英雄伝説~光の戦士の軌跡~
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第一話
調和を司る神コスモス
混沌を司る神カオス
次元の彼方に君臨する二柱の神は数多の世界から招いた戦士達を率いて熾烈な争いを繰り広げていた。
コスモスとカオスの力は等しく闘争は果てしなく続く筈だったが……。
均衡は破られた。
カオスの下に集った戦士の一人が次元の扉を発見、その中でまがい物の生命体を見つけ『イミテーション』と命名、彼らを用いて無限の軍勢を作り上げた。
軍勢の猛攻を前にコスモスの元に集った戦士達は次々と倒れていった。
永劫の過去より続けられていた闘争が今カオスの勝利で終わろうとしている。
その中でコスモスは一つの決断を下した。
己に残された力を戦士達に分け与え、それをクリスタルに変化させる事でカオスへの逆転の手段とした。
その過程でも戦士達は倒れていったが最後に残った『11人』の戦士達がクリスタルを手にする。
その直後にコスモスは自身の力の全てをクリスタルに与えていたため、抵抗することもできずにカオスの手によって滅ぼされてしまう。
戦士達は一度は消滅したがクリスタルとなったコスモスの力が彼等を蘇らせた。
そして戦士達は彼女の願いを果たすべく再びカオスとその戦士達との戦いに身を投じ、その戦いは終わりを迎えようとしていた……。
『混沌の果て』
カオスが玉座を構えるこの地は今、主が消滅していくのと共に崩壊を始めていた。
「神々の闘争は終わった。消え行く運命の者共よ、還るがいい‥‥‥。」
その言葉と共にコスモスの戦士達は消え、気が付けば美しい湖と城が一望できる小さな丘に立っていた。
そして別れの時。それぞれ別れの言葉を告げながらクリスタルの光に導かれ元の世界に帰っていき、残されたのは青い鎧を纏った戦士と光に包まれ始めたもう一人……。
「次か最後か、今度は俺の番みたいだな。」
「ああ、そうだな。……ありがとう。」
「突然どうした?」
「別れる前に言っておきたかった。恐らく私とお前は一番長く共に戦っていたんだろう、他の者以上に別れを惜しんでいる自分がいる。
……また会えるだろうか。」
「どうだろうな、だが会えたらいいな。他の皆も。」
「そうだな。」
会話を交わしながらも体は徐々に消えていく。もう時間が無いことは明らかだった。
「もう余り話せそうにない、だから最後に言っておこうと思う。」
「うん?」
「……この先何があっても決して諦めるな、我々は混沌の神にすら勝利した。
記憶が無くなってもその時の強さは魂に刻まれる筈だ、故に立ち止まり膝をつくことがあってもきっと何度でも立ち上がれる。
忘れるな、光は我らと共にある。」
「……ああ、例え膝をつくことがあっても何度でも立ち上がって前に進んでみせるさ。
じゃあな、戦友!」
「さらばだ、戦友。」
そして彼は消えていった。
『秩序の聖域』
戦いの輪廻から開放されたこの世界において未だ存在し続ける空間。
そこで『大いなる意思』と呼ばれる存在が消滅した筈のコスモスに語りかけていた。
「永き戦いは終焉を迎えた‥‥‥いや、迎えてしまったと言うべきか。
まさか、このような結末とは‥‥‥。」
「世界は新たな選択を望んだ、という事です」
「世界が存在する限り、争いの種は尽きぬ。
秩序や混沌も、元は人から生まれた『思い』そのもの。」
「何も‥‥‥変わりはしない、と?」
「それは、ルフェインの力を持ってしても、未だ解けぬ問い。
真実を知るのは‥‥‥。」
「未来、そのもの‥‥‥。」
そう言いながらコスモスは両手を掬うように出した。そこにはコスモスに近い光を放つ一つの光球。
「ならば彼にも新たな未来を見せねばなりません。」
「彼は……そうか、確か元の世界では既に故人となっていたな。
魂のみながら強い力と意思を持っていたが故に戦士としてこの地に降り立つ事ができた。」
「ええ、そして最後まで戦い抜きこうして眠りについています。
しかし一から創られた彼とも器に記憶を定着させた彼等とも違い魂のまま戦った彼の傷は深い。
このままでは消えてしまうでしょう。」
「故に消える前に新たな世界に送る、か。」
「ええ、傷を癒す為にも赤子として命の環に乗せる形で送ることになりますが。
それに倒されたカオスの力の欠片が落ちた世界があります。
先の言葉を利用する形になりますが欠片を消して貰う為にも任せるしかない。
……ここに連れて来る際の『浄化』で経験を忘れてしまった彼をまた過酷な戦いに送り出す事になってしまう。」
「随分と余計な心配をしていますのね。」
その言葉と共に先程までこの場に居なかった者が姿を現した。
見た目は幼子のようだがその内に秘める力は神々にすら匹敵するその女性の名は……
「シャントット……。」
「ええ、私ですわ。弟子が世にも珍しい門出と聞いてわざわざ来たというのにまだグズグズしているんですの?遠慮は要りません、さっさと命の環とやらに乗せてしまいなさい。なんなら叩き落しても構いませんわ。」
「……心配はしていないのですね。」
「それはその程度で心配されるようなヤワな鍛え方はしていませんわ。それに人を見る目も人を惹きつける才能も呆れるほどに持っています。どうせ直ぐにそれに並ぶお人好しがぞろぞろ集まりますわ。類は友を呼ぶといいますから。」
「他の戦士たちも彼もそれぞれの世界で仲間を見つけていた。きっと支えてくれる仲間に再び巡り合える。
それに失ったのではなく忘れただけ、強い思いがあればそれを感じた我等がクリスタルを通して必要な力を目覚めさせてやることも出来る。」
「……そうですね。」
そう言い、コスモスはある世界の命の環に彼の魂を乗せる。
「再びあなたを戦いに向かわせる私達のことは許さなくてもいい、ただその世界の人々の為にまた力を貸して下さい。
そして、願わくば今度こそその手に幸福を手にする事を祈っています。」
彼は夢を見ていた。
十年程前に起きたとある出来事をきっかけに見るようになった夢だ。見たこともない世界で見たこともない敵と戦い続ける夢、その戦いは常に過酷だった。
だが彼には仲間がいた、共に支えあい肩を並べる仲間が。その仲間達は会った事もない筈なのに見ているととても懐かしい気持ちになった。
そしてその世界で敵対していた神を倒し、その仲間達と別れた後は決まって自分が仕えていた女神の言葉。
『再びあなたを戦いに向かわせる私達のことは許さなくてもいい、ただその世界の人々の為にまた力を貸して下さい。
そして、願わくば今度こそその手に幸福を手にする事を祈っています。』
「ん……」
そして目が覚める。戦いの内容は毎度異なるが終わりはいつも同じだった。
「またあの夢か、もう何回目だろうな。」
ただの夢にしては余りにもリアルな光景に胸に飛来する様々な感情に最初は恐怖すら感じたものだが今ではもう慣れたもので例え自分に関係があってもそれはそれ、今は今と割り切っていた。
そのままベッドの上で伸びをし、彼――カイム・グレイス――はトイレと洗顔を終えてから着替え始めた。
エレボニア帝国帝都ヘイムダルの中心にそびえるバルフレイム宮。その中の一室にてカイムとエレボニア帝国の皇族の一人、オリヴァルト・ライゼ・アルノールが会話をしていた。
「いやーいよいよ明日だね、君がトールズ士官学院に入学するのは。明日からこの紅茶とお茶菓子、そして君との時間を楽しめなくなると思うと胸が張り裂けそうだ。」
「相変わらず表現が大袈裟ですね、ほかにも腕利きはいるでしょうし会話なら自分なんぞよりもご家族やミュラーさんの方が楽しいでしょう。」
「今この城には君以上の料理人はいないよ、序でに言うなら同じく君以上の武人もいないさ。ミュラー君ですら君には勝てないくらいだからね。そして悲しい事を言わないでくれ、僕は君の事は弟のように思っているしそれと同じ位に愛しているんだよ!」
「それ前後が逆では……?そして自分に同性愛の気はありません。」
「ははは、手厳しいね。まあいいさ、とにかく入学おめでとう。君がトールズに来てくれる事、僕の企みに乗ってくれた事を嬉しく思うよ。」
「一度この国から離れ家すら無くなったにも関わらず再び拾って貰った上に軍の役職を与えてくれた義理は果たしますよ。」
ここまでの会話で分かるとおりカイムは元はこの国の貴族の生まれである。
王室に代々仕える料理人の家系であるグレイス伯爵家の生まれでありそれ故にバルフレイム宮に訪れる事もあった。その後の事情でバルフレイム宮に住み込みで修練を重ねるようになった為、皇族の面々とも良好な関係を築いていた。
しかし10年程前にある事件が発生、一家はカイムを除いて死去しカイムも行方不明になった。
それから6年後に帝国のある州でオリヴァルトの妹が誘拐されかけるも、偶然州内にいたカイムがそれを阻止し再会、それ以来再びエレボニアに腰を落ち着けるようになった。
最もこれまでの経験によるものか、あるいは別の要因か国内に戻るのも渋った上に戻っても昔と違い皇族への対応は硬化しておりオリヴァルトの妹と弟はそれに不満を持っていたりするのだが。
「昔から世話になってるんだ、義理とかそういう風に思う必要は無いさ……さて、そろそろ父上達の所に向かおう。父上と母上は見送りは出来ないから今日話したいと言っているからね。」
「そこまで気を使わなくてもいいんですがね。」
「まあそう言わずに付き合ってくれたまえ、さあ行こうか。」
そう言うと残った紅茶を飲み干しオリヴァルトは立ち上がった。カイムもその後ろについていき、皇族が使用する広間の前に向かう。
「父上、母上、カイム・グレイスを連れて参りました。」
そう言いながら扉を開けるとそこにはオリヴァルトの両親でありエレボニアの皇帝と王妃であるユーゲント・ライゼ・アルノールとプリシラ・ライゼ・アルノール、そしてオリヴァルトの妹と弟であり皇位継承権第一位、第二位であるセドリック・ライゼ・アルノールとアルフィン・ライゼ・アルノールが二人を待っていた。
「うむ、ご苦労だったな。二人とも座ってくれ。」
「はい。」
「はっ。」
それぞれ返事をし、椅子に座ったのを確認しユーゲントは話を始めた。
「さて、改めて入学おめでとう。その名に相応しく行動し二年後、更なる成長を経て戻ってくる事を楽しみにしているぞ。」
「お気遣いありがとうございます。」
「あなたがいなくなると寂しくなりますね。……ほら二人とも、そんな暗い顔をしていないで何か話しなさいな。」
プリシラがそう促すとアルフィンとセドリックが口を開いた。
「カイム……手紙、出しますから。必ず返事を書いて下さいね?それと偶にでいいですから王都に戻ってきてくれると嬉しいです。もし手紙の返事が無かったり長く戻らないようだったら……学院に行ってしまいますから。」
「僕も勉強や教えてもらった剣術とか毎日かかさずやるから。だから僕の方も成果を見てくれると嬉しいかな……。」
「……手紙は必ず確認し返事を送ります。あと王都に戻るのは日程を見ると忙しそうなので確約は出来ませんが時間が取れたら可能な限り戻るつもりです。その時は稽古等をを行う事もできると思います。」
「絶対ですよ?約束しましたからね?」
「楽しみにしてるよ!」
最初は落ち込んでいたもののたまに帰るという望みに前向きな答えを貰い満足したようだ。
この二人はカイムがまだ貴族として王都に居た時から彼に懐いており、それに加えアルフィンは誘拐から守ってくれた事、そして改めて共に過ごした事により身内以上の感情を彼に向けていた。
故に彼のトールズ入学が決まった時は一番反対しており、オリヴァルトの『ある一言』を言われてようやく納得したのだ。ちなみにこの一言はこの場ではカイム以外は知っていたりする。
「さて丁度夕食時だ。明日は早い、ここまでにしよう。」
ユーゲントの一言でこの場はお開きとなり、夕食を終え入学式の為の最後の準備も終わらせカイムは眠りについた。
そして次の日の朝、カイムの出発にオリヴァルト、アルフィン、セドリック、そしてオリヴァルトの護衛であるミュラー・ヴァンダールが見送りに来ていた。
「では行って参ります。」
「カイム、いってらっしゃい。」
「体には気をつけてくださいね?」
「向こうで良き友人が出来たら是非報告してくれたまえ。あ、友人じゃなくて恋人でも「お兄様?」……ま、まあとにかくいい便りを楽しみにしているよ。」
「余計な事を言うからだ馬鹿者め。……日々の鍛錬と勉学を怠るなよ?そうすれば何であれお前が不覚を取る事はない。」
「ありがとうございます。では。」
そう言い、最後に一礼をしカイムはトールズ士官学院のある近郊都市トリスタ行きの鉄道に乗る為にヘイムダル駅に向かった。
本来トールズにはない“深紅”の制服を纏って。
かくして嘗て神々の闘争に参戦した戦士の物語は再び動き出す。
その身の内にクリスタルの輝きを宿して……。
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