DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~
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俺たちのように
「ストライク!!バッターアウト!!」
『綺羅速い!!高坂に続き星空もストレートで空振りの三振!!すごい!!これはあまりにも凄すぎる!!』
ここはとある球場のロッカールーム。そこにいる青年は汗を拭いながら、同じユニフォームに袖を通す男たちと試合を観戦している。
「すげぇな、お前の妹」
「ほとんどチートみたいなもんじゃねぇか」
その試合を観ていたのはツバサの兄、綺羅光だった。
「確かにすごいですけど・・・危ういですよね」
「まぁ・・・確かにな」
マウンド上で表情を変えることなく投げ続ける少女を険しい表情で見つめる兄。2アウトから迎えるクリンナップ。その初球、投げ損ねたのか127kmのストレートをフェンス直撃打にされる。
「うげっ!?マジかよあの当たり!!」
「危なかったな」
あわやホームランといった当たりに驚愕の声が漏れるロッカールーム。スタンディングツーベースとした塁上の真姫に思わず拍手を送る。
(あんなピッチングじゃ間違いなく負けるぞ。まぁ、俺が言えたことじゃないけど)
決勝の舞台で我を見失い大乱調をした自分を見ているのような気分になる。続く大きめの少女と対峙する妹を真剣な眼差しで見つめていた。
「セカンド!!」
「任せて!!」
ボテボテのセカンドゴロを難なく捌き一塁へと送る。これでスリーアウトとなりチェンジとなった。
「ナイスピッチ!!」
「サンキュー」
グラブを合わせて選手たちと声を掛け合うUTXナイン。その様子を見ながら守備につこうとした穂乃果を剛が呼び止める。
「穂乃果」
「はい?」
「これ以上花陽にダブルスプリットを投げさせるな」
「え?」
厳しい表情でそう言う指揮官にキョトンとした顔を見せる。
「でも、ダブルスプリットがないとツバサさんを打ち取るのが・・・」
「あいつを俺たちのようにするつもりか?」
その言葉に思わずビクッと体が震える。かつて天才と言われた彼も今ではその姿を見せることができない。絶望的なケガをしてしまったことで苦しい想いをした彼のその言葉は、心に重くのし掛かった。
「わかりました」
「頼むぞ」
大きくうなずき守備に付く。投球練習を終えると、打席には4番のあんじゅが入る。
(ダブルスプリットはもう使えない。これであんじゅさんを打ち取るなら・・・)
まずはスライダーでカウントを取りに行くことにする。これを遠く感じたあんじゅは見送り1ストライク。次はストレートを内角に入れるが見送りボール。
(高速スプリット。これでゴロを打って!!)
ダブルスプリットと共に孔明から教えられた高速スプリット。花陽もこれにうなずき投じようと腕を振る。
ピキッ
「うっ!!」
リリースの瞬間肘に痛みを感じ表情が歪む。彼女の手から放たれたボールは、真ん中への棒球。
(え?何この絶好球!!)
カキーンッ
高々と打ち上げられた打球。ライトポール間際へと伸びていく打球を海未が懸命に追い掛ける。
「入って!!」
好投を続けるエースのため。そしてここまで勝ち続けてきたプライドのために叫ぶ。だがその想いはわずかに届かずフェンス上段へと当たった。
「もう!!なんでよ!!」
全速力で一塁を蹴る。海未はクッションボールを拾い中継に来ている凛に託す。
(園田さんは肩を痛めてる!!つまり中継の星空さんの後にもう1枚入れるはず!!)
彼女の読み通り凛はかなり深いところまで追いかけてきていた。あんじゅはそれを予測し脇目も振らずに二塁キャンパスを蹴る。
「凛!!3つ!!絵里!!もっと左よ!!」
「ニャニャ!?」
かなり深いところまで来ていたことで遠投になった凛。ショートの絵里も二塁ベース付近でそれを中継し三塁へと送る。
際どいタイミング。にこがベースを跨ぎボールを受け取りタッチする。
「セーフ!!」
「よし!!」
だがそれよりも速くあんじゅの足がベースに到達した。ノーアウト三塁。大きなチャンスを掴み取った彼女は両手を叩きガッツポーズする。
(よく走ったな、あいつ。スクイズで一点取ることもできるが、指揮しないって言っちまったからな)
ここからどうやって点数を取るのか見届けようとしたところ、フィールド内にいる2人が自分を見ていることに気が付く。
「監督。指揮をお願いします」
「「「「「お願いします!!」」」」」
全員で頭を下げるベンチ一同。ツバサはブルペンにキャッチボールをしていたためいなかったが、選手たちの願いを退けるのは気が引ける。
(できるならタイムリーが理想だ。初球は外す確率が高いし、まずは自由にいけ)
ダミーサインを送り2人にこの場面を任せる。案の定初球をバッテリーは外し1ボール。続く2球目は外へ逃げていくスライダーを空振り1ボール1ストライク。
(仕掛けるならここか。スタートは遅らせろよ)
三塁走者のスタートを遅らせて外されるリスクを低くする。ただし打者は確実にライン際に転がさなければならない。
(今の空振りを見ればもう1球スライダーだろ?なんとか当ててくれ)
恐らく大きく外に逃げていくことはないと腹を決める。サインに頷いた花陽が足を上げ下ろし始めたところであんじゅが駆け出した。
(スクイズ!?)
予想していなかった穂乃果は慌てて腰を上げる。花陽が投じたのはなんとストレート。
(真っ直ぐ!!高めだけど転がせる!!)
高めへボール気味のストレート。釣り球のつもりで投げたのだろうが、ここはバントするには十分手が届く。
コッ
うまく転がした打球。勢いも殺して一塁ライン際へと転がる。
(やられた!!いや!!これは・・・)
完全に決まったかに思えたスクイズ。だが打球の勢いが死にすぎていた。キャッチャーの穂乃果が飛び出して拾える距離。それをすぐに判断するとボールに素早く回り込みホームへ戻る。タッチに飛び込む穂乃果。それを掻い潜るように滑り込むあんじゅ。交錯した二者。彼女たちはどちらが速かったのかわからず審判を見上げる。
「アウト!!アウト!!アウト!!」
拳を高く掲げ高らかにコールする。その判定にあんじゅは地面を叩き穂乃果は大きくガッツポーズする。
『高坂素晴らしい反応を見せました!!あわや失点のピンチを素早い判断とケガを恐れぬ果敢なブロックで見事防いだぁ!!』
完全に決まったかに思えたスクイズをなんとか凌いだことで球場中が沸き上がる。
(これで1アウト一塁。打順は下位に向かっていくから、次で送ってその次で勝負はない。一番の理想はゲッツー。最低でもランナーを進塁させないでアウトカウントを増やしたいから・・・)
すっかり捕手としての状況分析能力が身に付いた穂乃果はタイミングをずらすべくまずはナックルを要求する。甘くてもいいからストライクへと攻めると、打者の加藤は泳いだスイングでゴロを打ってしまい、ショートへの平凡なゴロになる。
「絵里ちゃんこっち!!」
「凛!!」
捕球してすぐさまベースカバーに入った凛へトスをする。胸元へと上げられたボールを捕球し、すぐさま握り変え一塁のことりに送球する。
柔軟に自信のあることりは地面に付くほどに足を広げると、凛からのストライク送球を楽々キャッチした。
「アウト!!」
ゲッツーでこの試合最大のピンチを切り抜けたμ's。これに三塁側スタンドは盛大な拍手を送り、一塁側スタンドからは大きなタメ息が漏れていた。
『全国女子高校野球選手権大会決勝戦!!今までにない白熱した試合が続いております!!7回の表を終わりいまだ0対0!!果たして先に先取点を奪うのはどっちなんだぁ!!』
実況席も素晴らしい好ゲームに大盛り上がり。このまま延長戦、それどころか引き分け再試合すら考えられる熱戦となった決勝戦。しかし、それゆえにわずかなミスが試合を大きく分けることになることを、球場にいる誰もわかっていなかった。
後書き
いかがだったでしょうか。
次はにこからの打順です。それにしてもにこがクリンナップって・・・やっぱり異質ですね「ぬぁーんでよ!?」
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