レーヴァティン
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第二十三話 堺の街その六
「マヨネーズとな」
「鰹節、海苔、紅生姜だよな」
「欠かせない、しかし」
ここで英雄は言った。
「マヨネーズはお好み焼きよりも少なくだ」
「多いと味のバランスが悪いからな」
「焼きそばはソースが強い方がいい、しかもだ」
「胡椒の味もあるしな」
「マヨネーズはお好み焼きより少しだ」
「その少しの量もだよな」
「あまりにも少ないと駄目だ」
かえってそれもというのだ。
「あくまで適量だ」
「そしてその適量はな」
「自分の経験からわかるしかない」
「そしてその適量がわかるのがな」
マヨネーズの味も強いお好み焼きを食べつつだ、客は英雄に対して笑って言ったのだった。
「粋、そしてな」
「通だな」
「結局経験なんだよ」
「何かをわかるのもな」
「そうだよ、兄さんわかってるな」
「経験は大事だ」
まだ若いが英雄はわかっていた、このことも。
そうしてだ、客に応えて話した。
「焼きそばの味もだ」
「楽しむか」
「そうする」
こう言って実際にだ、英雄は焼きそばも注文して食べた。そのうえで焼酎も大きな瓢箪にして四本全て空けてだ。
粋な客と別れ彼が紹介してくれた道場に入った、するとだ。
道場は結構な数の門弟がした、しかし感覚的に侍の者はいなくてだ。英雄は道場の稽古を観つつ傍にいた若い門弟に尋ねた。
「侍は少ないか」
「はい、堺ですから」
その若い門弟は英雄にすぐに答えた、はきはきとした調子で喋る整った爽やかな顔立ちの若者だ。
「お侍さんはいても」
「少ないか」
「そうなんです、私にしましても」
「商人か」
「はい、習いごとの一つとして」
そのことからというのだ。
「この道場に通っています」
「そうなのか」
「あといざという時にも備えて」
「賊や魔物に備えてか」
「街の外に出たら危ないですからね」
堺の外はというのだ。
「用心に備えて」
「それでか」
「剣術を学んでいます」
「護身か。わかった」
「はい、ただお侍もいますよ」
門弟は意識せずに英雄が望んでいる話をしてきた。
「それも凄い人がいまして」
「聞いている、他の世界から来た人間だな」
「あっ、聞いてましたか」
「凄腕らしいな」
「はい、ふらりと堺に来られて」
そしてというのだ。
「この道場の門を叩かれて」
「入門してからか」
「その腕を見せられて今ではです」
「師範代か」
「そこまでなられています」
「見たところこの道場はいい道場だ」
門弟たちの稽古を観ての言葉だ、その目で。
「皆いい剣の使い方をしています」
「うちの先生はいい先生ですからね」
「ただ腕が立つだけではないな」
「もうかなりのご高齢ですが」
それでもというのだ。
「お若い時はこの島一の剣豪と言われていました」
「この島のか」
「三百もの決闘に勝たれしかも」
それに加えてというのだ。
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