・・・賑やかな声で今日が始まる・・・あの声は天美さんだな。話の内容までは分からないが・・・。
扉からトントンと音が聞こえた。
七夏「柚樹さん、起きてますか?」
七夏ちゃんが声を掛けてくれる。
時崎「七夏ちゃん! どうぞ!」
七夏「おはようございます!」
心桜「お兄さん! おはようー!」
七夏ちゃんの後から天美さんも顔を見せる。
時崎「おはよう! 七夏ちゃん! 天美さん!」
心桜「やっぱ、つっちゃーが先かぁ~」
七夏「え!?」
時崎「七夏ちゃんが、先に挨拶してくれたからね」
心桜「それだけ?」
時崎「それだけって、他に何かあるの?」
七夏「・・・・・」
心桜「そりゃー・・・」
笹夜「おはようございます♪」
時崎「おはようございます! 高月さん!」
七夏「おはようございます! 笹夜先輩!」
心桜「おはようございます!」
笹夜「みんな揃って、どうしたのかしら?」
七夏「柚樹さん、起きてるかなって、思って」
心桜「お兄さんって、朝弱いの?」
時崎「え!?」
七夏「えっと、柚樹さん、昨日は夜ふかしさんだったみたいだから・・・」
時崎「七夏ちゃん、ありがとう!」
七夏「え!?」
時崎「お布団、掛けてくれたみたいだから」
七夏「あ・・・はい☆」
心桜「つっちゃー、夜遅く、お兄さんの部屋に潜入ですか!?」
七夏「え!?」
笹夜「こ、心桜さん!」
心桜「なんですか? 笹夜先輩?」
笹夜「ええっと・・・」
七夏「えっと、夜遅くに、柚樹さんのお部屋の灯りが点いていたみたいだから、まだ起きてるのかなって」
時崎「ごめん。七夏ちゃん・・・気をつけるよ」
七夏「くすっ☆」
心桜「んー、おかしいなー」
笹夜「心桜さん!?」
心桜「昨日、あんなに沢山食べたのに、お腹減ってる!」
笹夜「お料理が美味しかったからかしら!?」
心桜「そだねー、また美味しい料理が食べられると思うとね~」
時崎「確かに! 俺も普段より食べている気がする」
七夏「では私、朝食の準備がありますので」
時崎「俺も手伝うよ」
七夏「ありがとです☆ ここちゃーと、笹夜先輩は、ごゆっくりどうぞです☆」
心桜「ありがとー、つっちゃー!」
笹夜「ありがとう。七夏ちゃん♪」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩!」
笹夜「何かしら?」
心桜「ちょっと、今日の予定を~」
笹夜「そうですね♪」
七夏ちゃんは、朝食の準備の為、台所へ・・・俺も七夏ちゃんを手伝う。
心桜「今日は、午後から海へお出掛けだよね!」
笹夜「ええ♪」
心桜「念の為、持ち物を確認しておきますか」
笹夜「はい。日焼け止め、基礎化粧品、帽子、バスタオルに救急箱もあります」
心桜「あとは、水筒! ラップタオルとビーチサンダルは、つっちゃーが用意するって話してた」
笹夜「はい♪ 助かります♪」
心桜「お菓子や飲み物は、つっちゃーのとこでも買えるよ!」
笹夜「はい♪」
心桜「他に何か買っておく物とか、ありますか?」
笹夜「特には・・・大丈夫・・・かしら?」
心桜「んじゃ、それまで、のんびりと過ごしますか!」
笹夜「そうですね♪ でも、私達だけのんびり過ごしていいのかしら?」
心桜「つっちゃーは、いつもあんな感じだからね~、あたしが手伝おうとすると『私にまかせて!』って言って、なかなか手伝わせてくれないから」
笹夜「まあ! 七夏ちゃんらしい♪」
心桜「ま、つっちゃーは、手伝ってほしい時はすぐ分かるから!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「・・・と言う事で!」
笹夜「???」
心桜「今からこれ!」
笹夜「それは、トランプ!?」
心桜「っそ! 定番だけどね。みんなで遊べるし・・・他に何か遊べる事ないかなー」
笹夜「意外と思い付かないものですね♪」
心桜「笹夜先輩は、普段どんな事して遊んでます?」
笹夜「本を読んでいたり・・・かしら?」
心桜「つっちゃーと一緒か・・・ま、つっちゃーと笹夜先輩は『小説繋がり』だって聞いてるけど、もしここで二人が小説を読み始めたら、あたし孤立かも~」
笹夜「さすがにそれは・・・」
心桜「でも、つっちゃーなら有り得るから、笑えないんだよね~」
笹夜「あら!」
心桜「つっちゃー本読み始めたら、ちょっと声かけても気付いてくれない事あるから」
笹夜「分からなくはないですけど・・・確かに・・・」
心桜「おっ! 笹夜先輩もですか?」
笹夜「私が七夏ちゃんと、初めて出逢った時・・・学校の音楽室だったかしら・・・その時の七夏ちゃんは本を読んでいて---」
-----当時の回想1-----
私が放課後の音楽室の隣・・・音楽資料室に入った時、そこに一人の女の子が居たの・・・でも、その女の子・・・七夏ちゃんは、本を読む事に集中しているのか、私の事に気付いてないみたいで・・・。
笹夜「!?」
七夏「・・・・・」
私も本に集中している事があるから、邪魔してはダメかなと、そのままその場所で、本を読む事にしたの・・・。それから30分くらい経過したかしら・・・チャイムの音で二人は、それぞれの本の世界から現実世界へ・・・。
七夏「あ、えっと・・・」
笹夜「こんにちは♪」
七夏「こ、こんにちは・・・です」
笹夜「こちらに、何か御用だったのかしら?」
七夏「えっと、音楽で、ちょっと調べたい事があって・・・すみません」
笹夜「謝らなくてもいいわ。放課後はどなたでも入っていい事になってますので♪」
七夏「ありがとう・・・ございます」
----------------
笹夜「その時の七夏ちゃんは、夕日の光で顔がよく見えなかったけど、挨拶で私の前に来た時、その瞳に驚いたわ」
心桜「やっぱり、最初はそうなりますよね」
笹夜「ええ。だけど、私はその事を敢えて言わなかったの」
心桜「どうしてですか?」
笹夜「人と違う特徴に気付いても、安易に言わない事・・・その特徴を本人が気に入っているかどうか分かるまでは・・・」
心桜「それって、笹夜先輩にとって髪の・・・」
笹夜「・・・・・」
心桜「あ、すみません」
笹夜「いえ・・・私・・・七夏ちゃんが自分の髪の事を話してきたら、私も訊いてみようかなって・・・でも、七夏ちゃんは話してこなかったの」
心桜「つっちゃーなら、そう・・・なる・・・か」
笹夜「ですから、私は七夏ちゃんの瞳の事は言わない事にしたの。その方が七夏ちゃんと、これから先も繋がってゆける気がして・・・」
心桜「初対面時の言葉って、その後に大きな影響を与えるって事ですよね?」
笹夜「そうですね。私が良いと思った事でも、本人にとっては良い事かどうか分からないから・・・かしら?」
心桜「本当に見てほしいのは、そこじゃなくて・・・って事ですよね?」
笹夜「・・・・・はい♪」
-----当時の回想2-----
笹夜「調べたい事は見つかったのかしら?」
七夏「えっと・・・その・・・」
七夏ちゃんは、読んでいた本・・・小説に登場する作曲家の事について調べようと思って音楽資料室へ来たらしいの。でも、そこで作曲家の事を確認する為に小説を読み始めて、そのまま小説の世界へ・・・という事だったみたい。七夏ちゃんが読んでいた小説を見て、また驚いたわ・・・それは、私が読んでいた小説と同じだったの・・・。
笹夜「フレデリック・フランソワ・ショパン・・・かしら?」
七夏「え!? ど、どおして!?」
七夏ちゃんは目を大きく見開いて驚いていたけど、その綺麗な瞳に改めて驚いたわ。
私は、さっき自分が読んでいた小説を、七夏ちゃんに見せました。
笹夜「これ・・・かしら?」
七夏「あっ! はっ! はい!!!」
笹夜「あなたも、この小説、好きなのかしら?」
七夏「はい! でも、小説では音楽の事までよく分からなくて・・・この小説の少女さんがよく聴いているショパンさんの事について、少しでも分かればと思って・・・」
笹夜「なるほど♪」
私は、七夏ちゃんがショパンの音楽がどんな音楽なのか・・・恐らく、聞けば一度は聞いた事がある曲だと思うのですけど、この小説でよく書かれている曲のピースを本棚から取り、七夏ちゃんに見せてあげました。
七夏「えっと・・・それは?」
笹夜「ピアノピースです!」
七夏「ぴあのぴーす?」
笹夜「ピアノの楽譜の事です♪」
七夏「あっ、楽譜! はい☆」
笹夜「ショパンの有名なノクターン」
七夏「のくたーん?」
笹夜「夜想曲第2番OP9-2」
七夏「???」
笹夜「ちょっと、こちらへ、いいかしら?」
七夏「え!? は、はい!」
私は、隣の音楽室にあるピアノの前に七夏ちゃんを連れてきて、夜想曲を演奏したの。
笹夜「これが、夜想曲第2番OP9-2です・・・伝わったかしら?」
七夏「・・・すごいです・・・音楽は聴いた事がありますけど、今の演奏、とっても心地よく響いてきました☆」
笹夜「ショパンご本人が、どのようにこの曲を演奏されたかは分からないですので、私なりの解釈が入っていますけど・・・」
七夏「私は今の演奏、とっても良かったと思います!」
笹夜「ありがとう」
七夏「こちらこそ・・・えっと・・・」
笹夜「高月笹夜と言います」
七夏「私、水風七夏と申します! すみません。先輩に対して、ご挨拶が遅くなってしまいました」
笹夜「気にしないで♪」
七夏「ありがとうございます! えっと、高月・・・先輩!」
笹夜「はい♪」
七夏「これからも、ここに来てもいいですか?」
笹夜「ええ! 是非! 水風さんなら歓迎するわ♪」
七夏「ありがとうございます☆」
----------------
笹夜「その日以来、七夏ちゃんは時々、音楽室に来てくれるようになって、小説のお話をしたり、ピアノ演奏を聴いてくれたり・・・かしら?」
心桜「そっか。あたしは放課後、部活がある時は、つっちゃーいつも先に家に帰ってたけど、最近、あたしと帰りが同じになる事があったのは、笹夜先輩と一緒だったということかぁ」
笹夜「七夏ちゃん、帰り遅くなって大丈夫? って私が訊くと『もうすぐ、お友達と一緒に帰れるから』って話してたわ♪」
心桜「え!? そうだったの!?」
笹夜「七夏ちゃん、きっと心桜さんと一緒に帰りたかったのだと思うわ」
心桜「もう! つっちゃー、一言もそんなこと言わないんだから・・・」
笹夜「そうなの?」
心桜「うん『小説読んでたら、遅くなっちゃった☆』って!」
笹夜「まあ! 七夏ちゃんらしいわね♪」
心桜「でも、まさか、つっちゃーが、笹夜先輩と仲良しになってたなんて、あの時は驚いたよ!」
笹夜「あの時?」
心桜「あたし達の音楽の授業が終わった後、笹夜先輩、音楽室に来た事あるでしょ!?」
笹夜「ええ、音楽の授業がありましたので」
心桜「んで、その時、つっちゃーから笹夜先輩に話し掛けてたから・・・」
笹夜「なるほど♪」
心桜「あたしは、笹夜先輩の事、前から知ってました!」
笹夜「え!?」
心桜「今は気軽に言えますけど、髪・・・とっても綺麗な人だなーって」
笹夜「ありがとう。心桜さん・・・あれから、3ヶ月・・・になるのですね」
心桜「まだ、3ヶ月なんですよね・・・笹夜先輩とは、もっと昔から一緒だったような気がするよ!」
笹夜「これからも、よろしくお願いいたします♪」
心桜「え!? こ、こちらこそ末永くよろしくお願いいたします!」
笹夜「はい♪」
心桜「んで、トランプなんですけど、定番の『ババ抜き』とか!?」
笹夜「今は2人ですから、どっちがジョーカーを持ってるか、分かってしまうのではないかしら?」
心桜「そだねー。そこで! ちょっとアレンジして『ジジ抜き』にしてみよー!」
笹夜「???」
心桜「笹夜先輩! この中から一枚選んで! 選んだら表面を見ないでここに置いて」
笹夜「え!? ええ」
心桜「そのカードが『ジジ』だから!」
笹夜「なるほど♪」
心桜「ジョーカーが2枚ある理由は『およびでない』ということでは無かったのだ!」
笹夜「???」
心桜「あー、やっぱ無理だったかぁ~」
笹夜「お呼びでない・・・あ、『予備でない』かしら?」
心桜「そゆこと!」
七夏「ここちゃー、笹夜先輩☆」
心桜「お、つっちゃーいいところに!」
七夏「えっと、朝食の準備が出来ました☆」
心桜「おー! そうだった!」
笹夜「七夏ちゃん、ありがとう♪」
七夏「一階に降りてきてくださいませ☆」
心桜「はーい! んじゃ行こ! 笹夜先輩!」
笹夜「ええ♪」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時崎「七夏ちゃん! これは?」
七夏「あ、こっちにお願いします☆」
心桜「つっちゃーいつもありがと!」
七夏「くすっ☆」
笹夜「失礼します♪」
昨日と同じように天美さんと高月さんが座る。
七夏「柚樹さんも、座ってください☆」
時崎「ありがとう! 七夏ちゃん!」
心桜「うぉーし! いただきまーす!」
笹夜「いただきます♪」
心桜「んー、やっぱ和食はいいね~」
七夏「くすっ☆」
心桜「ねねっ! 笹夜先輩!」
笹夜「なにかしら?」
心桜「笹夜先輩って、朝は洋食が多かったりします?」
笹夜「洋食の時もありますけど、どおしてかしら?」
心桜「いえ、なんとなく、あんまり食べてないなーって」
七夏「笹夜先輩、苦手な食べ物、ありましたか?」
笹夜「いえ、ただ・・・」
心桜「ただ?」
笹夜「昨日、少し食べ過ぎたからその・・・」
心桜「そんな事なら心配ないよ! 笹夜先輩スタイル抜群だから! ねっ! つっちゃー!?」
七夏「はい☆」
笹夜「そうではなくて・・・その・・・」
心桜「?」
時崎「高月さん、まだそんなにって事かな?」
笹夜「・・・はい」
心桜「何がそんなに?」
笹夜「時崎さん、よかったらこれ・・・」
時崎「ありがとう! いただくよ!」
心桜「おやおやー? 笹夜先輩? 玉子焼き苦手でしたっけ?」
七夏「ここちゃー、そうではなくて」
心桜「なになに!? みんなして『そうじゃない』って!?」
笹夜「心桜さん・・・昨日、あんなに沢山食べていたのに・・・」
心桜「昨日!? あーそう言う事かっ!! ようやく分かったよ!」
七夏「笹夜先輩! 梨はどうですか? あっさりしてます☆」
笹夜「まあ! ありがとう♪ 七夏ちゃん♪」
七夏ちゃんは笹夜先輩にデザート用の果物を持ってきたみたいだ。
心桜「えーと、お醤油、お醤油・・・」
天美さんが、お醤油を探しているのに気付いた高月さんは、前屈みの姿勢で手を伸ばし、お醤油を取ろうとする。その時、高月さんの服の一部がお料理に触れそうになり---
時崎「高月さん! 危ない!」
笹夜「きゃっ!」
俺は咄嗟に高月さんの服を手の甲で押さえたが、勢い余って、あろう事か、高月さんの「柔らかいの」に触れてしまった!
時崎「あっ! ご、ゴメン! 高月さんっ!」
笹夜「・・・いえ・・・」
これは気まずい! どうするっ!?
心桜「笹夜先輩が、お醤油取ってくれようとして、お兄さんが、笹夜先輩の服を守ったって事だよね!」
時崎「え!? あ、ああ」
笹夜「時崎さん・・・すみません」
時崎「いや、こっちこそ」
心桜「んで、笹夜先輩の服を守った、お兄さんに与えられた報酬が、柔らかい笹夜先輩の---」
笹夜「こ、心桜さんっ!」
心桜「あははっ!」
笹夜「時崎さん・・・ありがとう・・・ございます」
時崎「いや・・・申し訳ない」
笹夜「・・・はい♪」
時崎「天美さん、ありがとう!」
心桜「ん? 何が?」
天美さんの言葉に助けられた・・・自分の事に対しては鈍くても、他人への気遣いはとても鋭い・・・七夏ちゃんとは、また違う、ストレートな気遣いだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
心桜「うー、ちょっと食べ過ぎたー」
笹夜「心桜さん、昨日も同じ事を・・・」
心桜「だって、美味しいんだもん!」
七夏「くすっ☆」
時崎「七夏ちゃん! ごちそうさま!」
笹夜「ごちそうさまでした♪」
七夏「はい☆」
心桜「つっちゃーゴメン! あたし、ちょっと部屋で横になるよ」
笹夜「私も、お部屋に戻ります♪」
七夏「はい☆」
心桜「んじゃ!」
笹夜「失礼いたします♪」
天美さんと高月さんは二階へと上がってゆく。
時崎「七夏ちゃん!」
七夏「はい!?」
時崎「天美さんと高月さんは、風水によくお泊まりに来るの?」
七夏「えっと、ここちゃーは、夏休みに毎年ですけど、笹夜先輩は初めてです」
時崎「そうなんだ」
七夏「はい☆ どうかしましたか?」
時崎「天美さんと高月さん、反応が違ってたから」
七夏「笹夜先輩とは出逢ってまだ三ヶ月くらいですので」
時崎「え!? そんな風には見えなかったけど?」
七夏「くすっ☆ 私も笹夜先輩とは、もっと前から一緒だったように思えます☆」
時崎「高月さんは、七夏ちゃんの先輩なんだよね?」
七夏「はい☆」
時崎「部活かな?」
七夏「いえ、笹夜先輩とは今年の春、私が小説の事で調べたい事があって、音楽資料室で・・・」
凪咲「七夏、ちょっといいかしら?」
七夏「あ、はーい! 柚樹さん、いいですか?」
時崎「ああ」
七夏「ちょっと、失礼しますね☆」
七夏ちゃんは、凪咲さんの所へ・・・。
七夏ちゃんと高月さんは、音楽資料室で出逢ったのだろうか?
ある事が頭を過ぎる・・・七夏ちゃんの事を訊くのは躊躇っていたのに、高月さんの事は七夏ちゃんにすんなり訊いている・・・まあ、これは本人に直接訊いている訳ではないからなのだが、天美さんや高月さんと仲良くなれば、七夏ちゃんの事をもっと知る機会は自然と増えるだろう。
七夏ちゃんが「俺は知らないと思っている事」を、俺が事前に知っていると、七夏ちゃんはどう思うだろうか・・・。
午後からは七夏ちゃんたちと海へお出かけなので、俺も準備のため、自部屋へと戻る事にした。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
この街の海へは前にも出かけた事がある・・・その時、七夏ちゃんの水着と帽子を買った事を思い出す。そう、七夏ちゃんの水着姿は、今のところ俺の記憶にしかない。出来れば凪咲さんに渡すアルバムに添えたい所だ。
出かける準備を進めながら、そんな事を考える自分に違和感を覚える。
・・・俺は、人物の写真撮影を避けていたのではないのか!?
七夏ちゃん、天美さん、そして、高月さんの写真は、撮影したいと思うようになってきている。俺の気持ちが変わってゆくように、七夏ちゃんの写真に対する思いも良い方向に変わってくれる事を願う。
さて、写真機の電池、予備の電池の充電も完了している。写真機のメモリーカード内のデータをMyPadに移動させておく。これで、メモリーカードの残容量も十分確保された。写真関係以外でも何か持ってゆく物が無いか確認しておいた方が良いかも知れない。
俺は、一階へ移動した。
時崎「七夏ちゃん! それは!?」
七夏「えっと、今日のお昼用にと思って☆」
七夏ちゃんは「サンドイッチ」を作っているようだ。前の「おむすび」の時みたいに手伝おうかと思ったが、既にほぼ作り終えているようだ。
凪咲「柚樹君。ちょっといいかしら?」
時崎「はい!」
凪咲さんに呼ばれ、改めて今日のお礼と、お願いをされる。女の子三人だけで海へ出かける事は色々と危険な要素もあるから、その点について気をつけてほしいと頼まれた。これは言われなくても分かっているつもりだけど、昨日、高月さんがナンパされた事を考えると、本当に気を配らなければならないと思う。
七夏「柚樹さん!」
時崎「七夏ちゃん、どうしたの?」
七夏「お昼のお弁当、みんなの分もありますので、ここに置いておきますね☆」
時崎「ありがとう!」
七夏「それでは、私、お出掛けの準備、いたしますね☆」
時崎「あ、ああ」
七夏ちゃんは、お出掛けの準備・・・お着替かな・・・自分のお部屋に戻ったようだ。
この後、七夏ちゃん、天美さん、高月さんと海へお出掛けだ。俺は高鳴る気持ちを抑えつつ、三人が安心して楽しめるように、改めて気合を入れるのだった。
第十八幕 完
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次回予告
砂浜の上で弾む少女たちは、とても楽しく輝いている・・・。これは良い思い出へとなってくれると思っていたのだが・・・
次回、翠碧色の虹、第十九幕
「夏の海と弾む虹」
俺は、弾む虹が落とす影の存在に気付かされる事となる。