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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百三十三話 難しい話その四

「端役はなく素晴らしい音楽を与えられています」
「そうですか」
「そしてです」 
 裕子さんは僕にさらに話してくれた。
「歌う場面も出番も多いです」
「脇役であっても」
「フィガロの結婚もそうですね」
「あっ、そういえば」
 バルトロやバジリオみたいな脇役でもだ、やたらと舞台にいる。
「それで重唱で歌っていますね」
「重唱もそれぞれ見事ですね」
「ですね、一人一人にいい歌があります」
 それぞれの重唱ごとにだ。
「アリアもあったりして」
「それは並大抵な愛情と才能では成し得ません」
「それを出来たのがモーツァルトですか」
「それがあの人の本当に凄いところです」
「ただこうして素晴らしい音楽であるだけじゃないんですね」 
 早百合さんが演奏してくれているフィガロの結婚の序曲、ピアノのそれを聴きながら僕はそのことを知った。
「モーツァルトは」
「はい、愛情と才能がです」
「共にあったんですか」
「ですから音楽も素晴らしいのです」
「こうしてですね」
「誰も作られない様な曲なのです」
「何ていいますか」
 僕はこの序曲を思いつつ述べた。
「これまではただ素晴らしい曲だって思っていました」
「この曲もですね」
「はい、ですがそのお話を聞いてから聴きますと」
「余計にですね」
「素敵に思いました」
「それがモーツァルトです」
 そしてこの人の音楽だというのだ。
「正真正銘の天才です」
「本当の意味で、ですね」
「これだけの音楽は他にありません」
 モーツァルトだけだというのだ。
「だから今もよく演奏されていて聴かれています」
「亡くなって二百年以上経っても」
「新しいままなのです」
 ここでだ、早百合さんは演奏を終えた。そのうえで僕達にこう言った。
「裕子さんの仰る通りです」
「モーツァルトの音楽はですか」
「その全ての曲に彼の愛情と才能が注がれています」
「全部の曲に」
「非常に多くの曲を残した音楽家ですが」
 三十五歳で夭折したなんてとても思えない、六歳の時から作曲していたからでもあるけれど多作でもあった。
「その全ての曲がです」
「名曲ですか」
「駄作はないと言われていますし実際に」
「ないですが」
「私が知っている限りは」
 日本でも有数の学生ピアニストである早百合さんから見てもというのだ。
「ありません」
「そこまで、ですか」
「はい、偉大な天才です」
 こう言っていいまでというのだ。
「裕子さんの言われる通り古さがありません」
「ワーグナーよりも前の人ですよね」
 僕はここで早百合さんにこのことを確認した。
「それもずっと」
「はい、そうです」
「ベートーベンよりも先で」
「ベートーベンが子供の頃モーツァルトに会ったことがあるそうです」
「そこまで古くても」
「はい、古さはありません」
 モーツァルトの音楽にはというのだ。
「解釈も様々に出来ますし」
「この解釈がまた面白いのです」
 裕子さんがまた僕に話してくれた。
「歌劇の舞台も」
「それも色々ですか」
「現代演劇の様に」
「そこまでですか」
「そうなのです」
「それでそれが面白い」
「はい、非常に」
 そうだというのだ。 
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