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昔の美食

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第三章

「ヘンデルやモーツァルトのその頃の作品を」
「そういえば何故か古代ローマでバロックやロココの服を着た舞台があるね」
「あれが好きなので」
「君の趣味だね」
「駄目でしょうか」
「いや、タキシードはいつも着ているしね」
 ヴィットリオはホワンに穏やかな声で答えた。
「だから歌劇の演出を再現したのなら」
「それで、ですか」
「いいよ、ではね」
「はい、今から」
「皆で食べよう」
「それでは」
 こうしてだ、ヴィットリオも他の者達もそれぞれ用意された寝台に寝そべってだ。そのうえで運ばれてくるものを食べるのだった。その運ばれてくるメニューはというと。
 ソーセージを腹に無数に詰められた特大の豚にに蜂蜜と芥子の実を注ぎかけたヤマネに鳥の羽根と着けてペガサスに仕立てた兎の丸焼き、泳いでいる様に細工されて胡椒入りのソースをかけられた魚料理に、仔牛の丸焼きにだった。柘榴等の果物に。
 鶲の胡椒風味の卵黄で包んだ孔雀の卵風仕立て、エジプトの豆に牛の睾丸や腎臓の料理、猪の形をしたビスケットを無数に添えた豚の丸焼きに棗椰子を添えたもの、葡萄も同じさらにあり。
 細工菓子と果物にサフランソースをかけたもの、鷺の卵と鶏料理に練り菓子と干し葡萄と木の実を詰めたものにマルメロを雲丹に志田てたもの、大小の豚料理にエスカルゴと生の牡蠣や帆立貝に魚に魚醤
かけたものそして赤や白の様々なワインそれにパンだった。
 その山の様な肉と海の幸、果物達を見てだった。ヴィットリオは思わず唸った。
「これは」
「如何でしょうか」
「凄いね」
「参考文献はトルマキオンの饗宴です」
「ああ、風刺小説の」
「当時のローマの」
「サテュリコンのだね」
 その小説の中の一場面だとだ、ヴィットリオも寝そべったうえで自分の前に馳走の山と共に立っているホワンに答えた。
「あの宴だね」
「それを読みまして」
「再現したんだ」
「左様です」
「成程ね」
「如何でしょうか」
「あれは」
 馳走の中のスープを見てだ、ヴィットリオはホワンに問うた。
「シチューかな」
「野菜シチューに鶯の舌を入れました」
「鶯の」
「孔雀の脳の料理もありますし」
「孔雀の」
「勿論鶯や孔雀の料理もあります」
 こう語るのだった。
「チコリをふんだんに使ったサラダも」
「当時のサラダだね」
「オリーブオイルと酢で味付けしています」
 そのサラダはというのだ。
「そちらもお楽しみ下さい」
「ワインもだね」
「ワインは割っています」
 酒についてはだ、ホワンはこう断った。
「当時の飲み方に従い」
「水でかな」
「それでは味気ないと重い果汁にしました」
「カクテルだね」
「そこはアレンジしました」
「ではね」
「はい、これより」
 ホワンはヴィットリオにあらためて言った。
「お召し上がりになられますね」
「そうさせてもらうよ」
 ヴィットリオは笑顔で応えた、そしてだった。 
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