艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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第三十八話
前書き
どうも、台風のせいでガクブルしながら過ごしてます。正直、外に出たとき死ぬかと思った。
全く関係ないけど、砲雷撃戦お疲れ様でした。
しかし、これってよくよく考えてみたら大丈夫なのか?
俺は海上を移動しながら首を傾げていた。
俺達が普段相手にするのは深海棲艦。知性すらあるかどうか分からない奴等に『相手を裏切らせる』みたいな事をしてくることはまずない。
しかし、今回の演習では、相手は同じ艦娘。そんな悪知恵も思い付くだろう。問題は赤城さんの方だ。
「演習とはいえ、裏切ってただで済むのか…………?」
下手したら演習終了後に謹慎処分だろう。
つーか、そんなリスクがあるのに裏切るって一体赤城さんにどんな餌(直球)を見せびらかしたのやら…………。
それに、『提督の弱味』ってのも気になる。
今日の朝、俺が貰ったものも『弱味』にはなるだろうが…………男と男の約束的なアレで、俺は奴が『けっこう責めてる系のピンク色の雑誌』を持ってたということはバラさない。つーかバラしたら奴が大淀さんにぶっ殺される。
俺は…………まぁ、暫く色んな奴から見られる目が変わるだろうな。
木曾や天龍、摩耶さん辺りは大丈夫だろう。理解がある人は素晴らしい。
むしろ、一番バレたくないのは駆逐艦の奴等。
アイツらに、『秘密を守る』みたいな能力は一個もない。例えば、アイツらが青葉にお菓子を貰ったとしよう。青葉はそのついでに何かの話―ここでは、鎮守府の誰かの噂話としよう―を話したとする。
二時間後には鎮守府にいる全員がその話を耳にする。しかも、尾ヒレ付きまくり。
中にはそうじゃない奴もいるけども…………まぁ、そんな感じだ。
俺がよく話してる白露型の三人は、基本的に話さない部類の奴らだ。
でもなぁ…………春雨にはバレたくないなぁ。
何だかんだで、木曾の次に一緒にいること多いからな。会うたびに顔を赤くされても困る。
…………っとと、話がそれた。
兎に角、今は赤城さんのところに行かなくちゃな。できたら木曾たちと先に合流したいんだけど…………。
―二十分後―
…………あのバカが待ってるはずがなかった。
俺が赤城さんのところに到着したときにはすでに、木曾と長門さんが仁王立ちしていた。
俺は取り合えず少し離れた岩場に身を隠す。
赤城さんは敵艦隊の霧島さんと古鷹さんと一緒に立っていて、自分の弓を座っている時雨と摩耶さんに向けていた。古鷹さんも同じように砲門を向けて、霧島さんは木曾たちに砲門を向けていた。
…………成る程、そりゃあ二人からの連絡が無いわけだ。これじゃなにもできない。
しかし、これは所謂、均衡状態というやつなのだろう。
お互いにアクションを取りづらい。
取り合えず、木曾にやって来たことを伝えたいのだが…………。
流石にここで通信機を使うのはナンセンス、と言うかただのバカ。
しかし、俺にはこれしか木曾と連絡を取る手段を持ち合わせていない。
暗号…………みたいなのが使えれば…………。
…………。
賭けてみるかな。
―同時刻―
さてと、どうしたものか。
オレは目の前の奴等を見てどうしたものかと頭を悩ませていた。
裏切った赤城さんに戦艦一、重巡一。
いくらオレと長門さんとはいえ、赤城さん(恐らく暴走状態)を止められるかどうかはかなり怪しいもんだ。
別にいきなりコイツらに砲撃ぶちかましてもいいが…………できたら時雨と摩耶は怪我させたくない。
傷物にしたら責任とらなくちゃいけないしな。
『もー、疲れた!やっと片付いたー。明石さん、この二人をお願いします。』
そんな冗談を考えていたら、通信機から大音量で千尋の声がした。
「あら、二号くん、あの二人を倒したんだ。なかなかやるじゃない。」
そう言ったのは戦艦の方だ。余裕そうな表情が腹立つ。
「お、おい、千尋!流れてるぞ!」
長門さんは焦った様子で通信機に向かって叫んだ。しかし、どうやら気づいてないようだ。
『ぐっ、イテテテテ。いやぁ、なかなか厳しかったですよ。このあと木曾の方に向かいますねいぞかないと…………ん?明石さん、なんですか?』
すこし間が空いて、再び二号が声を出した。どうやら明石さんと話してるらしい。
『ルートに気を付けろ?あー、確かに、真っ直ぐ向かったら見つかるかとしれませんね。ありがとうございます。さてと、木曾に連絡…………って、あれ?通信してらぁ。木曾?聞いてたか?』
千尋はそう言うと、オレにしっかりと話しかけてきた。
「おう、ばっちり聴いてたぜ。お疲れ様。やるじゃねぇかよ。取り合えず、早くこいや。」
『おっけ。ではではー。』
そう言うと、千尋は通信を切った。
「そう、もうすぐくるんだね。どうする?」
重巡の方が戦艦に話しかける。
「ふむ、それでは赤城さん、偵察機を向かわせて下さい。近づいたら撃ちましょう。」
赤城さんは頷くと、弓を一旦オレらの頭上に向けて、矢を放った。
矢は暫く飛んだあと、偵察機に変化して、そのまま飛んでいった。
直ぐに矢を構え直す赤城さん。隙ができたかと思ったが、やはり一筋縄では行かなかった。
「なぁ、どうするよ、長門さん(ピクピクピク)。」
オレは長門さんに話しかける。そのとき、右手の砲門の引き金にかけている指を動かす。長門さんに暗号を送っている。単純なモールス信号だ。
『分かったか』と。
「さぁな。こうも均衡状態だとな(ピクピクピク)。」
『もちろん』。
ふむ、となると…………。
「なぁ、赤城さんよ、ちょっといいか?(ピクピクピクピク)」
オレは赤城さんに向けても暗号を送った。
『裏切ったのか』
「何かしら、心変わりはしないわよ?」
「…………あぁ、そうかい。なら、話すこたぁねぇや(ピクピクピク)。」
「ふふ、物分かりがいいね。」
オレは赤城さんとの会話も終わらせる。
さてと………………。
チェックメイトだ。
「飛べ!」
オレが叫ぶと、時雨と摩耶は後ろに飛んだ。すかさず、二人に砲撃しようとする重巡。流石によく鍛えられていた。並の相手なら、直撃してるだろう。
もっとも、この呉じゃあ無かったらな。
ザパァン!キンッ!
水柱が立ち、そこから長いものが出てくる。それは、飛んできた砲弾を真っ二つにした。
そこには、全身ずぶ濡れで、右手に軍刀を持って立っている千尋の姿があった。
こないだから天龍に教えてもらっといて色々と良かったな。
いきなり海の中から艦娘が出てきて焦った戦艦は、千尋に向かって砲撃しようとする。
「遅いわっ!!」
しかし、長門さんの方が速かった。
吹き飛ばされる戦艦。
後に知ったのだが、長門さんは、「手だけ狙ったのに、クリーンヒットしてしまった。」と言っていた。よく相手沈まなかったな。
さてと、いつもならオレが重巡をぶっ飛ばして終了だが…………。
まぁ、絶望してもらおうか。
「くっ、せめてコイツだけでも…………っ!」
重巡は直ぐ近くにいた千尋に砲門を向けようとしたが、できなかった。
何故なら、赤城さんが構えている矢を重巡の後頭部にコツンと当てたからだ。
「前払いで報酬貰っといて良かったわ。こっちは勝てておまけに副賞たっぷり!」
にこやかに赤城さんは言ったが、重巡は絶望の表情を浮かべていた。
「さてと…………完全勝利ってことで良いよな?」
オレの言葉に、その重巡は頷くしか無かった。
―執務室―
「いやぁ、今回のMVPは間違いなく千尋くんだね。これなら上もなんの文句も出ないだろうね。」
満足そうに頷く大輝を見て、やれやれと思う。
「いや、正直赤城が裏切ったかもと聴いたときは本当にあったんですけど。それに、木曾と長門は後先考えずに突っ込んでくし…………。」
実際、赤城は裏切って無かったから、何とか勝てはしたろう。完全勝利は厳しい。
「ほんと、千尋くんのファインプレーね。」
「あ、やっぱり唯も気付いてた?」
大輝は椅子から立ち上がると、ポットのある台に移動する。コーヒーでも淹れるのだろう。
「まぁね。」
まず、千尋の通信。
『もー、疲れた!』
『ぐっ、イテテテテ』
『ルートに気を付けろ?』
頭文字を取ると、『もぐる』。水中に隠れていると言うわけだ。幸いにも、台風が通過したばっかりのため、水が濁っていた。
さらに、そのあとの木曾たちも上手かった。
木曾は基本的に自分で決定するから、他人に質問することはあまりない。
それで、長門に『暗号を送る』と言うことを伝えた。これは赤城に対してもそうだ。
そして、赤城の返答。
『心変わりはしないわよ?』
『物分かりがいいね。』
つまり、『裏切っていない』と、『分かった』だ。
分かったの前には、恐らく、『その場に応じて』とかのメッセージを送ったのだろう。
「しかし、よく千尋くんはとっさに思い付いたね。読み取った木曾や長門もだけど。」
「地味に暗号に気付いてた時雨と摩耶もね。」
話によると、実は二人とも赤城が裏切ってないことは知っていたらしい。それこそ、例の暗号だ。
「さてと、それじゃ、私はすこし行ってくるわね。」
私はそう言うと、執務室の扉に手をかけた。
「え、どこに?せっかくブラックとカフェオレ淹れたのに。」
大輝の両手には一つづつコーヒーカップがあった。何も聞かずに淹れてくれるのはありがたい(因みに、ブラックは私だ)。
私は扉を開けると、こうひと言言った。
「赤城に、貴方の弱味を見せてもらうのよ。」
―第五十七回 鎮守府鬼ごっこ大会開催の合図だった。
―一方そのころ―
「そう言えば赤城。提督の弱味というのはなんだ?」
「あぁ、大淀さんにそっくりの人を特集してるピンク雑誌。トラック基地の提督がベッドの下で見つけたらしいわよ。」
「(まてまて…………それ、俺が貰ったやつじゃねぇかよ!二冊買ったのかよ!!)」
後書き
読んでくれてありがとうございます。ピンク雑誌といえば、僕がこないだコンビニで買い物してたときに、ちっちゃい子供が「お兄ちゃん、はい!」ってすっげぇ眩しい笑顔で渡されましたね。近くにいた親御さん共々真っ青になりましたよ。
それでは、また次回。
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