| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

夢幻水滸伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十九話 四国上陸その六

「海の戦では勝ったけど」
「はい、現在は讃岐や阿波の岸辺で我々を待ち受けています」
「迎え撃つつもりやな」
「左様です」
 吉川は綾乃に確かな声で答えた。
「斥候達を常に出して見張っていますが」
「その報ではやな」
「そう言っています、空からも見ていますが」
「海で伏兵とかはないか」
「左様です」
「ほな四国にどう上がるかやな」
「そうなるかと」
 吉川は綾乃にはっきりと答えた。
「これからは」
「ほな一気に上陸してやな」
「まずは讃岐、阿波からですね」
「攻めてこか」
「それでは」
「全軍そうしてこな、あとな」
 ここでこうも言った綾乃だった。
「吉川君何でこっちの世界ではうちに敬語なん?」
「我々の主なので」
 吉川は綾乃の問いに淀みなく答えた。
「こちらの世界では」
「それでなん」
「はい、そうです」
 その通りという返事だった。
「左様です」
「別にそんなんええのに」
「秩序ですから」
 上下関係、それをはっきりとさせているというのだ。
「この世界では私達の棟梁ですから」
「敬語で現実の世界では普通の口調か」
「左様です」
「何か原さんみたいやな」
 原辰徳である、巨人の監督を長きに渡って務めた往年の名選手だ。憎むべき全世界の敵巨人の中にありながら幾ら心無い衆愚とも言うべき昔の栄光を忘れられないそうしたファン共に罵られつつも己の責を言う果たしていった野球人だ。
「それは」
「あの人のご父君とのことですか」
「部活では監督、家ではお父さんやったっていうから」
 高校時代の野球部で父親が監督だったのだ。
「それで思ったんやけど」
「私はロッテファンなので」
「海やからやな」
「はい、セリーグは阪神ですが」
「えらい組み合わせやな」
「日本シリーズのこともありますが」
 二〇〇五年の伝説のシリーズだ、阪神はロッテに四試合ストレート敗北しかも総得点において三十三対四という球史に残る惨敗いや惜敗を喫した。惜敗と書かないと何かと不都合が生じるので無理にでもこうしておこう。
「それでもです」
「ロッテやねんな、パリーグは」
「はい」
 そうだというのだ。
「ですから巨人のことは知りませんが」
「まあうちも阪神やしな」
「それで何故巨人のお話を出されますか」
「他に例える話知らんかったさかい」
 だからだというのだ。
「それでや」
「そうですか」
「大した意味ないわ」
「そのこともわかりました」
「まあとにかくな」
 綾乃はあらためて言った。
「そうしたケジメはつけてか」
「こちらの世界では姫巫女様として敬語です」
「それを使ってるか」
「左様です」
「わかったわ、ほなな」
「はい、これからですね」
「四国に向けて出陣や」
 綾乃はあらためて全軍に命じた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧