シークレットガーデン~小さな箱庭~
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立食パーティー編-4-
床にへたり込んだまま無言で向かい合うルシアとムラクモ。二人の姿にみかねたように
「どうかされたのですか」
演奏をやめて紫龍が彼らの元へやって来てくれたのだ。
素敵な演奏が消えて、楽しんでいた招待客達はひそひそと文句を囁き、冷ややかな視線をルシア達へ送る。
「……紫龍さま」
ずっとそっぽを向いて視線を合わせてくれなかったムラクモは上司がやって来たので、仕方なくといった感じでやっと視線を合わせてくれた。その表情は悲し気なもので、今にも泣き出してしまいそうなものだった。
「ごめんなさい……私……また……」
発せられた声はどんどん小さくなってゆき最後の方は何を言っているのか全然聞き取れない。
瞳には大粒の雫がにじみ出てきている。うーと小さくあげる呻き声。その姿は猛獣に狙われた小動物のようで護ってあげたくなる。
「ムラクモさん。今貴女がすべきことは、私に謝ることなのですか?
貴女には他にすることがあるのではないですか?」
「えっ…?」
そう紫龍に言われ改めて辺りを見渡すムラクモ。そしてようやく気がついた。自分に招待客達の冷たい蔑むような視線が無数に突き刺さる刃の如く飛んできている事を。
びくびくと震えるムラクモを可笑しくそうに笑い、それに陰口をたたき食事のおかずとして楽しむ貴族様。
「あうあう~!! ごっ、ごめんなさーーーい!!」
いたたまれなく、もうどうしたらいいのか分からなくなったムラクモは、大きな声で叫ぶと、立ち上がり走って会場の外へと出て行った。いや逃げて行ったと言った方が正解か。
逃げてゆく部下の背を見つめ、上司の紫龍は大きな溜息を一つ吐いた。
「申し訳ありませんルシアさま。すぐに使いの者に着替えを持ってこさせるので、あちらの部屋でお待ちくださいませ」
やれやれと首を振るうと紫龍は溜息混じりの呆れた口調で言った。手のひらで指し示しているのは、会場の西側にひっそりと死角になる場所にある樫の木で作られた分厚い扉。
扉を指し示した手とは別の手をルシアに差し伸べ、ルシアはその手を掴みゆくっくり立ち上がる。すっと腰に手を回し、慣れた手つきで控え室まで案内し終わると
「会場のお客様をこれ以上待たせてはいけないので、私はこれで……」
紫龍はにっこりと微笑み深々とおじぎをし、部屋を出て行ってから数分後、またあの眠りを誘うような心地のよいピアノ演奏が聞こえてくる。同時に盛大な拍手と盛り上げる招待客達の賑やかな笑い声が聞こえてきた。不機嫌だった貴族様達のご機嫌はあっさりと治ったようだ。
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