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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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一年生と三年生

「キャッチ!!スリーアウトチェンジ!!」

セカンドフライに倒れ悔しそうな表情を浮かばせるバッター。ベンチに戻ってくる音ノ木坂ナインの中心にいるのは、本日初投手の女の子。

音ノ木坂 301 00
秀光学園 011 00

5回のグラウンド整備に入っている秋葉ドーム。ベンチ前でキャッチボールや素振りを行う両校の選手を見て、スタンドにいる西村は面白くなさそうな顔をしていた。

「星空が先発としての役割を十分に果たしてしまったな。その方がいい試合をできて面白いかもしれないが・・・」

やっぱり面白いとは思えない。自分が苦労して2人の投手を育てたのに、なぜ剛は容易く何人もの投手を使えるのか、それが腹立だしてくて仕方ない。

「まだいくかしら?」
「どうかな?星空さんも捕まり始めているし、ここまで投げてくれれば小泉さんに繋いでもいいとは思うが・・・」

整備を終えてそれぞれ試合再開に動き出す両チーム。音ノ木坂の攻撃は6番のにこから、なのですぐに回ってくる凛はヘルメットを被りバットを選んでいた。

「監督ならどうしますか?」
「俺なら変えるな。いや、そもそもあんな野手投げの奴をマウンドに上げない」

凛がここまで抑えられているのは野手投げなのに球が速く、それでいてフォームがばらつく分手元で変化しているから。それに対応すればできないこともないので、引っ張りすぎるのも良くない。

この回はにこ、希、凛と凡退し守備に付く。ヘルメットを一塁コーチャーに渡した凛はグローブを受け取ると、そのままマウンドへと駆けていく。

「まだ行くのか」
「大ケガする前に変えるべきだと思うけど・・・」

A-RISEのそんな声を吹き飛ばすかのように懸命にストレートしかないボールを投じる凛。先頭をサードゴロ、その後四球でランナーを出してしまったものの後続をセンターフライとショートゴロに打ち取りこの回も0に抑えた。

「あら?また抑えたわ」
「気持ちがボールに乗り移ってるわ」
「ここまで来たら最後まで行けるかもしれないぞ」

観客が必死に頑張る凛に拍手や声援を送り、A-RISEもどこか興奮してきている。だが、それでも西村は冷ややかな表情を変えない。

「やっちまったな、あのピッチャー」
「「「「「え?」」」」」

ここまでランナーを出しつつも少ない失点に抑え好投している凛に対し何がいけないのかわからないツバサたちは顔を見合わせる。すると、西村は彼女たちにわかるように説明をする。

「ここまで頑張られると『もう1回』『もう少しだけ』と監督も期待し代えづらくなる。そのあと少しで打たれて負けてしまえば、誰よりもピッチャーが傷つくことになるんだ」

どうせなら前半で捕まってくれた方がよかったという西村。彼の理論的な考え方に皆納得するが、1人だけ否定するように口を開く。

「監督の言う通りかもしれないけど、私は・・・いえ、ピッチャーをしたことがある人なら全員同じことを思うよ」
「それは?」
「『絶対に打たれたくない』『負けたくない』『勝ちたい』そう思ってマウンドに立つんですよ。例え野手だろうがなんだろか関係なく」

投手を務めたことがない西村はあまりわかっていない様子。彼は野手として、さらにはキャプテンとして甲子園に出場してきた。だからこそ勝つための意識しか備わっていない。気持ちよりも重要なのは力だというのは、わかっていたからだ。

(気持ちでどこまで行けるのか、見せてもらおうか。まぁ、このまま終わることはないと思うけどな)

試合は終盤、投手は疲れ打者は目が慣れてくる。ここで試合がひっくり返ることも多々あるので、ここからが投手としての真価を問われることになる。

7回表、先頭の海未は三振、続くことり、花陽がヒットとエラーで出塁するも穂乃果がゲッツーに倒れチェンジ。その裏、マウンドには凛がまだ向かう。

「本当に初登板か?」
「そうみたいです。練習試合でも投げてないみたいですね」
「そうなの?それはすごいわ、ねぇ、ツバサ」
「そうね」

あんじゅの問いに素っ気なく答えたツバサは試合に釘付け。彼女の視線の先にいるのはピッチャー・・・ではなく、なぜかキャッチャーの穂乃果だった。

(みんな気が付いてないけど、何度も崩れてもおかしくはない場面はあった。でも要所で高坂さんが声をかけに言って落ち着かせている・・・この試合を作っているのは星空さんでもあるけど、彼女をリードする高坂さんよ)

不慣れなマウンドで幾度となくピンチを招いてきた凛。でも、ベンチから伝令が走ったのは初回の一度だけ。他はキャッチャーしかマウンドには歩み寄っていない。その後、決まって凛は持ち直しここまで2点に抑えているのだ。

カキーンッ

外野の間を抜けていく鋭い打球。2アウトとしながらも走者を1人背負った状況で生まれてしまった長打。一塁走者は生還し、バッターは三塁に到達していた。

(これで4対3・・・2アウト三塁・・・か)

ベンチで仁王立ちしているライバルに視線を移す。代えるならこの場面だと思うが、彼は一切動こうとしない。

(同点までは投げさせるつもりか?相手の継投にバッターがついていけてないのに投げさせて大丈夫なのか?)

序盤は普段通り・・・いや、普段以上の力を発揮して点数を取った。だが、三本柱を売りにしている秀光学園の継投を前にその後はなかなか点数を取れない。

カッ

打席には7番打者。打球はフラフラとショート後方へ上がるフライ。しかし、詰まったことが幸いし落ちそうな微妙なところ。

「絵里!!もっと後ろ!!」
「わかってるわ!!」

飛び込みフライを取ろうとする絵里。しかし、わずかに届かず地面にボールが落ちそうになる。

パシッ

同点になる・・・そう思ったその時、飛び込んだ絵里の下に滑り込む人影。赤い巻き毛の少女は落ちかけたボールをノーバウンドで捕ろうと決死のダイビング。

「キャッチ!!キャッチ!!キャッチ!!」

寝そべりながら高々とグラブを上げる。その中には確かに白球があり、審判もアウトを宣言した。

「マ”キ”チャ”ン”ダ”イ”ジョ”ウ”ブ”!?」
「これくらい余裕よ・・・イタッ」

接触もありえるほどの危険なダイビングに花陽が心配してやって来る。真姫は平然と立ち上がろうとしたが、痛みで腕を押さえる。そこからは鮮血が流れ出ていた。

「ちょっと!?真姫ちゃん切れてるじゃない!!」
「ごめんなさい、私のスパイクが当たったみたい」

フライを捕ろうと絵里が飛び込み真姫も飛び込んだ際、接触はなかったものの彼女のスパイクの刃がかすっていたらしい。真姫は血が滴る腕を押さえながらベンチに戻ってきた。

「真姫ちゃんありがとう!!」
「ちょっと凛!!血が付いちゃうわよ!!」

ベンチに戻ってきた彼女に飛び付く凛。同点のピンチを救ってくれた少女に彼女は最大限の愛情表現で感謝を伝える。

「ミカ、真姫の治療してくれ」
「はい!!」

応急処置をするためベンチ裏へと下がっていく真姫とミカ。剛は真姫の頭に手を乗せると、「助かった、サンキュー」と言葉をかけた。

「一年生ばっかり頑張ってんなぁ、三年生」

この回先頭の絵里、その後回ってくるにこと希に圧をかける。

「そろそろ点数取って凛を援護してやれ」
「「「はい!!」」」

気合いが入った三年生組。まず打席に向かうのは4番の絵里。

(狙うはストレート。今までの配球を見ると必ずどこかで来てる。それを狙う!!)

試合巧者と言われるだけあって四死球の数が極端に少ないチーム。それゆえにバッテリーは制球のつきやすい球種を必ずどこかで使う。

キンッ

その読み通り1ボール1ストライクからの3球目、狙っていたストレートをライト前へと運ぶ。続く治療から戻ってきたばかりの真姫。本来なら打力が高い彼女に期待をかけたいが、ケガをしているため無理はさせられない。

(転がしてくれ、エンドランだ)

バントはできないだろうという配慮によりエンドランで進塁を狙う。結果はファースト正面のゴロ。ゲッツーコースだったがエンドランを仕掛けていたことにより絵里は二塁に到達できた。

(さぁ、頼むぞにこ、希)

ここからは小技の使えるにこと長打も期待できる希。今回2人にサインは出さない。下級生が頑張っているところを見て刺激を受けているであろう彼女たちなら何とかしてくれると信じての判断だ。

(絵里の足なら外野に運べば返れる。タイムリーを狙う!!)

甘いボールに狙いを絞る。その初球、高めに来たスライダー。ボール気味だが、抜けたボールほど飛ぶものはない。

カキーンッ

快音を残した打球。しかし、当たりが良すぎて二塁走者の絵里はスタートが切れない。ライナー性の当たりでセンターに落ちたものの、ハーフウェイから遅れてスタートした絵里は三塁を回ったところで自重する。

(ノーアウト一、二塁。ここで迎えるのはこの試合ヒットのない東條さんか)

スタンドで試合を決める決定的場面に身を乗り出す英玲奈。打席には三年生トリオ最後の1人、東條希が向かう。


 
 

 
後書き
終わらせる予定が終わりませんでした・・・
でもたぶん次で終わります。えぇ、きっと。 
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