八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百三十二話 残暑に入ってきてその十三
「私は意識していません、漫画もです」
「漫画も馬鹿に出来ないですしね」
「そう思います」
「正直漫画家さんもその辺りの学者さんよりずっと頭よかったりしますし」
もっともテレビで政治家は石部三吉とかじゃないと務まらないとかポケモンGOをしている人を軽蔑するとかあの熱い元テニス選手を実家や学歴や外見だけで突っ込みどころがないとか言うとんでもなく知能が低いとしか思えない漫画家もいるけれどテレビとかのコネだけで生きているつまらない人ということか。
「本当に馬鹿に出来ないですね」
「はい、例えばです」
「例えば?」
「オウムの教祖を偉大と言う様な」
あのテロを起こした宗教団体の、というのだ。
「そうした思想家の本を読みたいですか?」
「確か」
「はい、吉本隆明ですが」
何か戦後最大の思想家と言われていたらしい、けれど僕はそれは悪い冗談じゃないかと本気で思っている。
「その人の本は」
「いえ、全く」
僕は裕子さんに即答を返した。
「思いません」
「そうですね」
「僕もその人は知ってますが」
そのオウムというか教祖への発言でだ。
「有り得ないです」
「そうですね」
「全然偉大な宗教家でも浄土に近い人でもないです」
そんな人が権力を求めたり信者に質素を強要して自分は美食に溺れたり愛人を大勢持ったりするだろうか。ましてや多くの殺人を犯すなぞ。
「絶対に」
「それがわからない人がです」
「思想家なら」
「もう読む価値はないです」
「そうですよね」
だから僕は吉本隆明の本なんか読むつもりはない、本当にそんな人の本なんか読んでも何もならないと確信している。
「オウムまでの発言とかは知らないですが」
「それでもですね」
「行き着いた先がそれなら」
その行き着いた先があんまりだからだ。
「読む価値はないです」
「そうですね」
「これまでの本も」
「その証拠にです」
「証拠に?」
「はい、あの人はです」
裕子さんは吉本隆明についてさらに話してくれた、僕だけでなく早百合さんもその話を聞いた。夏休みの終わりが近付いている昼の休憩時間に。
第百三十二話 完
2017・3・16
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