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英雄伝説~光の戦士の軌跡~

作者:トロイヌ
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第六話

 
前書き
寝落ちしたせいで書き終わるのが数日遅れてしまった。

 

 
ラウラとの模擬戦から約二週間、カイム達はほぼ問題なく学院生活を過ごしていた。ほぼというのは現状のⅦ組唯一にして最大の問題であるユーシスとマキアスの対立である。基本的には互いに無視し合っているのだが、何かしらの発言などでユーシスが厭味ったらしい事を言ってそれにマキアスが過剰反応し言い合いになり、酷くなりそうならそれを他のメンバーが止めに入るという事が殆ど毎日行われているのである。無論カイムも止めには入っているのだが、自然な解決が絶望的な以上、何かしら転機が来るのを祈る以外完全な解決は無理と判断していた。
あと問題といえるのは精々フィーが授業中寝る事があるくらいだろう。これは教師が気付く前に両隣に座っているカイムとエマが何とか起こしているが、時折起こせないこともあった。その際の各教師の反応はスルー、苦笑い、顔をしかめる、青筋を浮かべるなど様々だが大概その時の問題や説教はカイムに向けられるのが基本になっている。
そんな日々が続いた後の4月17日の放課後、教室にやって来たサラが話をしていた。


「前にも伝えたと思うけど、明日は《自由行動日》になるわ。厳密に言うと休日じゃないけど、授業はないし何をするのも生徒達の自由に任されているわ。帝都に遊びに行ったっていいし、何だったらあたしみたいに一日中寝てても構わないわよ?」

「……仮にも教員、しかも女がそれってどうなんだよ。」

「うっさいわねぇ、別にいいでしょ?それともアンタが相手してくれるのかしら?」

「知るか、趣味でも見つけるか仕事しろい。」

「いけず。」


サラの説明の後の言葉とカイムとのやり取りに全員が呆れていたが、その反応を無視して普通のクラスには無いⅦ組のカリキュラムについて説明を始めた。
一つは来週に行われる実技テスト。月に一回行われるそれは戦闘訓練の一環であり評価対象のテストでもあるらしい。
もう一つは実技テストの後に説明するらしくこの場ではぼかされ、その日のHRは終了した。それぞれ教室から出ており中に残っているのはカイム、リィン、エリオット、ガイウスの四人だけだった。


「《実技テスト》かぁ……ちょっと憂鬱だなぁ。魔導杖もまだちゃんと使いこなせてないし。」

「そんなに心配なら、一緒に稽古でもしておくか?修錬場もあるみたいだし、よかったら付き合うぞ。」

「何なら俺も付き合おうか?こういうのは実際に使ったりするのが一番だしな。」


リィンとカイムの提案にエリオットは申し訳なさそうな表情で断った。どうやらもう所属するクラブに当たりをつけていたらしく吹奏楽部に顔を出すらしい。


「担当するのはバイオリンになりそうだけどね。」

「へえ……バイオリンなんて弾けるのか。趣味でやってたのか?」

「えへへ、まあね……そういえば皆は楽器とかできたりするの?」


その質問に対してリィンとガイウスは否と答えカイムは是と答えた。


「カイムって何気に多芸だよね。それで何の楽器?」

「ピアノとリュートを主にあと数種かね、全部知り合いにしこまれたんだ。といってもレパートリーはそんなに多くないけどな。」

「それだけできれば十分だと思うけどな。」

「うむ、機会があれば聴いてみたいものだ。」

「そんな大したもんじゃないさ。そういえばガイウスとリィンはクラブに所属したりするのか?」


リィンとガイウスの純粋な賞賛にくすぐったそう返しながらカイムは二人に尋ねた。


「俺は美術部という所に入ろうかと思っている。」

「美術部……ちょっと意外だな。」


リィンの言葉にカイムとエリオットは頷く。槍術を使い体格のいいガイウスはクラブに入るとしたら運動系のクラブに所属すると思っていたからだ。


「ガイウス、絵とか描くんだ?」

「故郷にいた頃にたまに趣味で描いていた。ほぼ我流だから、きちんとした技術を習えるのはありがたいと思ってな。」

「そっかぁ……。」

「故郷というとノルドだったな。興味あるし今度見せてくれよ。」

「ああ、構わない。」


四人がクラブ関係の話に花を咲かせていると教室にサラが入ってきた。


「よかった、まだ残ってたわね。」

「サラ教官。」

「どうしたんですか?」

「いや~、実は誰かに頼みたい事があったのよ。この学院の《生徒会》で受け取ってほしい物があってね。」


サラの言葉に四人はまた面倒事かと内心で溜息をついていた。サラがいうには学院生活を送る上で欠かせないアイテムということらしく誰でもいいので取ってきてほしいとのことだ。それに対しリィンは入るクラブも決まっていないので見学と一緒に自分が取って来ると申し出た。










サラの頼みごとをリィンが受けてから数分後、生徒会のある建物への道をリィンとカイムが歩いていた。あの後、カイムも手伝いを申し出たのだ。


「悪いな、付き合ってもらって。」

「気にすんな、俺もどこに所属するか決めてなかったしな。」

「そうなのか?調理部とかフェンシング部とかには入らないのか?カイムに合ってるような気がするんだが。」

「俺これでも一応正規軍所属で皇族の護衛だからな、クラブとか入るとちと不便なんだわ。調理部のニコラス先輩、フェンシング部のフリーデル先輩とロギンス先輩には暇があれば顔を出してくれとか言われたけどな。」

「色々大変なんだな……と。」


二人が話をしながら歩いているとリィンが急に足を止め、視線を移した。不思議に思いカイムもリィンの視線の先を見てみるとそこにはオリエンテーリングで中を探索した旧校舎があった。


「どうかしたのか?」

「いや、旧校舎を見ると今更ながら入学式からとんでもない所に放り込まれたもんだと思ってな。」

「あー、確かに。」


入学式の事を少し談笑しながら再び生徒会室向かおうとして、


「「!!?」」


突如旧校舎の方から妙な、重い気配を感じて咄嗟に二人揃って刀を構えた。それから数秒、意識を張り詰めたがそれ以上何も起こらなかった為、納刀する。


「……リィン。」

「二人揃って感じたんなら気のせいじゃないみたいだな。」

「ああ、気のせいにしては重過ぎる。……何があるっていうんだ?」

「……ここで話しても仕方ない。気にはなるけど今は生徒会室に行こう。」

「それもそうだな……。」


未だ気配の正体は分からないがここで二人で憶測を話していても埒が明かないということで、この件はあとでサラ達教官等に話す事にし、二人は再び生徒会室に向かい始めた。










旧校舎で妙な気配を感じてから数分後、二人は生徒会館の前に立っていた。


「サラ教官が言ってたのはこの建物だな。」

「ああ。さて、生徒会室は……一階は食堂だし多分二階だろうな、入ろうぜ。」


カイムの言葉にリィンが賛成し中に入ろうとした時、後ろから声をかけられた。


「よ、後輩君達。」


声のした方向を向いてみると、バッグを背負いバンダナをつけた銀髪の青年が立っていた。


「えっと……?」

「お勤めゴクローさん。入学して半月になるが調子の方はどうよ?」

「あ、ええ……(どうやら先輩みたいだな)。」

「まあボチボチです(崖の上から見ていた人間の一人はこの人か……)。」


青年の問いかけに答えながらリィンは発言から彼を先輩と判断し、カイムは気配からオリエンテーリングの時に旧校舎右側の崖から見ていた人物の一人が彼だと確信した。


「――正直大変ですけど今は何とかやっている状況です。授業やカリキュラムが本格化したら目が回りそうな気がしますけど。」

「面倒そうな気配がプンプンしますしねぇ。」

「はは、分かってんじゃん。特にお前さん達は色々てんこ盛りだろうからなー。ま、せいぜい肩の力を抜くんだな。」

「だって。言われてるぞ、リィン。」

「は、はあ……って待て、これ俺限定か!?」

「お前は俺と違ってくそ真面目だからな、色々面倒背負いそうな未来がよく見えるぞ?」

「不吉な事を言わないでくれ!!……と、ところで先輩ですよね?名前を伺っても構いませんか?」


リィンの質問に今迄の二人のやり取りをニヤニヤしながら見ていた青年は慌てるな、と言いながら彼曰く『面白い手品』をやる為にリィンから50ミラコインを借りていた。


「そんじゃあ――よーく見とけよ。」


そう言うと青年はコインを上に弾き落ちてきた所を両手で掴む動作で交差させた後、その両手を二人の前に差し出した。


「――さて問題。右手と左手、どっちにコインがある?」


どうやら手品というよりはよくある簡単な博打のような物だった。リィンは少し悩んだ後右手を選択した。そしてカイムは……


「ほら、黒髪後輩は右手だそうだ。そっちの白髪後輩はどっちなんだ?」

「髪の色で呼ぶのやめて貰えませんかね、というかどっちにもないでしょ。」

「え?」

「へえ……。」


カイムの言葉にリィンと青年は驚きの表情を浮かべた。何せカイムはどちらか選べと言われどちらでもないと言ったのだから。


「じゃあコインは一体どこにあるか……答えてみな?」

「その下のバッグの中でしょう?よくあるミスディレクションの一つだ。落ちて来た物を掴む動作で腕に視線を向けさせてコインから視線を外すっていうね。」

「……ククク、参ったぜ正解だ。流石、オリエンテーリングで俺達に気付いただけはある。そっちの黒髪後輩も精進しろよ。」


カイムの言葉に青年は素直に負けを認めそのまま学園の入り口に向かおうとし、思い出したかのように二人に向き直った。


「――そうそう。生徒会室なら二階の奥だぜ。そんじゃ、よい週末を。」


そう言うと今度こそ青年は去っていった。残された二人はその背中を見送った後、さっきの事について話し始めた。


「さっきの良く分かったな。それにオリエンテーリングの事って……。」

「ああいうペテンやる奴には腐るほど会って来たからな、あれ以上も割とあるし今更惑わされんさ。オリエンテーリングに関してはどうやらⅦ組に少し関わってるんだろうさ、近くの崖の上で何人かとこっちを見てたよ。……ところで50ミラ持ってかれたぞ。」

「え、あ……。」

「日々これ精進。今度は気を抜くなよ?」

「肝に銘じておくよ、しかし2年生もクセモノ揃いのようだ。まさか会長も……?」

「そう考えると気が重くなるがしゃあない、行こう。」


そう話しながら二人は生徒会館に入り、二回へ上って一番奥の生徒会室の前に立っていた。


「ここみたいだな。」

「だな。では……。」


部屋を確認しカイムがドアをノックすると中から女子の声が聞こえてきた。


「はいはーい。鍵は掛かってないからそのままどーぞ。」


聞こえてきた女子の声に二人は聞き覚えがあった。言われた通り中に入るとそこには入学式の日に自分達を校門で迎えてくれた小柄な少女がいた。少女はこちらを向くと笑顔で近づいてきた。


「えへへ、二週間ぶりだね。生徒会室にようこそ、リィン・シュバルツァー君、カイム・グレイス君。サラ教官の用事で来たんでしょ?」

「え、ええ。生徒会の方だったんですね。(飛び級なんだろうか?)」

(分からん。改めて見るとフィーより下そうだが。)


この少女が生徒会役員ということに驚き二人はこの距離で少女に聞こえないように話すという器用な会話をしていたが、少女に話しかけられたことで中断した。


「それじゃあ改めて。この学院の生徒会長のトワ・ハーシェルっていいます。よろしくね、リィン君、カイム君。」

「あ、はいどうもって……」

「「せ、生徒会長ッ!?」」


彼女の自己紹介に二人は驚愕した。生徒会のメンバーという事にも驚いたがまさかそこのトップだとは夢にも思わなかったのだ。そんな二人の驚きをよそにトワはなにか困った事があればいつでも頼ってほしいと気合十分に宣言し、その姿に和みながらも見た目で判断していたことについて罪悪感を感じていた。そして誤魔化すかのようにサラに頼まれた用事について尋ねた。


「確かⅦ組に関する何かを預かって貰っているとか聞いたのですが。」

「あ、うんうん。これなんだけど……。はい、どうぞ。一番上のがリィン君、二番目のがカイム君のだよ。」


二人の質問にトワは机の上から手帳のような物を複数差し出してきた。


「これは……学生手帳?」

「そういやまだ貰ってなかったですね。」

「ごめんね、君達Ⅶ組は他のクラスとカリキュラムがちょっと違ってて……≪戦術オーブメント≫も通常とは違うタイプだから別の発注になっちゃったんだ。」


他の学生たちのオーブメントは従来の物と同じでありそれ故に今までと同じレイアウトで仕えたのだが
最新型のARCUSは操作説明などが違うので時間が掛かったらしい。確かにあれだけの機能があるのならば遅れるのも道理だろう、と二人は納得したがここでカイムはある事に気付く。


「あの、もしかしてこの編集も会長がやってくれたので?」

「うん、サラ教官に頼まれて。」

「あんのズボラめ……一週間程酒抜きにしてやろうか。」

「わわ、違うよ。私が手間取っちゃったせいなんだし。」

「いえ、会長は何にも悪くありません。というかこれは生徒会じゃなくて教官がやるべき仕事の筈ですが。」


カイムの言葉にリィンも同意する。生徒の貴重品を教官ではなく先輩とはいえ別の生徒にやらせるなど普通はありえない。まして新型戦術オーブメントという重要事項の事なら尚更だ。トワはサラはいつも仕事が忙しく、その上自分は他の教官の仕事も手伝っているから今更との事だ。


(いい人だ……途方も無く。)

(ああ、しかもサラだけじゃなく他の教官の仕事も手伝ってるとかかなり有能だろ。士官学院の生徒会長やってるから当然なんだろうが。)

「(だな。)つまりこの手帳を他の皆に配ればいいんですね?」

「うん、よろしくね。うーん、でも二人も他の皆も一年なのに感心しちゃうな。」

「え?」

「何がですか?」

「えへへ、サラ教官からバッチリ事情は聞いてるから。生徒会の仕事を手伝ってくれるんでしょ?うんうん、流石、新生Ⅶ組だね!」

「……はい?」

「えっと、何の話ですか?」


トワの言葉に二人は意味がさっぱり分からないと聞き返した。トワによると自分達Ⅶ組は生徒会で処理しきれない仕事を手伝う事になっているそうだ。しかも全員はりきっているというⅦ組メンバーの心情全て無視のオマケ情報つきである。


「成る程、あのご機嫌っぷりはこれのせいか……。」

「ちょっと簀巻きにして街道に放り込んでくるわ。」

「わ、わわ。ちょっと待って、ひょっとして私何か勘違いしちゃってた?入学してきたばかりの子達に無理難題を押し付けようとしてたとかっ……!?」

(うっ……。)

(ぐっ……。)


サラに対して呆れや怒りといった感情を出した二人だったがトワの余りの焦りように罪悪感を抱き結局手伝いを申し出ることになった。










生徒会の仕事の手伝いを受けた後、二人はトワから夕食を奢るという申し出を受けたのだが、カイムは一応料理当番なので、あらかじめ聞いていた学生寮で食事をするメンバーの為に夕食を作らなければならないと辞退する事にした。そして学園の入り口で見慣れた顔を見つけたので声をかけた。


「よおアリサ、エマ。そっちも帰りか?」

「あ、カイム。ええ、クラブの見学も終わったから。」

「見学の途中で一旦別れたんですけどまた会えたので一緒に帰ろうかと。」

「そうなのか、それじゃあ……。」

「む、君達も帰りか?」


三人が会話しているとまた別の方向から声をかけられたのでそちらを向くとマキアスの姿があった。


「お、マキアスか。君達もってことはそっちもか?」

「ああ、クラブも決まったしな。」

「そうなんですか。」

「まあその辺りは歩きながらでも話さない?校門の前にジッとしてたら迷惑になるし。」

「だな。じゃあ帰るか。」


カイムの一言を最後に四人は寮に今日の事、主にクラブ関係について向かって歩き始めた。


「そういえば三人は何のクラブにしたんだ?」

「私はラクロス部ね、興味あったし体力も付くかなって。」

「私は読書部ですね、執筆作業などもやってるようで面白そうでした。部長が何やら怪しげな本をこっそり見てたりするのが気になりましたが……。」

「僕はチェス部だ。実家の方でも嗜んでいたからな。」

「おお、見事にバラけてるな。しかし聞いてみる限りじゃどこも面白そうだな、ラクロスは女子限定みたいだからどの道は入れんが。」

「まあそれはね?」

「カイムは……そうか入れないのか。」

「一応立場が立場だからな。禁止された訳じゃないが入らんほうがいいと思ってな。入れりゃ調理部かフェンシング部に入ってたかも。」

「カイムさんらしいチョイスですね。」


そういった会話をしながら歩いている内に第三学生寮に到着し、中に入ると既にサラとフィーが広間で寛いでいた。二人はカイム達、というよりカイムに気付くと少し不機嫌そうに話しかけた。


「遅かったね、カイム。」

「全くよ。ほら、早く晩御飯作っちゃって。今はまだ小腹ですんでるけどそろそろ本格的にお腹が空いてくるから。」

「人に厄介ごとを押し付けておいて何を言ってんだか……。」

「でも引き受けたんでしょう?まあメインでやるのはリィンみたいだけど。」

「まあな……さて、サクッと作るか。」


サラとの会話を切り上げてカイムはキッチンに入っていった。そして暫くすると空腹を加速させるいい匂いが漂ってきたのであった。そして夕飯を終え、先に帰った侘びとしてリィンと共に生徒手帳を皆に配るのを手伝い、次の日の朝食の仕込を終えて就寝する為に部屋に戻っていった。 
 

 
後書き
アポ記念ガチャ……ピックアップ鯖はほぼいるからスルーですね。さて天草が来たという事は恐らく極悪ガチャラッシュの時間だ、恐い。
そしてはやくエピソードイグニスやりたい。アクションも内容も一番好みかもしれないです。
ちなみにカイムの楽器については誰の仕込かは直ぐに分かると思います。


 
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