DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
増幅
カキーンッ
ピッチャーの脇を抜けセンター前へと転がるボール。打った少女は一塁を回ったところで止まり、ガッツポーズしながらベースに付く。
「うまいな、あの6番」
「希ちゃんって言うんですよ、孔明さん」
5回の表を三振、ライトフライ、ショートゴロで三者凡退に抑えた音ノ木坂はその裏、先頭の希が甘く入ったスライダーをセンター前へと運び出塁する。
(ツバサの奴ダメだな。ストレート以外はまるで気合いが抜けている。これじゃあ監督が何のために声を荒らげたかわからないな)
次の海未はすでにバントの構え。ここは素直にやらせようとストレートを真ん中に要求する。
ビシュッ
(速い!!)
勢いよく投げ込まれたストレートにバットを引いてしまう。だがその速度に追い付かず打球はピッチャーへの小フライ。進塁させることができなかった。
(132km・・・見た目以上に速く感じてるのか?)
徳川の好意により150km超えのストレートを見た彼女たちでもまるで合わない速球。彼女のストレートの伸びに目が付いていってないように見える。
(いつも通りカット狙いで攻めてけ。見極められれば打てるぞ)
バントではなく強行策に打って出る。初球ストレートでストライク、次はスライダーでボール。3球目のストレートをカットし1ボール2ストライク。
(これだけ力があればストレートで押せるか。ただ、際どく頼むぞ)
カットを狙ってきてるならと内角を要求する。ツバサはクイックからそれを投じると、ことりは振りに出ようとするが、バットが振り切られる前にベース上を通過した。
「ストライク!!バッターアウト!!」
見たこともないような速度にスタンド中がスピードガンを見る。そこに映し出されていたのは、135kmの文字。
「甲子園に出る奴等と大差ないぞ。ドーピングでも使ってんのか?」
苦笑いをせずにはいられない剛はそんな冗談を言ってみる。次の9番の花陽がこのボールに当てられるはずもなく、三球三振に倒れた。
「花陽。3順目に入るからな。丁寧に行けよ」
「は!!はい!!」
バットからグローブに持ち変えてグラウンドへと駆けていくエース。この回は9番からだが、先頭には英玲奈が入っている。気を抜いている余裕はない。
ガキッ
鈍い音でサード前にボテボテの打球が転がる。これをにこが難なく捌き一塁へ転送。1アウトとする。
(3順目だ。そろそろ頼むぞ、英玲奈)
ベンチから厳しい視線を向ける西村。英玲奈は比較的リラックスした様子で打席に入ると、足場を慣らしバットを構える。
(英玲奈さんから全然気迫を感じない・・・何を狙ってるかわからない)
闘争心剥き出してくるならわかるが彼女からはそのプレッシャーを一切感じない。これには穂乃果も困惑し、剛に助けを求める。
(ダブルスプリットを使いたいがあれは肘が怖い。何を狙ってるかわからない以上、迂闊に入るわけには行かないだろう)
初球は外角に外れるストレートを要求。ボール二個分ほど外れた球。穂乃果はそれをキャッチしようとすると、目の前で何かがその白い球体をかっさらった。
カーンッ
「ライト!!ボール3つ!!」
流し打ちで右中間を破る。海未と希がこれを懸命に追いかけ、英玲奈は全力疾走で先の塁を狙う。
「凛ちゃん!!」
「任せるニャ!!」
フェンスから凛に素早くボールをパスすると、彼女は振り向き様に三塁へと大遠投。これを見て英玲奈は自重し、ツーベースで食い止めた。
(やられた・・・様子見のストレートを持っていかれるとは・・・)
読み負けた剛は悔しそうに歯を噛み締める。1アウト二塁。ここで打席に入った越智はバントの構え。
(送るつもりか?ツバサのあのスイングじゃ今日の花陽は打てないだろう)
バントをするならやらせてしまえ、そう指示をした初球。花陽が動いたと同時にバットを引く。
カキーンッ
「ファースト!!」
バスターで外角のストレートを完璧に捉えた越智。しかし運悪く打球はことりの正面。走者を進塁させることはできたが、これて
2アウトとなった。
『3番、ピッチャー綺羅さん』
打席に入ったツバサ。彼女はベンチに一瞥もくれることなく構える。
(またフルスイングしてくるなら高速スプリットで詰まらせちゃお)
ストライクからストライクへの高速スプリット。花陽は腕を思いきり振る。
カキーンッ
「「「「「!?」」」」」
快音を響かせ打ち上げられた打球。守備につくμ'sはその打球の行方を見送ると、ライトポールのわずか数cm横を通りすぎる。
「ファール!!」
ギリギリでファールとなり安堵の息を吐く。それでもホームラン性の当たりに穂乃果はボールを受け取り花陽の元へ駆けていく。
「ビックリしたね」
「うん。まさかあんなに飛ばされちゃうなんて」
当たれば飛ぶといった考えでいいのか、危険な打者と認識した方がいいのか。
「ダブルスプリット、解禁するよ」
「うん!!任せて」
2回へのあんじゅ以降封印してきたダブルスプリットをここで使用することにしたバッテリー。手短にサイン交換を済ませると、花陽は三塁走者を目で牽制し、投球する。
(来た!!ダブルスプリット!!)
手を離れた瞬間に来たとわかった。狙い定めていたボールをフルスイングすると、バットの先に当たりファールグラウンドへと転がる。
(当てられた?ダブルスプリットが?)
そう簡単には捉えられる変化ではないことは受けている彼女が一番わかっている。初見で決め球に当ててくるそのセンスには脱帽せずにはいられない。
(他のボールじゃ持っていかれる。でもダブルスプリットも次は持っていかれるかもしれない・・・どうしよう・・・)
歩かせた方がいいのか迷っていると、サインを待っている少女の目を見て、決心がついた。
(絶対止める。ワンバウンドのダブルスプリットを頼むよ)
ワンバウンドのダブルスプリット。パスボールのリスクは跳ね上がるが、これ以外に彼女を抑える方法はない。
(行くよ、穂乃果ちゃん)
(来て!!花陽ちゃん!!)
足を通常の高さに上げて投じた3球目。ツバサは果敢にこれも打ちに行くが、予想よりも落差のあるボールにバットが追い付かず空振り三振に倒れた。
「ナイスキャッチ!!穂乃果ちゃん!!」
「花陽ちゃんもナイスボール!!」
あわやの当たりから何とか切り抜けたバッテリーはグラブを合わせて喜びを分かち合う。捉えきれなかったツバサは奥歯を噛み締め、2人を睨み付けていた。
「ツバサ、惜しかったわよ」
バッターボックスで動かない彼女の頭にグローブと帽子を乗せるあんじゅ。彼女はお礼を言ってマウンドに向かうと、投球練習を開始する。
(ダブルスプリットに当てるなんて、やっぱりツバサはすごいわ。でも、先に打つのは私よ)
彼女がすごいのは認めるが、自分にもプライドというものがある。ライバル心剥き出しの彼女の視線を受けつつ守備についたツバサは、打席に立つ穂乃果を見据える。
(ダブルスプリット・・・私には修得できなかった。でもね・・・)
バシッ
初球134kmのストレート。穂乃果はこれに振り遅れ1ストライク。
次の2球目は高めへの釣り球。だがあまりの速さに穂乃果は手を出してしまい2ストライクと追い込まれる。
(132km・・・でも横から見ててもわかる。スピード表示より明らかに速い!!)
打席に立たなくてもわかる彼女の脅威に険しい顔を見せる。
(次もストレート。絶対打つ!!)
もう何が来るのかはわかっている。それなのに・・・
バシィッ
「ストライク!!バッターアウト!!」
穂乃果のバットは空を切るしかなかった。
(このストレートは、私しか投げれないのよ)
投手としてのプライドで力を増幅させていく。彼女の進化を見て、スタンドの孔明は笑みを浮かべていた。
後書き
いかがだったでしょうか。
次からはいよいよ終盤戦に突入します。イニング的には。
ページ上へ戻る