レーヴァティン
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第二十一話 風呂屋での情報収集その十
「そうなったか」
「聞いてはいてもな」
居酒屋等でだ、暴政を行い卑しい振る舞いをする貴族も私利私欲しかない僧侶達の話も聞いているのだ。
「御前も聞いてただろ」
「ああ、そして東の島でもな」
「そうした大名だの公家だの坊さんがか」
「いる」
実際にというのだ。
「そして何人かな」
「倒してきたんだな」
「そうした話にもなる」
英雄は蕎麦をすすった、そして何口か噛んでから飲み込んだ。そうして蕎麦とつゆの味を楽しんでから久志に話した。
「これから話すことはな」
「時代劇みたいな話か」
「そうなるかもな、狒々も倒した」
「岩見重太郎か」
狒々と聞いてだ、久志は大坂の陣で散ったこの豪傑の名前を出した。
「そうした感じか」
「あそこまで痛快な話ではないがな」
「けど倒したんだな」
「そうした、ではな」
「ああ、今からな」
「そっちの冒険の話をしてくれるか」
「そうさせてもらう」
ここでまた蕎麦をすすって噛んでから飲んだ。そうしてから久志に対してまずはこう言った。
「御前と別れて船に乗ったな」
「そこからか、話すのは」
「もう遠い昔に思える」
「昨夜、いや」
「それはこちらの世界の話だ」
「そうだよな、あっちだと」
それこそだった。
「結構時間が経ってるな」
「だからこう言った」
「遠い昔か」
「そうだ、そしてだ」
「その遠い昔の話は、か」
「船からはじまる」
英雄が乗り込んだその船に乗ったその時からだというのだ。
「あの時俺は何もわかっていなかった」
「東の島のことはか」
「今もあまりわかっていないが」
「その時はか」
「全くだった」
「デルフォイで本読んだけれどな」
その東の島に関する書をだ、英雄も読んだし久志も読んだ。それ位のことは彼等もしてきているのだ。
「それでもな」
「読むだけでも違うが」
「実際に見て中に入るとな」
「全く違うからな」
「そうした意味で全くわかってなかったんだな」
「そうだった、読んで得た知識は役に立ったが」
それでもというのだ。
「俺は知ることからはじまった」
「手探りだな」
「船からな」
その中からだというのだ。
「船の中は既に東の島だったからな」
「服とか飯とか違ってたか」
「飯は白米だった」
「パンじゃないか、当然か」
「そこからだった」
「本当に長い話になりそうだな」
英雄の口調からだ、久志はこのことを察した。
「それじゃあな」
「覚悟をしてか」
「聞くぜ、いいな」
「食いながら話していくぞ」
「それじゃあな」
こうしてだ、それぞれの食事を楽しみながらだった。
英雄は彼のこれまでの冒険の話をしていった。東の島でのそれを。
第二十一話 完
2017・6・8
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