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魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』

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アージェント 〜時の凍りし世界〜
第三章 《氷獄に彷徨う咎人》
  舞うは雪、流れるは雲③

アースラの艦長室、クロノはこれまでの情報を纏めつつ、ある事を調べていた。そんな彼に通信が入る。相手の名前を確かめると、繋げるなりこう言った。

「何か見つかったのか、ユーノ。」

「……あのね、クロノ。こういう時、挨拶くらいは挟むものだと思うんだけど。」

「今は時間が惜しい。」

通話の相手、ユーノ・スクライアはそんな友人の様子に苦笑し、「ハイこれ。」とデータを送信する。

「……これは?」

「分からない。開封には提督以上の権限レベルが必要だったんだ。」

送られて来たのは何かの研究ファイルと思われる資料。題名は無く、研究者の名前だけが小さく書かれている。その名前は……

「……白峰日暮、奴の父親か。」

幸い、アースラ艦長たるクロノには簡単に中を見る事が出来た。読み進めていく内に、クロノの顔色が変わる。

「……どうしたの?」

「……読んでみてくれ。」

クロノから回されたデータを見たユーノは眼を見開く。

「え……これって、…………と同じ……?」

「……ああ。詳細こそ違うがな。」

「……これ、なのは達には?」

「……しばらくは伝えない。余計な情報を与えて迷わせたく無い。」

そこにあった真実は、彼女達の意思を鈍らせるには十分であろう。そう判断したクロノはこの事実を己の胸の内に納めておく事に決めた。

「……で、これだけか?」

「いや、もう一つあってね。正直こっちが本命だと思ってたんだけど……。」

そう言いながらユーノが送ったのは嘱託魔導師の登録の書類だ。

「……この資料がどうした?」

「協力部署の名前を見てみて。」

言われた通り確認したクロノ、数秒考えてようやくユーノの言わんとしている事に気付く。と、同時に先程のファイルに及ばないまでも衝撃を受けた。

「……次元航行艦アルビオン。」

「うん……グレアム提督の、現役最後の赴任先がアージェントだったんだ。」










「……少々不味いですね、アレを凌ぎますか。」

ミミが小さく呟く。視線の先には左腕をだらんと垂れ下がらせながらも、未だに闘志の衰えないザフィーラの姿がある。ミミの最大火力《サイレント・アヴァランチ》をまともに受け止めた結果だ。

恐らくこのまま押し切れば勝てる。勝てるのだが、それには主である暁人から魔力供給を受けなくては間に合わない。そしてそれは、ミミの本意では無い。

『……撤退しろ、ミミ。』

丁度そのタイミングで、暁人からの念話が入る。

『ご主人様……ですが、』

『威力偵察と戦力の漸減という目的は達成したんだ。欲張る必要は無い。』

確かに、ザフィーラの腕は回復魔法を使用しても直ぐには使えないだろう。そういう意味では、最低限の結果は果たした事になる。

『それと…奴ら、何か企んでそうだ。その対策もあるからそっちに魔力を回せない。』

『……分かりました。手筈通りお待ちしてます。』

『頼む。』

念話が切れる。選択肢が決まった以上、ミミに迷いは無い。ザフィーラとシャマルの機動力ではミミに追随出来ないため、引き離すのも簡単だ。

そうして踵を返したミミを引き留めたのは、ザフィーラのこんな言葉だった。

「お前は、信じてるのか?」

「……何をです?」

「お前の、お前の主の行いを、だ。」

「当然です。ご主人様の行動は正しい。で、ある以上、使い魔たる私が迷う事はありません。」

「本当にか?他者を犠牲に、大切な者のみの幸せを掴む。そんな行動に未来があるのか?……我々が言えた事ではないがな。」

「私たちも今なら分かるわ。自分達だけの狭い世界で幸せを手に入れても、それが本当の幸せ足り得ないって。だから……」

「だから……何なのですか?考え直せとでも?」

ミミの口調は実に冷ややかだ。躊躇なく、容赦もなく、言葉の刃を振りかざす。

「……良いことを教えてあげます。ご主人様は、自分が間違っていると誰よりも自覚しています。」

「……何?」

「お嬢様の為に世界を敵に回すことも、誰かを傷付ける事も、すべて独り善がりの理屈に過ぎないと、ご主人様が一番理解しているのです。………ですから、使い魔の私が迷う事は許されない。私だけは、ご主人様を100%肯定しなければならないのだから。」

ミミの言葉は揺るぎなく、本人の覚悟も相まって一切の反論を許さない迫力があった。

「……話し過ぎましたね。失礼致します。」

去っていくミミを、二人は呆然と見送る事しか出来なかった。










「セッ!!」

氷の巨剣が空を薙ぐ。シグナムとヴィータの二人は、既に100mより内側には近付けないレベルだ。しかし、二人は焦ってはいなかった。

『ヴィータ、奴をここに留めれば我々の勝ちだ。欲張るなよ。』

『分かってるよ。あと二分、それで終わりだ。』

二分、それがはやてが魔力のチャージを完了し、照準を終えるまでの時間だ。その時までここに暁人を足止めすれば彼の勝ちである。

しかし、暁人がそんな彼らの様子を看破出来ない訳が無かった。二人が時間を稼いでいる事は読めたし、その狙いも大体検討はついていた。

(アースラからの艦砲射撃か、八神はやての広域魔法か……恐らく後者か。当然炎熱系統で、一撃で決めに来るだろうな。逃げれるのは簡単だが……さて。)

本来ならこの時点で逃げの一手をうつ暁人だが、次の作戦を考えると、此処で実力を見せておく必要があった。

(……受け止めるか、躱すかだな。見てから決めるか。)

敢えて相手の策に乗る道を選び、そうと気付かれぬ様に攻勢を緩める。元々が千日手の状態だ。この特大《アンサラー》は対艦船、対城塞、あるいは対軍用の魔法であり、対個人戦には刀身を短くした改良型を使う。近付けない事は出来るが、ある程度以上のレベルの敵には当たらないのが実情だ。

二分の時は、一瞬にして過ぎた。八神はやては視認出来ないが、広域魔法にとってはさして関係ない事は、同じく広域魔法を使う暁人にとっても常識だった。










『はやてちゃん……あの人。』

「気付いとるん……やろうなぁ。」

ユニゾンしたリィンの呟きに答えるはやて。恐らく相手は、白峰暁人は此方の意図に気付いている。その上で、時間稼ぎに付き合っている。そういう動き方だった。

「それでも対策しないって事は……何か狙ってるんやろなぁ……。」

撃つべきか、待つべきか、迷うはやて。そこに、

『……ごめんなさいはやてちゃん。使い魔の子に逃げられちゃった。』

「シャマル……構わへんよ、気付かれてた時点で捕縛は無理やと思ってた。雪の中は向こうのホームグラウンドやしな。」

そう、相手は元々こちらの襲撃に気付いていた可能性が高い。そうでなければ、一連の動きに説明がつかない。

「……けど、ただで逃がすのも癪やなぁ。」

まだ、白峰暁人という人間は底を見せていない。ならば、

「一枚でも多く、手札見してもらうで。」

シグナムとヴィータが効果範囲に巻き込まれていない事を確認する。魔力の充填も、魔法の照準も完了している。……後は、

「……行くで、リィン。」

『ハイです!』

「『灼熱の地より吹き荒れろ、巨人の焔!《ムスペルヘイム》!!』」

轟音と共に解き放たれた魔法は、直ちに紅蓮の業火へと代わり、生きとし生けるもの全てを焼き払う勢いで、暁人へと突進した。










暁人は、その瞬間を視覚でも、聴覚でもないモノで感じていた。それは膨大な経験が育んだ予測と、第六感めいた直感の化合物であり、未来予知じみた精度をもって暁人の脳に訴えた。

「……来たか。」

それだけ呟くと暁人は、推定される魔法の飛来方向に、氷の刃を向ける。そして、『アンサラーの術式そのものを書き換えた』。

「魔力は既にある。細かい照準も要らない。後は……純粋な威力勝負か。」

再装填したカートリッジをさらに四発、追加で撃発し、氷の刃が崩れ、ハボクックの先端に収束していく。

「………遠き地より吹雪(ふぶ)け、巨人の吐息!《ニヴルヘイム》!!」

それは奇しくも、はやてが行使したものと同系統、反属性の魔法。相反する二つの属性の激突は膨大なエネルギーを生じ、それは軽度の時空震すら引き起こした。灼熱の暴風と、極寒の吹雪は互いを呑み込み、跡形も無く消滅したのだった。

「……術式の、書き換えだと……。」

一部始終を見ていたシグナムは言葉が出ない。本来、一度完成させた術式は書き換える事が出来ない。下手に手を加えると留めていた魔力そのものが霧散してしまうからだ。出来るとすれば可能性は一つ。『初めから書き換える前提で術式を構成した』という事だ。

無論、簡単な事では無い。書き換え時は勿論、元の術式を組み立てる所から人外の超精密魔力コントロールが要求される。それを暁人は、いともあっさりとやり遂げたのだ。

「………待て、奴は!?」

シグナムを始め、全員が我を取り戻す頃には、既に暁人の姿は消えていたのだった。










『……で、逃げてきたのね?』

「まあな、案外厳しかったけど。」

画面の向こうのエヴァに努めて軽く返す暁人。

ここは暁人の用意していた隠れ家、白峰家の誰も知らない別荘だ。暁人の父、日暮の研究は人前には出せない様なものも多く、そういった研究を行う為に作られた建物だ。そのうちに、夏冬は家族で此処で過ごす様になり、生活設備が増築された。

『アースラは大慌てよ。あんたが派手にやるものだから。』

「これぐらい見せ付けとかないとな。次は温存なんてさせない。全力に相手させる。」

『……まあ、そうなるでしょうね。こっちでも工作はするわ。』

「頼む。……それで、全部終わりだ。」

『そうね………』

暫し黙り込む暁人とエヴァ。先に口を開いたのは暁人だ。

「そう言えば、前回の通信の時、最後に何か言いかけてなかったか?」

『ああ……解決したから大丈夫よ。』

「………そうか。ならいい。」

『……何よ?何か気になるの?』

「いや……いつもと様子が違うような気がしてな。」

『……そうかしら?自覚は無いけど。』

「……まあ、キツい仕事頼んでるからな。疲れてるんだろ。あと少し、手伝ってくれ。」

『言われなくても、ね。』

違和感の欠片もない会話。しかし暁人は、どうにも拭えない小さな凝りの様なものを抱えていた。





「……流石だな。」

通信が切られ、モニターの落ちた通信室にドウェルの声が響く。その前には、糸の切れた人形の様にぐったりとしているエヴァの姿がある。

「通信機越しに私の催眠を感じ取るとは……いやはや、少し焦ったよ。」

口調こそ柔らかなままの彼だが、その言葉の裏には、どこか得体の知れない響きが存在してた。

「あれから四年……よく育ったものだよ、『成り損ないの皇帝』……我が、愛弟子よ。待っているよ、君の策の、その向こう側で、ね。」










時空管理局 本局

本局だけでも数え切れない程に存在する様々な部署の中に、資料科遺失物関連部第三分室というものがある。管理局の末端の末端のさらに端とでもいうべきその部署は、室長の名前をギル・グレアムという。

嘗て、闇の書を管理局の法を破って凍結封印しようとした件の責任を取り、閑職に回されている。本人は辞任するつもりだったのだが、局員として犯した罪は、局員として清算するべき、という周囲の説得によって、末席ながら管理局に籍を残している。

そんな彼の元に、久方振りの来客がある。管理局でも若手の出世株筆頭、次元航行艦アースラ艦長、クロノ・ハラオウン提督だ。

「……久し振りだな、クロノ。」

「お久し振りです、グレアム提督。……早速ですが。」

「ああ、分かっている。白峰暁人……彼の事はよく覚えている。連絡を貰った時は驚いたよ。」

「……知っていたのですか?彼がーーーーだということを。」

「………本人から聞いた。」

「………そうですか。」

「彼の話だったな。連絡を貰ってから、色々と思い出した。彼と出会ったのは七年前、私が闇の書の封印手段を探していた時の事だ。」 
 

 
後書き
グレアム提督の書き方がわからねぇ………イメージ違ったら御免なさい。

次回は暁人君の超絶戦闘技能の秘密が明かされる予定です。色々キナ臭くなってきましたねぇ……


次回予告

老将は語る。心を凍らせる前の少年の姿を、その思いを。

暴かれる暁人と氷雪の出生の秘密。《皇帝》たるべくして生まれたという暁人の真実とは!?

凍りついた運命が、動き出す。

次回《皇帝》 
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