八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百二十五話 秋田の思い出その一
第百二十五話 秋田の思い出
詩織さんの目は遠く懐かしいものを見る目になっていた。そのうえで僕に秋田への郷愁を話してくれた。
「お母さんいつも私が雪かきに出たらいいって言ってたの」
「しなくてって」
「そう、お母さんだけでするからって」
「優しかったんだ」
「凄くね、誰よりもいい人だったの」
そうした人だったというのだ。
「だから私にもそう言ってくれたけれど」
「それでもだね」
「だってお母さんいつも私を助けてくれたから」
だからだというのだ。
「私もって思って」
「人を助けたら自分も」
「雪かきも他のこともね」
「お母さんを手伝っていたんだ」
「家事もね」
「そうして暮らしていたんだ」
「そうなの、それで雪かきが終わったら」
それからのこともだ、詩織さんは僕に話してくれた。
「いつも二人でお部屋に戻ってコタツに入って」
「一家団欒だったんだ」
「そうだったの、二人だけだったけれど」
このことは少し笑って話してくれた、お酒を飲んでいても不思議とお酒の匂いは感じなかった。代わりに冬の雪の香りを感じた。
「それでもね」
「家族でだね」
「コタツで温まって晩御飯食べたり蜜柑食べたりしたわ」
聞いていてその時の光景が目に浮かぶ様だった、畳のお部屋でコタツに入ってまだ小さい詩織さんがお母さんとお話をしているその姿が。
「それがいつも凄く楽しかったの」
「お母さんといられて」
「一緒にガ頑張った後で」
「よかったんだね」
「とてもね、ただね」
「ただ?」
「やっぱり寒かったわ」
秋田の冬、これはというのだ。
「お外は」
「雪が凄く積もってるとね」
「気温もそうだし雪の冷たさもあって」
「寒かったんだね」
「息はいつも白かったわ」
そうだったというのだ。
「冬は」
「ここよりもだろうね」
「絶対にそうね、息が白い期間はね」
「長いよね」
「寒さが違うから、けれどコタツの中は暖かくて」
このことは温かい感じで話してくれた。
「いつも入った時は嬉しかったわ」
「本当にコタツ好きだったんだね」
「とにかく暖まるものが好きだったの、ストーブもお風呂も」
「ああ、お風呂も」
「冬は特にね。よくお休みの日には」
そうした日はというと。
「一緒にお風呂屋さんにも行ったわ」
「スーパー銭湯?」
「そう、そこにね」
「ああ、ああしたところにも行ってたんだ」
「私もお母さんもお風呂好きだから」
「それでだったんだね」
「よく入ってたわ」
実際にというのだ。
「それで芯まで温もっていたの」
「二人で」
「そうしていたわ」
「とにかくいつもお母さんと一緒だったんだね」
「秋田にいた時はね」
「秋田は好きかな」
「好きよ」
故郷への思いは一言だった。
「今もね」
「そうなんだね」
「だから時々、今もだけれど」
「思うんだね」
「そうなの、何か今は」
飲んでいるせいかとだ、言葉の中にある感じだった。詩織さんはまたお酒を飲んだ。気付けば一升瓶のお酒はもう三分の一以下になっていた。
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