俺達は何を求めて迷宮へ赴くのか
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もうちょっとだけ続くお蔵入りネタ集
前書き
何故か日間2位という過去最高の場所に来たので投稿。(H30.5.24)
喋り忘れていた気のする話① オーネストの容姿
何で物語の中で大半の人がオーネスト=アキレウスだと気付けなかったのかという話を誰もツッコんでくれなかったので大変寂しい思いをしたのですが、これにも一応理由があります。10歳の時のオーネスト(旧アキレウス)は、現在のオーネストと違って碧い瞳に茶髪の少年でした。しかし例の事件があり、養母であるテティスに神の血を注がれたせいでオーネストの魂が変容。更に事件後に世界最低レベルまで治安が落ちたオラリオの裏道から脱出できないままもがき続けたオーネストの体は1週間に1,2回は死にかける生活を送っていたため、肉体がどんどん破壊されては新生を繰り返すうちに、外見が混血となった魂に引っ張られる形で変質していったのです。
作中でも何度か言及した気がしますが、オーネストは異常なまでの美形です。で、その理由が魂の変質。もしオーネストがアキレウスのまま普通に育っていればそれはそれでイケメンにはなりましたが、テティスの力が混じったオーネストの顔は骨格の成長にも多少影響が出て、テティス(言わずもがな超美人)の姿に引っ張られています。そのせいで成長するにつれてオーネストの顔からアキレウスの面影は消えていき、今ではエルフでさえ美形だと思う程の容姿へと変化してしまっています。
ちなみにオーネストの肉体に傷跡は一切ありません。存在における魂の割合が強すぎる為、肉体が魂に引っ張られて最終的に傷をなかったことにしてしまうからです。オーネストが自傷的な戦い方をする理由の一つです。幾ら傷ついてもなかったことにしようとする小綺麗な体が気に入らない、ってな所です。
喋り忘れていた気のする話② オーネスト、オートモード
オーネストの体に注がれたテティスの血は、オーネストの命を保ち、オーネストの傷を癒し、しかし本質的にはオーネストを戦いから遠ざける為に作用しています。オーネストの異常な再生能力の代償として伴う痛みは、痛みを忌避して欲しいというテティスの願いの一部の具現でもあります。そしてオーネストも知らないテティスの最後の切り札が、オーネストの自動自己防衛システムです。
これは単純な仕組みで、オーネストの心や環境が完全に戦えない状態になった際に自動的に発動し、オーネストの肉体を動かして敵を退けながら生存するよう行動させるというものです。ちなみにオーネストはそのシステムの存在にはあまり気付いておらず、ただ自分の向死欲動に向かっているのに上手くいかないものと思っています。過去に意識のないまま黒竜の顎を蹴り飛ばしたのも、このオートモードのせいです。
逆に、そんなものの存在に気付かないオーネストという男はこのオートモードを発動させたことが殆どなかったりします。そうまでしてオーネストに生きて欲しかったテティスですが、オーネストにとってそれは呪いに等しいものでもあったのですね。
前回の続き。
戦闘能力の低いフーは防具を作ることでしか周囲に貢献できない事を自分でよく理解していました。そして最終決戦で自分が本当に出来る事とは何かを考え、禁断の発想に至ります。
それは今までしてこなかった剣を打つこと。それも並大抵の素材ではオーネストもといアキレウスの戦いについていけない。ならばそれを作るための素材は究極の素材――黒竜のマテリアルに外なりません。魔物の素材を武器に転用することはよくある事ですが、それが黒竜となると人類の誰一人として経験したことのない加工となります。
フーはシユウ親方に許可をもらい、専用の工房に籠って剣を打ち始めます。しかしそれは地獄の始まりでした。黒竜の素材はそれ自体が神を殺すための呪いの集積体、つまり呪物です。近くにいるだけで人を狂わせるそれを直接手にして加工するフーの精神に想像を絶する負荷が襲い掛かります。
幻覚、幻聴、発熱。激しい神経の痛み、或いは無痛状態という異常。優しかった筈の性格も狂暴性や残虐性を頻繁に思い浮かべるようになり、食事を運んでくれるミリオンが「もうやめた方がいいんじゃない?」と本気で心配する程に身も心もボロボロになっていきます。
しかし、フーの心の底にはいくら自分が限界に近づこうが決して譲れない鋼のように重く硬い信念が横たわっていました。オーネストの為の剣を打つ。オーネストが叶えたいあらゆる我儘に最後までついて行ける、世界で最も気高く鋭い剣が欲しい。
誰かの為に想いを込めて武器を作る。シユウ・ファミリアの最も基本である精神だけを支えに、半ば自分が何をしているのか分からなくなりながらフーは命を削るような鬼気迫る勢いで剣を打ち続け――数日後、剣の完成と同時に力尽きるように倒れました。
ほぼ飲まず食わずで呪いに耐えながら職人としての全てを出し切ったフーの顔は、晴れやかでした。ちなみにこの後フーのファンたちが彼を看病して二日後には目を覚ましました。
出来上がった剣は、光を吸い込むような全く光沢がない片刃の刃。
形状はどこか歪で、どこか原始的でありながら完成された印象の造形でした。
完成した剣を受け取ったオーネスト曰く、「これを剣の形状にするには一人でバベルを建築するぐらいの精神力が必要」、「普通なら完成より前に気が狂って自殺するか、完成した後に剣の呪いにあてられて殺人鬼になる」、「フーのレベルはこれを完成させた時点で既に一つ上がっている」、「人類史に残る最強かつ最悪な武器で、多分今の時代だと俺以外には扱えない」とのこと。
「銘はどうしよう」
「付けるな。付けてはならない」
「え、何で?」
「黒竜の体の一部を凝縮して作った剣だぞ。形ある呪いと言っていい。もしこんな代物に名前の一つでもつけてみろ、その名前は後の人類史で永遠に『呪いの言葉』となるぞ。口にするだけで呪われる忌み名だ」
「……コトダマってのかな。私もアズからそういう話は聞いたことがある。でもそうなら、真の名をつけられない為の名前が必要だね」
「名のない剣。無銘、では不適格か………とりあえずは、『アザナシノツルギ』とでも呼んでおく」
『アザナシノツルギ』――性質は、万物を呪い滅ぼす神殺しの剣。
オーネストは、最強最悪の矛を手に入れました。
その頃、ヘファイストスは悩んでいました。オーネストを守るための究極の装備を作りたい。でもオーネストにとって鎧は邪魔、武器は既にフーが作っているしその他の細かな防具もフー任せとなっている以上、自分に出来ることとは何なのだろうか。
そんな折、天界よりテティスから手紙が届きます。地上廃滅と天界そのものの存亡の危機ということで、本来なら手紙さえ送ることは許されないのですが、例外的に認められたということでした。その手紙には色々な想いやこの手紙をオーネストには知らせないこと、ヘスティアの分まで手紙が許されなかったのでよろしく言っておいて欲しいなど、さまざまな事が書かれていました。
そしてその中に、まるでヘファイストスの心を読んだようなメッセージがありました。
『アキレウスは優しい子だから、本当は自分を守るより仲間を守っていたいと思うの。だから、そんな防具を作ってあげて。今度こそ手が届くように』
テティスはヘファイストスにとっては育ての親。オーネストの事が分かるように、ヘファイストスの考えることも理解していたのです。このメッセージにヘファイストスは自分の作るべきものを悟ります。
オーネスト・ライアーの強さの歴史とは、実際には敗北と喪失の歴史でした。幾度も負けては生き延び、幾度も守りたいと思っては守れず、敗北に敗北を重ね続けた結果出来上がったのがオーネストの普段の戦闘スタイルです。一人で暴れ狂い、一人で死ぬための戦い方です。
ヘファイストスは、盾を作りました。
おおよそ考えうる限り、オーネストが最も必要としないであろう防具です。
しかしその盾は、オーネストの体に流れる力に同機する特殊な神聖文字が刻まれていました。
「これは?」
「触れてみて」
その円形の盾にオーネストが触れると、盾は光り輝いて一人でに浮き出しました。更にその盾はオーネストの意のままに動き回り、実体のない障壁として多重展開されました。通常の人間ならば決して不可能ですが、テティスの神血を受け継いでいるオーネストならば使いこなせる反則級オーパーツ。同時に多くの人を護るための盾です。
これにはオーネストも流石に予想外だったのか、「重力を無視した独立兵装……?」と唖然としていました。
「これは貴方の知る、貴方の世界――貴方と人とのつながりを世界として、それを守る事に特化させた盾。手に持つ必要はない。助けたいと思うだけでいい。投擲武器代わりにも使えるけど、その盾は唯一自分だけは護れない。何故ならそれは、他の誰かを護るためだけの盾だから」
自分を護れない盾など、盾ではない。しかしオーネストと護りは致命的に噛み合わない。だからこそ本来はあり得ない、自分は護れず他人だけを護る盾としました。オーネストはそれに気付き、そしてこれからの戦いが「アズを助けるための、何も失わずに勝つ戦い」であることを再確認し、ヘファイストスに頭を下げました。
「ありがとう。こいつで今度こそ……守りたい奴全部守って勝利するよ」
なお、この後鼻血出しそうなくらい喜んだヘファイストスに猛烈にハグされたオーネストはものすごく迷惑そうな顔しながら「今回だけは甘んじて受けるか」と気が済むまでやらせてあげたのでした。
= =
『時は来た』
「時間だ」
『これより我らは神話の時代と永劫に決別し、人の法を敷き、人の世を創生する』
「これより俺たちは、誇大妄想のイカレ共を徹底的に叩きのめし、俺たちの未来を奪い取る」
『その為に絶対の障害となるオラリオとダンジョン。是を衛星兵器『繁栄を終焉せしめるもの』にて跡形もなく消し去る。それこそが創生の最先となる』
「その為にまず、クソ共の作ったクソ兵器の衛星爆撃を防がなきゃならん。業腹だがな。バベルを改造した急拵えの障壁で受け止めきれなきゃそこで負ける。本当に業腹だ」
『これまで僕に付き従い、惜しまぬ努力と新たなる夜明けへの情熱を注いでくれた諸君。これは宣戦布告であり、最終決戦でもある。例え『繁栄を終焉せしめるもの』を地上の醜い神の尖兵共が乗り切ったとして、しかし我らの方針に変更などない。徹底的に古き穢れを漂白し、人類に仇名す『魔王』諸共粛々と圧潰せしめるのだ』
「こんな頭の悪い賭博にこれだけの人間や神が参加した事に、正直少し喜んでいる。命より大事な物の為にどこまでも愚かになれる存在こそ、今を生きる存在ということだ。だから究極的にはバベル障壁があろうがなかろうが、やることは変わらない。無論、臆病風吹かせて逃げても俺は一向にかまわん。俺のやることは変わらない。潰して勝って手に入れる。それだけだ」
『地を見よ、あの神々の欲望が構成した薄汚い盆を見よ。あれが敵だ、滅ぼされる運命のものだ。乗る建物も神も人も、全てが人の世界の贄となる。そして地上の全ての魔物を贄として喰らい尽くし、天界を追放者とし、流れる膨大な膿を絞り切った果てに待つもの――それこそが人の歴史。人歴である。人の遍く可能性を、自らが絶対者と驕った神々とそれに毒された哀れな民にしろしめしてあげようではないか』
「上を見てみろ、重役出勤のテロリスト共のお出ましだ。太陽の位置のお陰かここからでも見える。見下ろしやがって腹が立たんか?高尚な目的に唾を吹きかけてやりたくないか?勝手な理屈で滅ぼされてやる程俺たちは『おりこう』か?――違うよな。あんな訳の分からん連中の夢見る『未来』なんぞ俺たちは欠片も興味ないし、邪魔なら潰す。それがオラリオ流って奴だろう」
二人の男が、睨み合った。
二つの意志が、同じ場所に集った。
なれば、起きる事など一つを於いて他になく。
『聖戦を開始する!!各員、神の支配なき未来へと向けて狂奔せよッ!!!』
「これから『いやがらせ』の始まりだ。低俗な喧嘩の始まりだ。連中の上手くいくと思っている事、その悉くを泥に塗れた薄汚い靴で踏み躙ってやれッ!!」
ここに、最終決戦の火蓋が切って落とされた。
後書き
チクシュルーヴ=白亜紀末期にユカタン半島に堕ちた小惑星。
この小惑星落下こそが恐竜絶滅の直接的要因であるという説が根強い。
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