死の印
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第二章
「同志レーニンの決定でだ」
「その書類に載っている名前の者をですか」
「全員ですか」
「粛清する」
そうするというのだ。
「いいな」
「左様ですか」
「今度はその者達の粛清ですか」
「では全員捕らえ」
「そのうえで」
「いつも通りだ」
逮捕令状も裁判もなく、というのだ。
「粛清する、いいな」
「わかりました、それでは」
「その様にしましょう」
「その書類の者達を全てです」
「粛清します」
「その様にな」
こうしてだ、書類に名前が載っていた者達は即座に処刑された。一人も助かることはなかった。
だがこの粛清の後でだ、レーニンはジェルジンスキーからの報告、その書類を持ってきたうえでのそれを聞いてこう言った。
「そうだったのか」
「はい、全員の粛清完了を確認しました」
ジェルジンスキーは極めて冷静に答えた。
「その様に」
「わかった、だがな」
「だがとは」
「その書類は粛清を命じたものではなかった」
レーニンもジェルジンスキーに冷静な顔で返した。
「私は実はだ」
「はい」
「見た書類には×のサインを入れる様にしている」
「そうだったのですか」
「自分で見たという確認の為にな」
「同志レーニンの癖ですか」
「そうなる、決裁はまだだった」
こうジェルジンスキーに話したのだった。
「どうするかはな」
「左様でしたか」
「しかしいい」
レーニンはジェルジンスキーに素っ気なく返した。
「この件はな」
「決裁を経ておらずの粛清でも」
「革命には行き過ぎは付きものだ」
だからだというのだ。
「多少こうしたことがあっても構わない」
「では私の不始末になりますが」
「不始末でもない」
やはり返答は素っ気ないものだった。
「行き過ぎに過ぎない」
「そういうことですか」
「付きもののことだ」
革命にはというのだ。
「むしろ同志にはこのことで怯まずにだ」
「これからもですね」
「反革命分子の粛清を頼む」
これがレーニンの言葉だった。
「そうしてくれるか」
「わかりました」
そしてこれがジェルジンスキーの返事だった。
「それではこれからも」
「革命にそぐわない者はだ」
「行き過ぎがあろうとも」
「粛清していってくれ」
「ソビエトの為に」
「そうだ、革命の為にだ」
是非にと言ってだ、レーニンはこの件についてジェルジンスキーを一切責めなかった。それは彼が死ぬまででありむしろ褒め称えていた。
ジェルジンスキーは死ぬまで秘密警察を率い革命、そして共産主義に従わない者を無実であろうとも粛清していった。そのうえで世を去ったが。
その名は人類の歴史に残っている、この書類の件も。今現在は多くの者から極めて否定的に評価されているがそれは今だからであろう。当時の人物そしてレーニンの彼への評価はまた別だったのだ。それだけのことである。
死の印 完
2017・8・14
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