息子みたいに、ターミネーターと戦う戦略的な教育は後日に回された。

 監視小屋
 その頃、既にラピス(母)によって洗われ、ユリカ菌を消毒されていたアキトと、ユリカを放逐して帰って来たラピスは。
「さあ、順番にお風呂に入って」
「「は~~い!」」
「アイちゃんはだめ」
「どうして?アイもいっしょにはいる~」
 ラピス的には、「アイちゃんにアキトの裸を見られる」「アキトにアイちゃんの裸を見せる」両方が気に入らなかった。
「あっ! おち*ちんだ~~、アイはじめてみた~~!」
(なっ! 何て事を……)
 恥ずかしいセリフを臆面も無く話せるアイちゃんに、ジェネレーションギャップを感じるラピス、きっと内心では「最近の若い者は」と思っているに違いない。
(最近の若い子は……)
 思っていた。
「ねえ、お兄ちゃん!さわってもいい?」
(ヒィイイッ!)
 自分が言いにくい事も、あっさり口にしてしまうアイちゃん、このままでは「あっさり口にしてしまう」かもしれない。
「だめよっ!」
 しかし、止める間もなく触り始めているアイちゃん。
「やわらか~い、あっ! さきっちょだけピンクいろなんだ~、キャッ、キャッ、あっ!おっきくなってきた~~!」
(ヒィイイイイイイッ!)
 ラピスが触っても、中々大きくならないのに(怖いので)、アイちゃんなら一撃だった。
 子供同士の戯れだが、このままでは初体験まで最短コースを取る可能性があった。
 ラピスの周囲だけお湯が泡立って、何となく沸騰しているように思えるアキト。
「あついっ!」
 慌てて風呂から上がろうとするアイちゃん、やっぱり熱さ50度ぐらいで、リアクション芸人さんがお好みの温度の熱湯風呂に変化していた。
「ひっ」
 アイちゃんは首の後ろを押さえられ、一瞬で気絶させられた。
 この場合、対ユリカモードのように「激痛と恐怖を味あわせる」ためではなく、倒してしまえばよかったので、苦痛を感じる暇も無かった。
「ママッ! アイちゃんのぼせちゃったみたいよ!」
 今日もラピスの行動には恐怖しか覚えないアキトだった。

 その頃、いつものように別のコロニーにジャンプさせられ、負傷したまま路上に放置されたユリカは。
「へへっ、おじょうちゃん、どこから来たの? 迷子? おじちゃんが送ってあげようか?」
「きゃっ、いやっ、来ないで」
 もう複数箇所を骨折させられ、簡単な修復だけ受け、ズタボロのボロボロ、家での虐待、脱走、家出、火星でも居場所がなかったユリカは、ついにロリコンの変質者の餌食になろうとしていた。
「なんでえ? もうズタボロにヤられた後じゃないか、使用済みか、まあ今日は中古で我慢するか」
「いやああっ、さわらないでっ!」
 ユリカの紋様が光り、消耗しないチューリップクリスタルのペンダントを渡されていたので、見よう見まねでボソンジャンプで逃げるが、ユリカを掴んでいた漢を巻き込んでしまい、故意ではないが人生初の殺人を犯した。
「えっ? あっ、いやあっ」
 ラピスやアイが、この手の男を始末して、「石の中にいる!」にしてやったのを何度か見て来たが、まさか自分が同じことをする羽目になるとは思わず、証拠品を残したまま走り去った。

 後日、テンカワ家
 テンカワ夫妻に相談されているラピス(母)。
「以前お話しした通り、ネルガルは遺跡の独占を図ろうとしています」
「ですから、私達は遺跡を世間に公表して……」
 テンカワ夫妻はまた、遺跡の存在を公表しようとしていた、それが「人類のため」だと思っているのか、名誉欲によるものかは不明だったが、アキトにとっては迷惑な話だった。
「ええ、「私達」もご協力します、報道機関や学術誌など、顔の効く所に当たって見ます(ニヤリ)」
 表では協力を約束しながら、笑っているラピス(母)、ネルガルに対抗して発表してしまう事もできたが、遺跡を守っているラピス自身がそれを許すはずも無かったので、アキトの両親は双方から狙われる身となった。

『ヒトとは、大義名分さえあれば、どれだけ愚かな事でも平然と行う生き物です』
「やめて、アキトの両親を悪く言わないで」
 静かでも、怒気を含んだ言い回しに、しばし沈黙するユーチャリス。
『彼らもまたテンカワ・アキトと同じく、誰かの為なら自分の命をも投げ出す覚悟があるのでしょう、しかしそれは、残される子供の事を考えての行動なのでしょうか?』
 テンカワ一家の困った行動パターンを思い起こし、顔を歪めるラピス。
「多分、何も考えてない、アキト達は考えるより先に動いてしまうのよ」
『彼にしてもそうです、残される貴方の事を考えれば、軽率な行動は取れなかったはずです』
「いいの、もういいのよ」
 その話で少し胸のつかえが取れたような気がしたラピス。
 これまで自分はアキトにとって、ユリカやルリよりも下の存在だと思っていたが、アキトに限って誰かを助ける時、分け隔てをするとは考えられなかった。
(私は捨てられたんじゃない、誰も知らない場所に置き去りにされた犬や猫じゃない)
 それでもまだ心のどこかでは、捨てられた子犬のように、泣きながら飼い主を探し求める自分がいた。
(早く気付いて下さい、誰もが貴女を大切に思っていた事を、彼が貴女をより良い場所へ導こうとしていた事を)
 何かあるたびに、ラピスの心の傷を塞ごうとしているユーチャリス。
 しかしラピス達の決済と、オモイカネ達の計算結果では、人類に未来は無く、この時代、この軍事力の違いを利用して抹殺し、選びぬかれた善良な人類だけが僅かに残される手筈になっていた。
(私は貴方を苦しめるモノを許しません、それが例え彼の両親でも、テンカワ・アキト本人であっても)
 永い時を共に過ごし、ユーチャリスやオモイカネ達にとっての一番は、ラピスになっていた。

 引っ越し前夜
 予定通り、アキトが8歳の頃、ご近所のユリカちゃんは、両親の都合で地球に引越しする事になった。
 ユリカの犯罪歴、家出、虐待などなどは軍とコウイチロウが揉み消し、ユリカの母とは離婚の話し合いを始め、一旦地球に帰って身辺の整理をして、出世を選ぶか、問題の多い家族を切り捨てるかの選択が行われた。

 引越しが決まった後、ラピスに呼び出されるユリカ。
「誰も信じないでしょうけど、もし地球でボソンジャンプの事や、私達の秘密を喋ったら、貴方のママは病気が再発して助からないでしょうね、それと貴方は、水星の上で黒焦げになって、文字通り蒸発するのと、冥王星で氷漬けになるのと、どっちがいい?」
「おねがいっ、ママをころさないでっ、しゃべらないから、ゆるしてっ、もうゆるして~!」
 ラピスに抵抗できないユリカは、そう言って泣くしか無かった。
「フッ、人聞きの悪い事言わないで、誰も殺しはしないわ、私達の力の証拠を消していくと、貴女のママを治したナノマシンも消さなくちゃならないのよ、勘違いしないで」
 そのまま泣きながら帰って母親に問い詰められても、「脅迫された」とは言えず、「お友達とお別れして来たの?」と聞かれた時に、うなずく以外何もできなかった。

 出発当日、空港
「ここでおわかれだなユリカ」
 ユートピアコロニーに併設されている、空港のゲート前で、別れの挨拶をしているアキト。
「うん……」
 アキトの横にいるラピスが気になって、お別れのキスどころか、握手さえ出来ないユリカ。
「ユリカちゃん、これあげる、あたしたちだと思ってもってて」
「ありがとう、アイちゃん」
 アイちゃんから、ぬいぐるみを渡される。ラピスからだと怖くて受け取れないが、相手がアイちゃんだったので、油断して貰ってしまった。
「アイちゃんの大事な「ペットロボット」よ、大切にしてあげてね」
「うん」
 外側は既製品のおもちゃだったが、中身は精巧な部品に入れ替えられたペットロボット。
 それはユリカを監視し続け、夜中には寝ているユリカの上に乗って金縛りにしたり、ホログラフで幽霊を出したり、常時ユリカを恐怖のズンドコに叩き込む為の刺客であった。
 もちろん、ロボットの製品名は「リット君」で、お尻の部分には「乙姫むつみ」もとい、「イネス・フレサンジュ」と書いてあり、温泉で洗った時にだけ浮かび上がる、おしろい彫りになっていた。
 どうやら今後、主人公の声が同じなのをいい事に、女子専用温泉下宿なでしこ荘でもやる予定らしい。
「おれは、これをやるよ」
「えっ?これって、アキトのたからものでしょ」
 ゲキ・ガンガー人形を渡され、驚くユリカ。
「いいんだよ、おれには」
 そう言って、後ろの二人を見るアキト。
(ああっ! アキトが私の方を見てる、それはゲキガンガー人形が無くなっても、私がいるからいいって事なのね? そうよ、ついに私はあの人形に勝ったんだわっ! でももし「今日から、お前が俺の人形だ、さあ、どんなギミックが付いてるのか、調べさせて貰おうか」な~んて言われて、パンツまで脱がされて全部調べられちゃったりしたら…… ヒィイイイイイ!!)
 早速壊れちゃった一名以外にも。
(お、おにいちゃん、あたしたちをみてる…… もうあたしで「おいしゃさんごっこ」するから、あのにんぎょういらないんだ(///)。だったらこんどは「おちゅうしゃ」されちゃうかもしれないっ、い、いいもん、いたくっても、おにいちゃんがよかったら、がまんするもん!)

 以上、8歳の子供の妄想だったが、きっとアイちゃんを預かっている「養母」の教育が非常に悪かったに違いない。
 そしていつも通り。
(再生)「いいんだよ、俺には(ラピスって言う「玩具」があるからな、今日からはあいつを「いじくり回して」遊ぶ事にするよ、もうゲキガンガーなんて、おもらし女のユリカと一緒にお払い箱さ(ラピスが妄想している為)、さあ、今度のおもちゃは、どんな声で鳴くんだい?)」
「「「「「「「「あ、あああああっ!こんなっ、こんな声なのぉおお!違うのぉ…… でもこれは「おもらし」じゃないのぉおおっ!」」」」」」」」
 早速下着を脱いで、始めちゃう(何を?)大きなラピス達。

 ギャラリーがイっちゃってる間に、ゲキ・ガンガー人形を受け取り、手と手が触れ合って、優しい目で見つめ合う二人。
「やっぱりアキトは……」 
 しかし、アキトの後ろでは、現世に戻って来てユリカを睨む鬼女が立っていたので慌てて離れる。
、もし続けて「わたしのことが好きっ!」などと言っていたら、またどこか知らない場所に飛ばされて、泣きながら警察署を探すはめになる。
 もうこの頃のユリカは、近所でも有名な家出娘になっていたので、カードキャプターの最終回のような、ロマンチックな別れには成りえなかった。
「元気でね、ユリカさん」
 冷気が漂って来そうな声で囁かれ、背中に冷たい物が伝う。
「うん」
 既に泣いているユリカだが、これは悲しみの涙では無く、やっとラピスから開放される、喜びの涙だった。
「なくなよ、またあえるさ」
 ユリカ的には、アキトはともかく、ラピスとは一生会いたくなかった。
「休みになったら、ジャンプで地球まで行きましょうか?」
「え? ちきゅうまでいけるの、すごいや!」
 単純に喜ぶアキトだったが、ユリカは絶望的な表情で恐れおののいていた。
(まさか? やっとにげられるとおもったのに!)
「そんな、とおくてあぶないから、むりしないで!」
 何とかラピスが来るのを止めさせようと、必死になるミスマル大佐のお嬢さん。
「そうね、地球には行った事が無いからイメージできないし(フッ)、宇宙に出たら大変だから、ちゃんと船に乗って行きましょうか」
 ラピスはそう言っていたが、途中一度だけユリカを見て、口の端が笑ったのには気付いた。
(うそだっ、ちきゅうに行こうとおもったら、ぜったい行けるんだっ!)
 アキトと会わせない為に三人では来ないが、一人ならいつでもジャンプしてくるに違いない。
(私がしゃべったら、ママがしんじゃう!)
 母親を助けて貰ったと信じているユリカだったが、実際にはユリカの母も、命と引き換えにユリカ監視の道具に成り下がっていた。

『お客様にお知らせします、14時発、フォボスポート行きシャトルに搭乗のお客様は……』
 搭乗のアナウンスがあると、同僚との挨拶を済ませたコウイチロウさんが歩いて来た。
「さあ、そろそろ行こうか、ユリカ」
 ユリカパパに急かされ、発着ゲートに向かうミスマル一家。
「元気でな、ユリカ!」
「バイバイ、ユリカちゃん!」
「さようなら」
「うん、さよなら、みんな」
 後ろからラピスの刺すような視線に追われ、足早にゲートを越えて行。
 残りの二人は、その姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振っていた。
「寂しくなるわねユリカ、でも地球なら、もっと沢山お友達ができるわよ」
 何も知らず、元気の無い娘を励まそうとしている母だったが、ユリカは以前のような天真爛漫な娘では無く、長年の脅迫といじめにより、誰も友達が作れない気弱な子供になっていた。
「うん」
 それ以前に、友達が出来てうっかり話してしまい、母親と自分が死ぬよりは、いつも黙って誰とも近付かない生活をするのが一番安全だった。
 これからもまた、ユリカの人生は大きく変わろうとしていた。

 税関にて
 ユリカがペットロボットを抱えて通った時、アラームが鳴って係員に呼び止められる。
「お嬢ちゃん、ロボットを連れて行くなら、バッテリーを外してくれないかな、でないと地球に着くまで預からないといけないんだ」
「え?」
 テロ防止の為、火星でも電池の入った物は、機内に持ち込めないようになっていた。
「あ、あの、さっき、おともだちにもらったばかりだから、しらないの」
 もうこの程度でパニックを起こし、泣き出すユリカ。
「ユリカちゃん、僕のバッテリーは背中にあるんだ、おじさんに取って貰おうよ」
 突然アキトの声で喋り出すリット君。
「え? うん」
 その後も、ユリカのピンチは、リット君が助ける事になる。
 魔法のアイちゃんと一緒にいただけに、基本設計は「魔法少女のお供のぬいぐるみか淫獣」の系統らしい。
 バッテリーをイジェクトされ、ソーラーパネルの目を閉じて、休止状態に入るリット君。
「何だか眠くなって来たよ、ちょっと眠らせてね、その間、良かったら僕の名前を考えてて」
「じゃあ、アキト、ミスマル・アキト(ポッ)」
 やはり、あの恐ろしいラピスから自分の(だけ)を守ってくれたアキトは、ユリカにとって王子様だったらしい。
「うん、僕の名前はアキト…… じゃあ、お休み」
「おやすみ」
 税関では、その微笑ましい光景を見てなごんでいたが、再びユリカがゲートを通る時、職員の数名が「ニヤリ」と笑うロボットを見て凍り着いていた。
(バッテリー無しで、どうやって動いたんだ、いや、バックアップ電源で、人工筋肉が痙攣して……)
 本来、セキュリティ上、問題があったはずだが「子供が持っているペットロボット」として見過ごされ、通関してしまったアキト君。
 最も危険なロボットが、何事も無く地球に輸出されようとしていた。
 
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