艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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第四十一話
前書き
どうも、艦これでの遠征の最高効率を模索が楽しくって仕方ない。正直、鋼材やバケツを集めるのが目的になってきた。
……楽しかった。
俺はそう思いながら壁にもたれながら座った。数ヵ月前に比べて日が短くなっているので、もうすっかり夕焼けが綺麗な時間だ。
「お疲れ様です、千尋さん。」
「おっ疲れー!」
と、春雨と皐月が側に寄ってきた。二人とも満足そうな顔をしていた。どうやら楽しんで頂けたようだ。
「おう、二人ともお疲れ様。しっかし、やっぱりこの身体って便利だな。四時間ぶっ通しでやったのにそんなに疲れてないもんな。」
俺は両手を見つめながら、グーパーと開いたり閉じたりしてみる。途中で軽く休憩はしたが、それでもこの疲労の無さは異常だ。
…………どんどん人間じゃ無くなっていってる気がする。良いことなのか悪いことなのか。
「ま、そのお陰で深海棲艦と戦える訳だしね。結果オーライ。」
「いやいやいやいや…………できるなら学校でバスケしたかったぞ?俺は。」
正直、自分の運命を呪った。親父とお袋もちょびっと呪った。
「まぁねー。ボクもできたら学校でやんちゃしてたかったなー。」
どう見ても小学生位であろう皐月は、少し寂しそうに笑った。
…………まだまだ幼いレベルだよな、小学生って。そんな子供ですら駆り出されてしまうんだよな。
艦娘ってのの絶対数が少なすぎるからか。
…………終わらせれるならこの戦争を終わらせてみせたい。まぁ、十数年続いてる戦争を終わらせる方法があるなら教えてほしいけどな。
「あの、ちょっと聞いていいですか?」
と、俺が物思いに更けていると、春雨が手を上げた。
「あ、おい、ちょっとまて―。」
と、なぜか木曾が静止しようとしたが、一瞬遅かった。
「学校って、どんな所なんですか?」
その言葉は、やけに軽かった。
「お、おい!そろそろ飯食おうぜ!」
すると、木曾が慌てた様子でそう言った。確かに、腹が減ったのも事実だ。
「お、おう。そうだな。」
何となく木曾にはぐらかされたような感じだが、皐月は、「ごっはーん!」と、嬉しそうにかけていった。
「悪いな、春雨。その質問にはまた今度な。」
俺は春雨に向かって謝るように手を向けた。
「あ、いえ。気にしないでください。私も変な質問にしましたし。」
と言うと、春雨はぺこりとお辞儀をして皐月の後を追いかけていった。
「…………木曾、どう言うことだ。」
俺は無理矢理話を切った木曾を軽く睨む。それくらい春雨の質問は理解できないものだった。
木曾は海の上に居るときと同じくらいに真剣な表情でこちらを睨み返してきた。
「…………アイツはな、学校に通ったことが無いんだ。」
「……………………。」
だいたい予想通りの説明が返ってきた。艦娘になる前の環境が酷かったのだろうか、と考えていた。
「アイツはな、人間じゃねぇんだ。」
だから、そのあとの木曾の言葉の意味が理解できなかった。
「…………は?ちょ、え?どう言うことだよおい!?」
俺は周りからみても明らかなほど動揺した。
人間じゃない。
それは俺たちも今では人間ではない。しかし、木曾の様子を見るに、今の話をしている訳では無さそうだ。
木曾はポツリポツリと話し始めた。
「アイツはな、今から半年近く前……だいたい、お前がここに来る二ヶ月前位に見つけられたんだ。」
「海の上で、な。」
「大半の艦娘は、普通の人間の中に適正を持ってる奴がなるんだがな。たまに、今まで居なかった艦種の奴が現れることがあるんだ。そいつらはたいてい海の上で寝転んでたりしてるな。春雨もそうだった。」
「そいつらは見た目相当の精神年齢してて、普通に言葉も話す。だけど、それより前の記憶は全くない。取り合えず、見付けた鎮守府に連れてって、そこの一員にする。」
「俺達はそんな新しい艦種である艦娘達を、『始祖』って呼んでる。」
木曾は最後にそう言って、口を閉じた。
「……………………。」
俺は頭の中で、少し前に鳳翔さんに言われてたことを思い出した。
『あなたは『始祖の木曾』の血を引いてる…………。だから、絶対に後悔しないこと、受け入れること、そして、抗うこと。』
あぁ、そうか。
俺のお袋も、人間じゃあ無かったのか。
……………………。
「だからどうした。」
俺はそう言った。木曾は大きく目を見開いていた。
「例えば春雨。お前はあれが人間に見えないのか?俺には少し内気な女子高生位にしか見えねぇな。」
「それに、鳳翔さんから聞いたけど、俺のお袋も『始祖』らしいしな。俺も半分は人間じゃねぇ。人のことなんて言えねぇし、言う気もねぇ。」
「んなこと気にしてる暇があったら、この戦争を早く終わらせて、アイツを学校に通わせる事でも考えた方がいいわ。」
俺はそう言うと、ポカンとしている木曾を置いて屋上から中に入った。
…………なぜか知らないが、木曾に少しイラッと来てしまった。
―食堂―
「…………はぁ。」
俺はそこそこ大きなため息をついた。
「どうしたんですか、千尋さん?」
目の前に座る青葉が心配そう…………ではなく、興味津々といった感じでこちらを見てくる。
食堂に入って、いつも通り天龍や時雨と飯を食おうかと思ったら、珍しく青葉が誘ってきた。断るのも申し訳無いから、天龍たちには悪いが今回はこっちに来た。
「いや、なんと言うか…………どんな人間も神様みてぇな完璧な奴にはなれねぇんだろうなぁと。」
俺はもう一つため息をして、唐揚げを一つ食べる。
「ふむ、千尋さんの尊敬してる人と言いますと、木曾さんですね?」
「…………あと、情報網のおかしいやつが近くにいるってのも原因の一つかもな。」
俺は青葉にそんな軽口を叩いていた。
「む、千尋か。どうした、神妙な顔をして。」
すると、俺と同じ唐揚げ定食が乗ったトレーを持った長門さんが近くを通った。
「あ、長門さん。まぁ、あれですよ。思春期ってやつですよ。」
おいこら青葉テメェ。勝手なこと口走ってんじゃねぇ。
「ふむ、悩みと言うのは誰にでも有るものだし、そんな時期も当然私にもあった。気にするものではない。思春期に少年から大人に変わるのだ。」
「どこのシンデレラですか。」
その理論だと、どこかで大人の階段を見つける必要があるがな。
「ところで、長門さんも一緒に食べませんか?」
俺の誤解を解く暇も与えず、青葉が長門さんを誘う。こいつ、嘘を真実にしようとしてる…………。
まぁ、思春期とか中二病とかは本人がノーと言ってもムダなものだ。長門さんなら広めないと信じよう。
「ふむ、悪くはないな。では、お邪魔させてもらおう。」
長門さんは青葉の隣の席に腰を下ろす。箸を手にとって、「いただきます。」と一言言ってから、味噌汁をすする。
…………やはり、凛々しい人だな、と思った。一つ一つの動作すべてが様になってる。
これが、この鎮守府で唯一木曾と同等に戦える人、戦艦 長門。
普段の生活ですら、雰囲気が生半可ものではない。
「そう言えば、今日の演習は素晴らしかったですね!特に最後千尋さんが水中から飛び出した所!一瞬で戦況がひっくり返りましたね!」
青葉は少し興奮したようにそう言った。確かに、最後のは上手く行き過ぎてるというか…………。
「あそこで千尋がうまいこと伝えてくれたからな。あとは待つだけだったさ。」
長門さんはあくまで俺を持ち上げてくれる。
「いや、それでも長門さんの存在は大きかったですよ。多少無茶してもなんとかなるかなと。」
だから、俺も長門さんを持ち上げる。
やはり、俺はこの人や木曾ほどの実力はまだまだない。早く追い付いてみせたい。
「……………………まーた謙遜してる(ボソッ)。」
「ん?青葉、なんか言ったか?」
「いいえ、何も?」
なにか青葉が呟いた気がしたが…………気のせいか。
「そう言えば、千尋は演習で初めてMVPを獲得したな。おめでとう。」
と、長門さんが言った。厳正な審査の結果、俺がMVPということになったらしい。まぁ、ありがたい話だ。
「ありがとうございます。」
「となると…………二人とも、このあと時間あるか?」
と、長門さんは声の大きさを少し落として聞いてきた。
「ん、あ、はい。特には。」
「私も今日は暇なんですよね…………。」
「ふむ、それでは、二二〇〇に私の部屋へ来てくれ。」
「「……………………?」」
俺と青葉はお互いに顔を見合わせた。長門さんが俺達二人に用事でも有るのだろうか。
「それでは、私は準備してくる。ごちそうさまでした。」
長門さんはそう言うと、いつの間にやら食べ終わっていたトレーを持ち、スタスタと歩いていってしまった。いやほんと、いつの間に…………。
「…………なんと言うか、なに考えてるか読めない人だな。」
「同感です…………彼女だけは本当に読めない…………(と言うことにしときましょう)。」
俺達は長門さんの後ろ姿を眺めながら、少し冷めてきている晩飯を食べ始めた。
…………何となく、色んなことが起こる日だな、と思った。
後書き
読んでくれてありがとうございます。『始祖』と言うのは読んで字の如し、物事の一番始めです。二号のお母さんは『始祖の木曾』ですし、ここの春雨は、『始祖の春雨』ってことです。まぁ、そのあたりはその内。
それと、このサイトでのUAが一万を突発しました。投稿し始めたときの目標である千の十倍です。本当に感謝しかありません。これからも、『男艦娘 木曾』をよろしくお願いします(最近お願いしてばっかだな)。
それでは、また次回。
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