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シークレットガーデン~小さな箱庭~

作者:猫丸
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立食パーティー編-2-

「ドレスにタキシード? もちろんあるけど。え? キミ達が着るの?
 まあ、ガキの頃着てた奴もとってあるから、そうゆうのなら切れるかもしれねーな……でもなんで急に必要なんだよ?

――ドルファフィーリングが主催のパーティーねえ……当然俺も行っていいんだよね? ル・シ・ア君っ」

 リアの家に到着後、そんなやり取りがあってその日の晩。迎えにあがったムラクモと一緒に宿の前に止まっていたリムジンに乗り込み数十分。

「人がいっぱいだねー」

 辿り着いた。港町であるゼルウィンズには似つかわしくない建物。何百メートルあるのだろうか、見ているだけで首が痛くなる高層ビル。ドルファフィーリングの支社だ。

 玄関口にはルシア達が乗っているリムジン以外にも沢山の黒く光沢が光る高級車が止められている。車の中からは、狐など動物の毛皮を贅沢に使ったファーを首にかけている貴族様や、色とりどりの宝飾品を身に着けある意味虹色に輝いている王族が運転手兼執事に手伝われながら降りて来て、レッドカーペットの上を威風堂々に歩き吸い込まれるようにビルの中へ入って行っているようだ。

 ルシア達は知らない人たちばかりだったが、貴族様王族を一目でも見ようと集まって来た野次馬達がざわざわ騒ぎ立てている。

「おいあれって七賢者さまじゃないかっ」
「あちらにいらっしゃるのは、山の国のラナ姫よ! キャーー目が合ってしまったわ」
「その後ろから歩いて来るのはリヒト様だぞ! おお……やっぱり大富豪の息子様は色々得なんだな……」

 どうやらかなりの有名人ばかりが参加しているそうだ。だが呼ばれている名前のどれもこれも知らない名前ばかりだった。政治に無頓着過ぎたか?

「中へどうぞ。此処にいてはいい見世物になってしまいますよ?」

 ムラクモなりの気遣いか。確かに此処に居れば集まった野次馬達、貴族様や王族のゴシップを狙う腐った記者達にあらぬ疑いをかけられたりして面倒事に巻き込まれてしまうかもしれない。
貴族様王族しか招待されていないパーティーにルシアのような田舎出身感丸出しのおのぼりさんが呼ばれるなんて本来は絶対にありえない事。良い話題のネタとされるまえにさっさとお暇したほうが身の為しれない。

 前を歩くムラクモの後に続きルシア達は建物の中へと入って行った。建物中では警備を任されていた雪白の騎士達から厳重なボディチェックを受けて、武器等危険物は持ち込んでいない事が分かってもらるとやっとパーティー会場の中へ入ることが許された。
 
 これは仕様なのか。それともルシア達が田舎者だからなのか。
詳しいことは分からないがそれにしても長いボディチェックだった。まさか立て続けに十人もの雪白の騎士達に身体を触られるとは思ってもみなかった。
会場で合流した後、皆に聞いてみたがやっぱり全員同じようなものだったそうだ。

 「ここがパーティー会場か……やっぱり置いてある料理も見たこともないような派手なものばかりだね」

 会場内を見渡して見る。途轍もなく広い部屋だ。テニスコート五個分はありそうだ。
ベージュ色の壁はキラキラ光りに反射して光っている。何かとよく見れば、壁の中にダイヤモンドが埋め込まれているのだ。よく見れば柱も、吸い込まれそうに高い天井にも、石のタイルで出来た床にも小さく砕かれたダイヤモンドの欠片が埋め込まれており。光に反射し僅かに光輝き綺麗だ。

 等間隔に置かれた白いテーブルクロスがかけられた丸い机の上には見ているだけで食欲がそそられる料理が置かれていた。
鳥を丸ごと焼いた料理、噴水のようにチョコレートが噴き出している料理、手のひらサイズに握られた白飯の上に乗せられた魚の切り身など、見たこともないような芸術的作品のような料理の数々が並べられている。

 リア曰く、今回のパーティーはビュッフェ(立食形式)と呼ばれるもので、メインテーブルに自由に移動して置かれている料理を自ら食べる分だけ取り分けるものだそうだ。

 ビュッフェスタイルには次のようなマナーがあることも教えてくれた。

コース料理と同様に前菜、メイン、デザートの順に何回かに分けて料理をとる。

立食形式では皿やグラスなどを一度に持ちすぎず、両手にお皿を持って歩かない。

一般的に冷たい料理から温かい料理へと皿は並べられており、冷たい料理と温かい料理は混ざらないよう別の皿を使う。またソースが混ざりそうな料理も一つの皿に組み合わせない。

メインテーブルにセットされている料理を取り分けるときは時計回りに取る。
次の料理をとるときは一度使った皿は再度使わず新しい皿に取り替えてから料理を取る(ビュッフェ形式では使った皿の枚数が多いほどマナーが良いという考え方がある)。

 これを聞いたランファが「めんどー」などとぼやいていたがそれは守って当たり前のルールなのだからしょうがない。たまにルールは破壊する物・破る物だと言い出す輩がいるが今回はせっかくお呼ばれした場違いのパーティーなのだから、必要最低限のルールだけは守ることにしよう。と、ルシアは自分に言い聞かるようにランファに言い聞かせた。

 自分達にと用意された席に着席すると

「そう言えばキミ達って何したからドルファのパーティーなんか呼ばれたの?」

 棘のある言い方でリアが訊ねた。
確かにこんなパーティーに呼ばれるのだから何かしらの大きな事をやってしまったのだろうと勘繰りたくなる気持ちも分からなくはないが、そんな事自分達はしていないっと、ルシアは小声で囁いた。
声を大にして言いたい気持ちもあったが、ここでそんな大声を出すなんて勇気、彼にそんなものはない。

「エッヘン、何を隠そうルシアはドルファ主催の草競馬大会に優勝したんだよっ!」

 みかねたランファが代わりに口を開いた。まるで自分の事のように胸を張って偉そうに自慢げに鼻息を荒くさせて。

「凄いじゃん」

 リアに軽く背中を叩かれる。少し痛い。
皆で楽しく他愛のない雑談をしていると、ずっと胸を締め付けていた場違いなところに来てしまった子兎のような恐怖感は何処かに消えてしまったようだ。……良かった。これなら純粋にパーティーを楽しめそうだ。ルシアは、ほっと息を漏らす。

「みなさま、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 声がし振り返えってみると、部屋の中央。作られた特設ステージのような場所にぽつんと立たされた一本のマイクの前に見たことの無い服装をした女性が立っていた。
大人の女性といった妙齢な魅惑的な色化のある女はしっとりとした声で話を続ける。

「ドルファフィーリングのカタリナと申します。総帥のバーナードに代わり厚く御礼申し上げます。
ご存知の通り、我が社は衣食住、みなさまの生活に関わる様々な事業を展開しております。
また経済活動のみならず、社会貢献もドルファが目指す所で、孤児院の運営など、慈善事業にも積極的に取り組んでおります。
“みんなの心に太陽を”それがドルファの精神なのです」

 女は静かにしっとりとした口調で語る。

「モグモグ」

 花より団子の彼らにそこ声は届いてはいないようだが……。

「もぐ……ランファ……ちゃんと話聞かないとダメだよ」
「ふぁーい。モグモグ」

 初めて見る料理はどれもこれも、頬っぺたが落ちてしまうんじゃないかと思うくらい美味しいものだった。料理を口へ運ぶ手が止まらない。二日間なにも食べていなかったこともあり、空腹だった胃袋にはどんどん吸い込まれるように入ってゆく。

「今宵はみなさまと親睦を図りたく、このようなパーティーを模様させていただきました。どうぞご存分にお楽しみくださいませ。
…さぁ、私の話はこれぐらいにして、みなさまにはピアノの演奏を楽しんでいただきましょう。ミスター紫龍!」

 招待客達の視線が一気に動く。それはもう一つの特設ステージに置かれていたグランドピアノ。その傍立っているのはムラクモの上司である、白いスーツがよく似合う、王子様としか言えない身なりをしている好青年紫龍。
彼はゆっくりと、そして上品さを感じさせる、お辞儀を招待客に向けて一回。
頭を上げるとピアノの方へ向き直し、椅子に座り鍵盤の上に手を添えた。

「……わあ」

 その瞬間――世界から時間(とき)が消えた。まるで時間が止まったかのようだった。
食べることに夢中だったルシアとランファも料理を食べる手を止めて、演奏に聞き惚れた。
この場に居た誰もが紫龍の奏でる美しい旋律に時間を忘れ、聞き惚れていた。


 
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