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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百二十三話 ハウステンボスから帰ってその二

「田中英光の死は」
「そうですね、やはり」
「はい、僕もそう思えてきました」
「ですから墓前で、です」
 太宰が眠っているその前でだ。
「自殺したのです」
「後を追ったからですか」
「実際に太宰が死んでから彼の生活は荒れたそうです」
「自殺を知って」
「はい、悲しみのあまり」
「そういえば何か」
 僕はここである人から言われたことを思い出した、その言われたことはというと。
「太宰が自殺した時文章書いていたそうですね」
「悲しむ文章を」
 まさにそれをというのだ。
「書いていました」
「本当に悲しかったんですね」
「ですから書きました」
 その文章をというのだ。
「そこで太宰を大馬鹿野郎と言っています」
「大馬鹿野郎ですか」
「そこまで」
「太宰のことを想っていたんですね」
 何か田中英光の気持ちがわかってきた、ここで。
「そうなんですね」
「私もその作品は読んだことがあります」
 オリンポスの果実をというのだ、僕が今読んでいるそれを。
「代表作の一つですから」
「ベルリンオリンピックのお話ですね」
「ボートの選手として参加していたので」
「何かそこが意外ですね」
「作家でありながらですね」
「スポーツ選手としても活躍していたなんて」
「作家になる前はそうでした」
 田中英光はスポーツマンだった、何でも体格はかなりよかったらしい。
「しかし自殺する前は酒と麻薬に溺れ」
「太宰が自殺したショックで」
「生活は荒れたそうです」
「スポーツマンだったのに」
「最期はそうでした」
「スポーツで悲しみを紛らわせなかったんですね」
「結果としましては」
 畑中さんは僕に話してくれた。
「そうなりますか」
「そうですか」
「私も悲しい時はありました」
 生きていてというのだ。
「しかし私はです」
「剣道ですね」
「この直新陰流と古武術がありますので」
「そうしたものに打ち込んで」
「悲しみを乗り越えたこともありました」
「そうだったんですか」
「幸い飲酒や麻薬には溺れませんでした」
 こう僕に話してくれた。
「特に麻薬には」
「犯罪ですしね」
「かつてはヒロポンもありましたが」
 終戦直後なんかは普通に煙草屋で売っていたらしい、このことを知らない人も最近増えてきたらしいけれど確かにそうした時代もあった。
「そちらも煙草もです」
「されたことはないですか」
「一度も」
「そうなんですね」
「麻薬は身を滅しますので」
「だからですか」
「そちらには逃げませんでした」
 断じてという言葉だった。
「若し溺れていれば」
「その時点で、ですね」
「人間を止めていたかも知れません」
 廃人になっていたかも知れないというのだ、よく覚醒剤中毒で廃人になった人の話を聞くが恐ろしい限りだ。何故あんなものをするのか不思議で仕方がない。覚醒剤をして長生きした人の話を聞いたことがない。 
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