レーヴァティン
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第二十一話 風呂屋での情報収集その八
「特にざるやせいろがな」
「そっちか」
「いい店を幾つか見付けた」
「それは何よりだな」
「しかし今は天そばを食いたい」
天婦羅蕎麦をというのだ。
「そうした気分だ」
「そっちか、何かな」
「食いたくなったか」
「そっちもな、けれどやっぱりな」
「御前はスパゲティか」
「そっちを食いたいな、カルボナーラだな」
食べたいスパゲティはそちらだというのだ。
「是非食いたいな、けれどあっちの世界だとな」
「蕎麦は食えないな」
「ないからな」
「完全に西洋か」
「あっちの、イタリアとかスペインのそれだな」
その食文化はというのだ。
「ドイツやフランスもあるけれどな」
「ジャガイモやソーセージもあったな」
「御前も知ってるよな」
「確かにな、あちらも味でも楽しませてもらった」
「それで今はか」
「和食を楽しんでいる、酒もな」
「日本酒か」
日本の文化だと酒はそれになるとだ、久志もすぐに察した。
「それか」
「肴は刺身に天婦羅、枝豆や蒲鉾だ」
「豆腐もあるよな」
「当然だ」
「いいな、そっちも」
酒とその肴の話も聞いてだ、久志は蕎麦の話を聞いた時よりも強く言った。そこには確かな羨ましさがあった。
「豆腐大好きなんだよ、俺」
「そうだったのか」
「それで豆腐を食いながらか」
「湯葉もある」
「余計にいいな」
「そうか」
「ああ、しかしあっちの世界じゃないからな」
久志のいる島、西の方のそちらにはだ。
「仕方ないな」
「諦めるしかないな」
「ああ、じゃあな」
「その時はだな」
「飲む」
「それじゃあな」
こう二人で話してだ、そのうえでだった。
昼食を食べに行ったが実際に久志はカルボナーラを注文し英雄はざるそばを頼んだ。二人が入った食堂のメニューの数がかなり多く三人前は普通にある。四人前はあるかも知れない。それで一品だけで充分だった。
久志はガーリックとオリーブオイルを利かしたカルボナーラを食べつつだ、ざるそばを英雄を見て言った。
「食い方粋になってないか?」
「そうか」
「ああ、何かな」
そう見えるというのだ。
「そう見えるな、けれど噛むんだな」
「噛まないでどうする」
英雄はざるそばを久志が言う通り粋な仕草で食べつつ応えた。
「蕎麦は」
「江戸っ子は噛まないよな」
「俺は江戸っ子じゃない」
英雄ははっきりと答えた。
「関西人だ」
「だからだよな」
「噛む、そもそもこの蕎麦つゆは関西のものだ」
関西の大学だから当然と言えば当然だ。
「昆布も入っているな」
「あっちの蕎麦つゆはあれか」
「そうだ、昆布が入っていない」
「そういえば辛いっていうな」
「ざるやせいろのつゆもな」
それもというのだ。
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