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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第93話 一尾

 
前書き
前作でも出てきた尾獣カウントアップ方式

ボツにした展開が多過ぎて泣きそう 

 
サソリは初めて反省した。
生まれてから抜け忍時代、暁時代を経てからずっと走り続けて来た。
顧みる事もせず全ては結果として受け入れて棄ててきた。
人を殺める事も人の形を捨てる事も厭わずにただガムシャラに自分の美学を追い求める人生。
そんなサソリが唯一、己に舌打ちをかました。
自然現状や下賤な輩以外での心の底からの憤怒、激烈の感情が湧いている。

人は力を持つと変わる
古今東西それだけで人生をメチャクチャに破壊されて、命を潰えてしまう事が有史以来繰り返されて来た事実。
権力を持った大名、影
泡銭を懐に入れた成金
そして、他人の力を自分の力と過信する自分

能力を持った者達の戦いは忍同士ではなく己自身との弱さを見つめる戦いへと向かう。

サソリは輝きを喪った瞳をゆっくりと二回、三回瞬きをしていく。チャクラは観えない......可視光が照らす相手の誇張でもなければ矮小でもない等身大の忍のあるまじき死体が時代や場所を思案する事無く居残り続けている。
「傀儡師が......傀儡になるか」
サソリは嘲笑うように言った。己を戒めるように悔しい声色をしている。
サソリはチャクラ糸を指先から飛ばしてビルや瓦礫の間へと意思を持ったようにくくり付けた。

「アレダケ忠告シテモ向カッテクルカ?マダラノ強大ナ力ヲ知ッテモカ」
サソリは仕掛けた糸を巻き込むように指先で挟み込むと回転させて束を握るように胸の前で構えた。
「うちはマダラが自慢みてぇだな。だがよ、テメェはどうなんだ?ゼツ」
「......」
「他人の宝石盗んで自分が偉くなったと思ってんのか?滑稽だな」
マダラの表皮に浮かぶ刺青のような黒ゼツの身体が不自然に腕が隆起して不気味な胎動をする中で印を結ぶとマダラの口から大量の炎が飛び出してサソリを焼き尽くさんと広がるが設置されている貯水タンク根こそぎ落下してきてヒビ割れた箇所から水の柱が流れ出て消火していく。
空になった貯水タンクが風を受けて横に外れると僅かな火の粉を残して水蒸気が靄のように広がる
「!?......」
転がった貯水タンクを一瞥すると黒ゼツはクネクネと黒い塊が呪いのように浮き立たせて苦々しくビルの屋上を見上げる。
湾内達が各々の能力を使って黒ゼツの火遁の術を相殺したのである。
「煩イ蝿供ガ......」
と舌打ちをしているとサソリが指を引いて鉄骨付きの瓦礫を引き寄せていく。

「余所見なんて随分と余裕だな」
薬指の関節そのまま鉄骨付き瓦礫を引き寄せてから弾かれたように黒ゼツに向かって放出された。
「フン......今更コンナモノで......」
糸は引っ掛けなければ点と点を繋ぐ直線運動しか出来ない代物。
勢いがあるとはいえ、単純な直線運動来ると解っているかつマダラのレベルから云えば撃ち落とす事も躱す事も造作もない事だった。
黒ゼツは咄嗟に腕を肩に据えて構えて弾く準備をするが突き出た鉄骨がグニャリと曲がり出して構えた腕よりも上部にまで迫り上がりマダラの顔面に瓦礫が激突した。
「!?」
ナ、何ガ......?
曲ガッタダト......?!

不意打ちに近い形で思わぬ反撃を受けた黒ゼツはダメージよりも思考の為に身体が固まるがサソリは目の寸前で構えた指からのチャクラ糸を解すと浮かび上がっていた瓦礫が一斉に黒ゼツに向かって飛んでいく。
腕で叩こうとするがまるで時空が歪んでいるかのように曲がり出した瓦礫はまるで叩く腕を避けるように奇妙な曲線を描いてマダラの後頭部、背側面等黒ゼツの防御を掻い潜りながら衝撃を与える。

「何ヲシタ......下手ナ小細工ハコノ眼ガ......!?マ、マサカ」
その時黒ゼツは気付いた。
マダラの亡骸を操っているが現在は封印されている術を使用する為に腕に力を注いでいる事に......
つまりマダラが写しだしているチャクラの流れが黒ゼツには一切伝わっていない事に。

「此レガ狙イカ......」
「やっと気付いたか阿呆め。さて、選べよ術か眼か」
「幻術カ......ダガ種ガ解レバ解クダケダ」
黒ゼツは印を結ぶと幻術を解くとそのまま脚を踏み切ってサソリをくびり殺そうと不自然に発達した腕を突き出すが、サソリの首元でピタリと止まった。
「!!?」
「正解は眼だったな......吹き飛べ」
マダラの肉体には写輪眼でしか映されないチャクラの糸が巻き付いており、サソリが手首を廻すとバネのように縮み出して黒ゼツは後方へと飛ばされた。
「グッ!?」
黒ゼツが電柱に当たりアスファルトに投げ出されていく。
サソリは高速移動をしてチャクラを染み込ませた鉄筋を2本を落下と同時にマダラの腕をキリストの磔刑のように地面に打ち据えた。

元々、瓦礫はあくまで目論見の隠れ蓑に使っただけだった。
どんな術や攻撃も塵となって躱す穢土転生に幻術で覆い隠していても直接的なダメージにはならない。
サソリは最初っからマダラの死体に糸を巻きつける事に注力し、術の源となる指の動きを如何にして封じるかを考えていた。

「時代遅れの遺物がしゃしゃり出て良いもんじゃねぇよ......」
サソリが人差し指を伸ばして顎に当てるとアスファルトが揺さぶられて黄色い砂が表面に現れると黒ゼツ諸共マダラの死体がズルズルと磔られた状態で沈み始める。
「オ、オノレ......」

黒ゼツがマダラの腕をのたうち回らせて脱出を図るが、サソリの渾身のチャクラが入った鉄筋は取れることなく楔のように砂渦の中心に立っている。
腕を引き千切ろうとするが伝説クラスの忍である『うちはマダラ』の全盛期の身体は容易に刃物を寄せ付ける事がない鋼の身体に黒ゼツの力では脱出等不可能に近かった。

「作品に出来りゃ......フウエイを超える傑作だったかもな」

傀儡師は他の忍とは違って事前準備を欠かす事が出来ない戦闘スタイルだ。
ありとあらゆる事態を想定して傀儡人形に罠を仕込む。
相手の心理を利用して用意していたトラップへと誘う。
危機管理能力が人一倍高くなければ到底こなすのが難しい。

黒ゼツが生存する為にはマダラの死体を捨てて、スライム状になって這い出てくりしかないが計画の要......というより全てに近いマダラの肉体を捨てる事は出来ないでいた。
マダラの肉体を持ってしても言いようのない格の違いを見せ付けられた黒ゼツは奪われつつある視界から空を見上げる。
花火のように上がるレベルアッパーの光線が断裂していく様子を眺める。


シクジッタヨウダナ......
俺モアイツモ

「さすがに溶岩に沈めれば死ぬだろうな」
とサソリが呟くと同時に砂の塊となって沈んでいくマダラの身体の上端から蒼い光が漏れ出して稲妻のように辺り一面を照らし出した。
「!?」
一気に砂の術が分解されて中から青色のホログラフのように霞むマダラの身体だった。
手に刺さっていた鉄骨を乱暴に抜き去ると上へと投げ上げる。
ゆっくりと回転しながら重心だけが綺麗な放物線を描いて落下してくるのに合わせて帯電した腕を突き出して高速で鉄骨を射出させていく。

「ぐっ!?」
まるで槍のように真っ赤になった鉄骨がサソリの左胸を貫き、地面に着弾すると火花を散らしてアスファルトを引き剥がして軽く爆破した。

「ヤハリナ......コノ世界デハ術ノ発動ニ印ヲ結バナクテ良イラシイ......」

黒ゼツは身体半分を乗っ取りレベルアッパーの残光を電撃に変えて、両腕に雷を集中させた。
砂の粒が消し飛んでマダラの指が自由に動き始める。

「はあはあ......チャクラが足らん」
胸元にぽっかりと穴が空いたサソリはまだ身体を保てていることに安堵した。
大電流を使っての超電磁砲であるが熱電対により本体の鉄骨に熱を帯びていた事が幸いしていた。
だが、状況は更に増して酷い方向へと傾いていた。

「容赦ハ無シダ......」
復活した指で印を結び、黒ゼツは学園都市の上空に浮かんでいる月に掌に開いている輪廻眼の手をかざすと真っ暗闇の学園都市が真っ赤に色付けされたようになっていく。
「!?......」
真っ赤になった月の表面に輪廻眼と写輪眼が合わさったような紋様が浮かぶと黒ゼツを強く照らし出していく。

「サテ......影十尾ノ復活ダ」

******

サソリを援護していた湾内達がビルの屋上から一階のビル入口へと息を切らしながら急いで出てくると火花を散らした金属片が周囲を巻き込み爆発していく。

「きゃあ!?」
まさに外の世界に行く寸前の出来事に用意や受け身を取る用意もなく瞼を反射的に閉じる。
「大丈夫ですかー?」
聞き覚えのある声に3人がゆっくり目を開けると氷の盾で熱風を防ぐ佐天の姿があった。
更にその前には直接爆破をカバーしている見覚えのある面が木の盾を繰り出して湾内達を守っていた。

「ん!?あ、アンタは」
「ん、んん!?ひょっとして警策っすか?」
その面はクルリと回転するとグルグルとした面が光って見える。
「トビ!?」
信じられないものでも見るかのように指を指すがトビ自身は飄々とした感じでパタパタと浮かんでいた。

「久々っすねー。警策も捕まったみたいっすか?」
「ど、どういう事でございますの?!」
「わ、悪い人達の仲間ですわよね?」
「でも守ってくださいましたよ」
「あー、いやー、話すと長くなるというか......とりあえず人質!!」
「そうなったみたいっす!死ぬよりマシっす」

突如として助けに入ったゼツ一派の面だけ男『トビ』に混乱する湾内達にあっけらかんとばっさり概要だけを説明する佐天にトビが同調する。

「こ、コイツの危険性が分かっているの!?この騒動を引き起こした張本人よ!」
警策が青い顔をしながら慌てて言った。
「でもよく良く訊いてみますと。悪い事を考えたのは『黒』って呼ばれている奴みたいですよ」
「黒ゼツっす」

注)記憶が読み取れる人間道からの尋問済み

「で、ではあの悪い相手を倒す方法がありますの?」
「それは無理っす。マダラを抑えられる奴なんているんすか」
婚后が質問してみるがトビはほぼ断言したように言い放った。
「な•に•し•に•き•た•の•で•す•か?」
サソリの危機に1番ピリピリしている湾内がトビの面をキリキリと締め上げる。

「あんぎゃぁぁー!ま、待つっす。どちらにしても、サソリ先輩をこちらに来させないとダメっす」
「サソリ様を?」
「あれは分身体っすから......本体をどうにかして呼び出すっすよ」
「サソリってアイツを倒せる?」
「いやー、なんか倒してくれそうっすよねー」
「何そのふわっとした理由!」
トビの真面目なのか不真面目か分からない言葉に盛大にずっこける警策。
「とりあえず暁派閥を集めましょう。御坂さん達が居ればなんとかなるはずです!良く分かりませんがアンテナ3本になっていますし」

停電から回復した為、携帯電話が使えるようになった事に気付いた佐天が嬉しそうに見せる。

******

ニヤリとマダラの身体ごと燻んだ水面に吸収されるように巨大な自身の影に沈んでいく。
真っ赤な光が暁のように世界を照らす中で本体が居なくなったが影だけがサソリの下で不気味に蠢いており姿を次々と変化させていく。

巨大な眼の影と根っこのような影、九つの尾の狐の影、蛸と角の影、巨大なカブトムシの影、手足の短いナメクジの影、イルカの頭と馬の胴体の影、ゴリラの影、巨大な亀の影、猫の影、そして狸の影になり、その後はまるで苦しむように円型になり零を現すような円体が2次元の世界で揺らいでいる。

すると渦を巻くように2次元の波が捻れていき中心から暗黒の球体が掬い出されるようにゆっくり浮かび上がり毛質の文字が刻まれると光出して尾っぽが一つだけ出現した。

一尾

影の化け物の額からマダラの身体が浮かびあがり眠っているようにがっくりと力を無くしていた。
「ククク......マズハ一尾カラダナ」
「何処までもしつこい野郎だ......」
サソリは再びチャクラ糸を伸ばして反撃しようとするがチャクラが上手く練れず、力が抜けていった。
踏み出した足が崩れていきサソリの分身体が前のめりで倒れ込んだ。

「!?!」
サソリの足を皮切りに身体が徐々に崩れていった。縛っていたチャクラが底を尽きサソリの身体を保っていた砂がエントロピーが増大する方向へ崩壊を開始していく。
「時間切レダナ......分身ニシテハ随分ト頑張ッタナ」
「ゼ.......ツ.....」
影の一尾から体躯に似合わない巨大な平べったい腕が出現すると崩壊するサソリを押し潰すように叩きつけた。
ズシンと地響きが響いて砂がまるで血のように一尾の手の隙間から砂が漏れ出すのが見えた。

「手コズッタガ......コレデ終ワリダ」
マダラの指が動いて一尾の怪物に電撃をが纏って押し潰した砂の塊に浴びせた。
悲鳴は聴こえない。

邪魔者ハ消エタ......計画ヲ進メナケレバ......

巨大な腕を引っ込めると球体がモゴモゴと動き出してチャクラを溜め初めていくと禍々しいチャクラが溢れ出す。
すると、そこに緑色の光線が発射されてマダラの身体を揺さぶったがチャクラで弾いた。
「......?!」
マダラの上に張り付いている黄色い瞳が光線の来た方向を見やると栗色の髪を靡かせた麦野が幾つものメルトダウナーを出現させて臨戦態勢を築いている。
「よくも旦那をあんな姿にしてくれたな!」
冷静に相手を確実に始末する裏世界でしか見せない表情を浮かべながら麦野は静かに相手の挙動に注意を払う。

あのサソリを紛いなりにも追い詰めた災悪の存在と対峙するというので緊張が強くなり指先に力が入る。

「ククク」
黒ゼツは光る眼を閉じると上部に出ていたマダラの身体の中に移動させた。
黒い影の鎧を身に纏ったマダラが頭に角を生やし、一つの尾を出したままで腕組みをする。
そして万華鏡写輪眼を開きながら粘ついた笑顔を見せた。

「人柱力形態デ戦ッテヤル」 
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