レーヴァティン
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第二十話 新妻その三
「男から女になろうとしている、その私を」
「まあ滅多にないことですね」
「呪いか禍だと言って」
そうしてとだ、ハンナは一言出す度に顔にある悲しさを強く深くさせそのうえで話していった。
「そう言ってです」
「よくある話ですね、けれど私にとってはです」
「どうでもいいですか」
「人間として中身が変わる訳じゃないですね」
明るい笑顔でだ、久志はハンナに言った。
「そうですよね」
「そう言われますと」
「貴女がエルフになっても獣耳になっても身体が完全に女性なら」
「そして私の心が私のままなら」
「はい、人間のものなら」
それならばというのだ。
「構いません」
「そうですか」
「節操がないんで」
自分の信条をあえてこう言ってみせた。
「ですから」
「元男でもですか」
「それを言ったら私なんかどれだけ過去があるか」
ハンナのそのことは笑って済ませた、まさに一笑だった。
「言えない様な腐った過去が」
「あったのですか」
「人間誰だってそうでしょ」
「それは」
「誰だって過去はありますよ」
「ですが私は」
「確かに凄く少ない話ですよ」
性別が変わる、そのことはというのだ。
「実際に、ですが」
「過去はですか」
「誰でも言えない、言ったら碌でもないことになるものなんか」
それこそというのだ。
「ありますから」
「だからですか」
「誰でも同じですよ」
「私だけでなく」
「それこそ本当にです」
誰にでもというのだ。
「ありますから」
「だからですか」
「気にしないことです」
まずはというのだ。
「本当に」
「では貴方も」
「言いましょうか?結構酷いですよ」
犯罪やいじめ、差別等はしてきていない。しかし自分でも自覚している醜い行いは幾つもあった。
だからだ、久志もこう言ったのだ。
「よかったら今から」
「いえ」
少しだけ微笑んでだ、ハンナは久志に答えた。
「それは」
「いいですか」
「人の過去を詮索したり聞いたりする趣味はありません」
だからだというのだ。
「ですから」
「それで、ですか」
「いいです」
こう言ってだ、久志の過去は聞かなかった。
「私は」
「では」
「はい、いいです」
「では言わないですね」
「そうして頂ければ」
「わかりました、とにかくですね」
「ばい、それでは」
畏まった態度は続いていた。
「宜しくお願いします」
「私も」
二人は笑みを交えて誓い合った、だがそれでもだった。久志はハンナにあらためて言った。
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