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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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アクシデント

『ただいまより、全国女子高校野球選手権大会3回戦、音ノ木坂学院対熊大駒子牧高校の試合を行います』

2回戦をコールド勝ちに納めた音ノ木坂は翌日、秋葉ドームでの試合間近となる3回戦、準々決勝に挑んでいた。

「熊大駒子牧っていえば、甲子園夏連覇したところだよね?」
「私たちが小学生になったばかりの頃でしたっけ?」

女子で強い学校は男子でも優秀な成績を納めているところが多い。もしかしたら男女間で交流等があり、技術を吸収しているのかもしれない。

「花陽、肩は大丈夫か?」
「はい!!全然大丈夫です!!」

今日の試合も前日と同じオーダーとなっている。となると心配すべきは花陽の肩の疲労度だが、今のところは問題ないようだ。

「海未、早めの継投で行くから準備しておけよ」
「はい」

ただ前までの2試合を花陽は完投している。明日も準決勝、1日挟むとはいえすぐに決勝戦が控えているため今日の試合は花陽にあまり投げさせずに海未に頑張ってもらおうと考えている。

「よし、いつもの声かけやっとけ」
「よーし!!みんな集合!!」

ベンチ前に集まり輪を作る。穂乃果から順番に数字を言うと彼女たちはいつもの掛け声をした。

「音ノ木坂!!」
「「「「「ゲーム!!スタート!!」」」」」




















「次も絶対に勝てる・・・か」

スタンドから試合を見下ろしているのはUTXの主将。彼女は現在行われているスコアを見て眉間にシワを寄せていた。

音ノ木坂 002 0
熊大 000

「相手のエラーとはいえ先取点を取り、その後の守備をキッチリと守り抜く。関東大会とはまるで別のチームだ」

短期間で信じられないほどの速度で成長していく相手に苦笑いをせずにはいられない。なぜこれほどの相手に次も勝てると確信を持てるのだろうか、英玲奈はその考えが頭から離れない。

「あら、ピッチャー変わったわ」
「まぁ、ここまで連投だからな」

直前まで別の球場で投げていたあんじゅがアイシングを終えてスタンドにやって来る。英玲奈はそれに応えると、2人に間に挟まれるように座っているツバサが大きくあくびをした。

「あれが監督の言ってた理由よ」
「音ノ木坂に勝てる理由・・・ってことか?」

言われてみればそうだ。音ノ木坂はここまで花陽1人で投げている。ここまでの投手起用を見た限りにこ、絵里を守備から外すのは危険と判断し花陽に頼り切るスタイルに移行したのは目に見えている。海未では到底上のレベルでは投げ抜けないことから彼女1人が投げ続けるとなるとどうしても体力が持たない。

「選手層の薄さがここで出るとはな」
「可哀想だけど、仕方ないことよね」

この大会初登板となった海未はランナーを得点圏に進められたもののなんとか凌ぎ0点。その後試合は両チーム1点ずつを加えて終盤戦に突入する。

「にこ、UTXが見学に来てるぞ」
「えぇ!?本当ですか!?」

野球好きであるにこは憧れのA-RISEが来ているとあってテンションが上がる。バックネット裏にいる彼女たちを見つけると、さらに嬉しそうな顔をしていた。

「にこ、いいとこ見せれば相手もお前に注目するぞ?」
「任せるにこ!!」

ランランとしながら打席に入るにこ。彼女は内外野の位置を確認する。

(外野は浅め、内野はサードが比較的前進。だったらここは・・・)

初球、外角への厳しいストレート。にこはこれを振っていくが空振り。

(何?今の大振り)

そのスイングを見て違和感を持つキャッチャー。にこのスイングがあまりにもわざとらしく、とても打ちにいったようには見えなかったからだ。

(内野、セーフティ警戒。セカンドベースカバーお願いね)
(((了解)))

フラッシュサインで内野に指示を出す。にこは予選でプッシュバントを決めているのでサードもファーストもかなり警戒している。それが狙いだとも知らないで。

バントを失敗させたいとなれば投じるのはもちろん内角高め。ここでは一塁側へのプッシュバントも三塁ライン際へのセーフティも難しい。だが、ここはもっとも打者の力の入りやすいコースである。

カキーンッ

快音を響かせ打球は左中間を抜けていこうとする。センターがなんとか止めるがにこは二塁を果敢に狙う。体を反転して投げなければならなくなったセンターは送球が乱れ、結局進塁を許してしまった。

「相変わらずイヤらしい打撃をするわね。セーフティに見せかけてヒッティングなんて・・・」
「ここから東條さんに園田さん・・・いいバッターが続くな」

打線が入れ替わったことで得点できる幅が増したように感じる。中学時代も野球経験のある希は右方向への打撃も心得ているが、塁上のにこがチョロチョロと動き回ったことで投手は集中できずストレートの四球を出してしまう。

「海未、初球から狙っていいぞ」
「はい!!」

四球の後の1球目は甘い球が来やすい。それを狙わせるのは常套手段。海未もそれをわかっているためかなり打ちたがっている様子。

(ストレートを内角に。詰まらせてゲッツーを取ろう)

打ち気な打者には打ってもらってアウトカウントを稼いでいきたい。バッテリーはそんな思惑を持って投球したが、そのボールはあろうことか海未の体に直撃する。

ガッ

「「海未ちゃん!!」」

打ちに行っていたこともあり避けることができなかった。しかもそのボールはあろうことが利き腕である右肩に当たってしまう。

「大丈夫です」

心配してネクストのことりとベンチから穂乃果が飛び出そうとするが、海未がそれを制し一塁へと歩いていく。

(エルボーガードしてたけど、肩とはな・・・普通は大丈夫だけど・・・)

硬球が当たるとかなり痛いが時間が経てば痛みは取れる。剛も当てられたことは何度かあるがそこまで気にすることもなかった。しかし、なぜか嫌な予感がしてならない。

カキーンッ

ノーアウト満塁になると続くことりがカットで逃げ、真ん中に来た甘いボールをライトまで運ぶ。飛距離は十分、タッチアップで三走のにこが楽々生還。希もタッチアップしようとしたが、飛距離が微妙だったこともあり自重する。

続く花陽、穂乃果が凡退しこの回は1点で攻撃が終了。4対1となる。
その後の7回裏の守備。マウンドには引き続き海未が登ったが、投球練習の初球で異常は起きた。

「うっ!!」

穂乃果で攻撃を終えたため防具を着けているミカが受けようとしたのだが、海未は投げる直前でボールを落とし肩を押さえる。

「海未!!」

予想だにしないアクシデントに思わずベンチを飛び出しそうになったが、高校野球の監督はベンチから出ることができないため審判に制止され、選手たちを向かわせる。しばらくするとレガースだけを着けて海未の元に向かった穂乃果が血相を変えて戻ってきた。

「さっきのデッドボールか?」
「だと思います。痛みで肩が上がらないらしくて」

数ヵ月前まで普通の女子高生だった音ノ木坂学院野球部は皆線が細い。体力的にパンクされると困るため必要最低限のトレーニングしか積ませていなかったこともあり体を守る筋肉が不足し、デッドボールが直接肩に影響を与えたのかもしれない。

「交代しますか?」
「そうしたいのは山々なんですが・・・」

ベンチには登録しているものの練習をしていないためヒフミトリオを出すわけにはいかない。しかしそれだと選手が9人しかいないため、試合を棄権せざるを得なくなる。

「花陽!!行けるか!?」
「は!!はい!!大丈夫です!!」

本当は休ませたかったがここをどうにかできるのは花陽しかいない。剛はライトとピッチャーが入れ替わる旨を伝えると、2人は新たなポジションへと散っていく。

「あら、また小泉さんが投げるの?」
「さっきのデッドボールで園田さんは負傷か?」

UTXナインは再度花陽がマウンドに上がったことでデータ班が慌ただしく動き出す。決勝まで上がってくれば彼女が投げることは目に見えているため、よりデータを取っておきたいのである。

「これはもう終わったわね、音ノ木坂も」

その中で一際冷めた目で試合を見ていたのはエースのツバサ。確かに試合の中で再登板するのは難しいところもあるが、それだけで試合が決まるはずもない。そのことを伝えると、ツバサはタメ息をつき先程の言葉の真意を告げる。

「たぶんあの様子だと打撲はいってるわ。あと4日で終わる全国大会で投げるのはもう無理。となると投手は小泉さんだけ。矢澤さんと絢瀬さんを投げさせると守備力が落ちて決勝までいけない。そもそもあの2人は全国で戦えるレベルではないし。となると残る投手は高坂さんだけだけど、キャッチャーは園田さんがやっているからそれも叶わない。残り3試合を1人で投げ切るのは厳しい。ましてや最後の相手がうちとなれば・・・ね」

UTX学園のチームの怖さは彼女もよくわかっている。そのため戦力の乏しい相手が太刀打ちするのは困難なことなど容易にわかった。

「明日の準決勝・・・せめてこの試合で3回は投げれる投手がいれば決勝戦もいい試合ができたかもしれないけど・・・それももう叶わないわね。残念だわ」

マウンド上で相手を切って落とす少女を可哀想なものを見るかのような目付きで見下ろすツバサ。このあと花陽が1点を失いながらも投げ抜き4対2で勝利を収めた音ノ木坂学院。しかし、海未のケガが大きすぎることは誰の目から見ても明らかだった。


 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
海未ちゃんのケガで危機に陥った野球部。
彼女たちは残り2試合を戦い切ることができるのか!? 
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