DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~
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抽選会
前書き
先日野球の大会で初めて延長戦まで行きました。
おかげでまだ腰が痛い・・・草野球は短く楽しくやりましょう!!(笑)
「次!!1アウトランナー二塁!!」
状況を提示して動きを確認するケースノック。全員が正ポジションについた状態でノッカーの剛が打球をレフト前に放つ。
「バックホーム!!サードもっと右!!カット!!」
捕手を務める穂乃果が指示を出し、選手たちがそれに反応し動いている。マネージャー役のヒデコが打球を打ってからホームに到達するまでのタイムを測っており、一連の動きが終わってからそのタイムを教える。
「7秒5です!!」
「やった!!8秒切れた!!」
通常走者は塁間を4秒で走れると速いとされている。だが、ランナーはリードをしているため当然多少はタイムが縮まるため、セカンドからホームまでを8秒以内を目標にするケースが多い。
「真姫もにこも動きがよかったぞ!!穂乃果もその指示であってるからな」
「「「はい!!」」」
一通りのケースを終えたので続いて打撃練習に入る。ゲージを使用してグラウンドに備え付けられているマシン二台と一人が投げて三ヶ所でのバッティング。三人の三チームに別れ、ピッチャー、バッティング、守備をローテーションして行う。
(なんか最初の練習試合からやる気が変わったよな)
ノックを終えてベンチに戻る剛は日に日に成長していく少女たちの姿を感慨深く思っていた。
特に初めての練習試合を終えてからの練習は皆率先して行動をしており、技術力の向上なども見受けられる。
(そんなにあの試合が刺激になったのかね)
彼女たちの意識が変わったのは試合の翌日に見た剛のプレーする姿を見てなのだが、彼はそんなことなど知るよしもない。
「(おっと、そうだ)花陽!!守備の時間P.Pしてろ!!」
「は!!はい!!」
グラブをファールグラウンドに置いてライトポール下に着く花陽。守備にはヒフミトリオも手伝いで入ってくれるため、エースを務めている花陽は相変わらず走らされている。
「それじゃあ一巡目、開始!!」
笛の音と同時に響き渡る打球音。始めた頃はバットを振り切るのも困難だったのに、今では全員が外野に運べるほどの打撃力を持つほどに成長している。
(もうすぐ夏の予選か・・・まだまだなところはあるが、他のレベルから考えても十分戦えるだろう)
数年前から出場校が増えたこともあり各地方ごとに予選が行われている。音ノ木坂学院が所属する関東ブロックの高校は全部で28校。そのうち4校が全国大会への切符を手にすることができる。
(春の予選でベスト4に入っているところはシードだから1試合少ない。全国に行くにはそのシード校のうちの1校を倒さなければ行けないんだが・・・)
ベンチに置かれている雑誌の表紙に写る三人組。全国大会を制したチームの主軸であるその三人を見て、険しい表情になる。
(UTX・・・あそこのブロックに入ると厳しいな)
成長したとはいえ、全国制覇を達成しさらにはレギュラーの大半が三年生。絶対的な王者を前にしては明らかに分が悪い。
(せめて全国までは当たりたくないが、そうも言ってられないな)
彼女たちの目標は廃校阻止が一番だが、もちろん全国制覇も掲げている。そうなれば必然的にUTXを相手にしなければいけないわけで・・・
ガッ
「希!!顎を上げるな!!」
頭の中で格闘しつつ選手たちの悪い点も指摘する。監督業の難しさに胃が痛むが、それも大好きな野球を思えば屁でもない。剛は席から立ち上がり、バッティングゲージの後ろから選手たちを指導していた。
その翌日の正午、剛を筆頭にした少女たちはある場所へとやって来ていた。
「うわぁ!!人がいっぱい!!」
「ここにいる人たちみんな野球をやってる方なんですよね」
平日にも関わらずその場所は制服姿の女子高校生たちに埋め尽くされていた。彼女たちがやって来ているのは夏の本戦出場校を決める関東大会の組み合わせ抽選会。ほとんどの選手たちが三年間の集大成となる大会のため、大事な抽選会にはチームが揃って参加することが多い。
「見て花陽!!あそこにいるの千葉経済学高校の須川さんじゃない!?」
「にこちゃん!!あっちには群馬市高がいるよ!!」
強豪校や有名選手を見つけては歓喜の声を上げているにこと花陽。だが、そんな彼女たちにも多くの視線が向けられていた。
「ねぇ、あれ東日本学園の天王寺さんじゃない?」
「本当だ、なんでこんなとこいるの?」
「あの子達の引率ってことかしら?」
甲子園の雄天王寺剛がいるとあって音ノ木坂への注目度は非常に高い。しかし、それゆえに選手たちへの緊張感は大きくなる。
「なんだか緊張するわね・・・」
「胸がドキドキしてるよ・・・」
「なんだかワクワクするニャ~!!」
「あ!!凛ちゃん走り回ると危ないよ!!」
どこかに走り去ろうとする凛を片手で捕まえる剛。足をバタバタさせているその人物を元の位置に戻すと、順番が来たので受付を行い会場に入る。
「この辺に座るぞ。10時から抽選だからそれまでに席に戻っておくように」
そう言って席から離れていく彼は、スマホを取り出しどこかに電話をかけていた。
「はぁ、もうすぐ大会が始まっちゃうんだね」
「まだ抽選会ですよ、ことり」
全員いよいよ対戦相手が決まるとなると意識してしまい、緊張感が高まってくる。すると、会場の外からざわめきが聞こえてくると、周囲の高校生が一斉に扉の方を向いた。
「え!?何!?」
「何かくる!?」
「まさか・・・」
「もしかして・・・」
それに吊られて音ノ木坂も全員がそちらを向く。その中でにこと花陽は目を輝かせており、扉が開くと思わず立ち上がっていた。
「UTX学園だ!!」
入ってきたのは春の覇者にして高校女子野球界の絶対王者、UTX学園だった。
「見てにこちゃん!!綺羅ツバサさんがいるよ!!」
「一番前にいるのはキャプテンの統堂英玲奈さんだ!!優木あんじゅさんもいる!!」
まるでアイドルを見たかのような興奮状態の二人。他にも複数の高校の女子選手が彼女たちを見て騒いでおり、穂乃果たちは呆気に取られていた。
「にこ?あの人たちって・・・」
「はぁぁぁぁぁぁ!?あんたまさかUTXを知らないの!?」
「UTXは知ってるわ!!ただ、その中で先頭を歩いてる三人のことが気になるのよ」
全員が堂々と歩いている先頭に立ち、手を振るなどして談笑している三人。一人はおでこを出した髪型の小さな少女、もう一人は長めの髪をカールさせている少女、そして泣きぼくろが特徴的な挑発の少女。彼女たちがUTX学園の中心的人物なのはよくわかるが、女子野球に詳しくない絵里たちからしてみればなぜここまで騒がれるのかわからない。
「信じらんない!!いい?まず私たち側を歩いてるのがキャプテンの統堂英玲奈さん、キャッチャーよ」
「キャプテンでキャッチャー・・・」
全く同じ役割を担っているサイドテールの少女はその人物をキッと睨むように見つめるが、視線に気付いた彼女に爽やかな笑みで返され拍子抜けしてしまう。
「一番向こう側にいるのは優木あんじゅさん。左のエースとしても有名だけど、クリンナップも担っているスラッガーよ」
「へぇ」
髪を弄りながら隣の小さな少女会話する人物を見ながら、真姫が面白くなさそうな表情で髪を弄っている。
「そ―――」
「そして!!なんといっても注目なのは真ん中の綺羅ツバサさん!!」
テンションMAXになろうとしたところで目を輝かせて彼女たちを見つめていた花陽が割り込んでくる。
「エースでクリンナップ、さらには日本女子野球最速のMAX128kmを投じた女子野球界の至宝!!兄の綺羅光さんと同じ血を引いているだけあって、やはりその実力は計り知れません!!」
「あれが綺羅光さんの妹・・・」
「雰囲気あるニャ・・・」
ビデオで見たプロで活躍中のサウスポー。その人物とあまり似てはいないが、どことなく似たような雰囲気を放っているその少女が、なぜかこちらに歩いてくる。
「え!?何々!?」
「何か怒ってない!?あの顔!!」
好意的ではないその目に恐怖を感じ抱き合っている花陽とにこの前にツバサはやって来ると、ギラッと鋭い目で睨み付ける。
「あなたたち」
「「は!!はい!?」」
「私をあいつなんかと一緒にしないで!!」
「「すみませんでした!!」」
土下座でもしそうな勢いの二人を見て、今度は反対にニコッと笑みを浮かべる。
「わかってくれればいいのよ。お互い頑張りましょ」
「「は!!はい!!」」
ポンポンと肩を叩いて心配そうに様子を見守っていた二人の元に帰っていく。
「きゃああ!!お互い頑張りましょだって!!」
「すごいね!!肩まで叩かれちゃったよ!!」
憧れの存在に声をかけられ大興奮の二人だったが、他のメンバーはそれとは違う感想を抱いていた。
「あいつなんかって・・・お兄さんとってこと?」
「なんで?すごいピッチャーなんでしょ?」
「それなのに今の言い方・・・気になりますね」
現在プロの第一線で活躍していて、高校時代は全国制覇の経験もある投手なのに、それに一番憧れていてもおかしくない妹がそんなことをいうのはやはりおかしい。
「お待たせ」
不思議に思っていると、時間が近づいてきたこともあってか剛が帰ってきた。キャプテンである穂乃果の隣に腰かけると、スマホがマナーモードになっているか確認し、ポケットに戻す。
「あの、剛さん」
「なんだ?」
「剛さんと高校で一緒だった綺羅さんって、どんな方でした?」
その質問をした瞬間全員の顔が強張った。聞きにくいことも平然と聞いてのけることはすごいが、時と場合というものもある。
「光?あいつは調子に乗ってるところもあるけど、仲間想いのいいやつだよ。もう少し謙虚だとさらにいいけどな」
多少性格に難があるようだが、それほど大きな問題はない様子。ただ、光とツバサは兄妹。一緒にいる時間が長い分、いろいろなところが見えるのかもしれないが。
結局彼女の言葉の意味が解決することなく、会場の電気が一度消え、ステージ上がライトアップされる。その際絵里が悲鳴を上げていたが、希がうまくあやしており注目の的になることはなかった。
『ただいまより、女子全日本硬式野球選手権関東地区予選の組み合わせ抽選会を行います』
いよいよ始まる夏の大会。その命運を握るといっても過言ではない組み合わせ抽選会。まず先に抽選を行うのはシード校4校。
(今年のシードはUTXに華崎徳春、千葉経済学高校、南前橋商業。他にもシード落ちしているが横濱や群馬市校も同等の力を持っているが、第二シードの華崎徳春を見た感じその辺は十分倒せる。問題はやはり・・・)
切れ長な印象を与える少女が最初にくじを引く。
『UTX学園1番!!』
ほとんどの確率で第一シードは1番に入ることになっているこの抽選会。案の定もっとも警戒するべき相手であるUTX学園はその場所に入った。
『続いて予備抽選順にくじ引きを行います。1番から順番に―――』
「よし!!行ってくるね!!」
各チームのキャプテンがくじを引くため、音ノ木坂からはもちろん穂乃果が前に出る。
「穂乃果!!しっかりね!!」
「転ばないでくださいよ!!」
「変なとこ引くんじゃないわよ!!」
仲間たちの熱い声援?を受けながらステージ上へと向かう穂乃果。そしていよいよ、運命の時はやって来た。
学校の名前が書かれた板を係りの人に手渡し、机の上に裏返して置かれているナンバープレートを取る。
(どこだ?)
廃校阻止のために絶対に負けるわけにはいかないこの大会。その最初の相手となるのは・・・
『音ノ木坂学院27番!!』
パチパチパチパチ
数字が言われた途端小さな歓声と共に巻き起こる拍手。それが何なのかわからないメンバーは呆気に取られていたが、にこを始めとした野球を知る者たちは険しい表情を浮かべ・・・
「チッ、舐めた真似しやがって」
剛は周りに聞こえないような声でその拍手への苛立ちを見せていた。
「えっと・・・何?今の拍手」
戻ってきた主将は意味がわからないまま来たらしく、頭を掻きながらそう問いかける。
「あれはお礼の拍手よ」
「お礼?」
「うん。見て、私たちが入ったところ」
言われるがままに自分たちの名前が書かれている場所を見る面々。それからにこと花陽が話し始める。
「まずにこたちが最初に当たる横濱高校。あそこはシードこそされてないけど昨年全国夏ベスト8にまで入っているわ」
「ニャッ!?」
「ベスト8ですか!?」
「うん。そして二回戦は第二シードの華崎徳春。その強豪2校の間が丁度空いてて、敗戦必須だからみんな先に花陽たちが入ってくれて感謝してたの」
初出場となれば当然実力が乏しいのはおおよそ予想ができる。そんなチームが強豪校の潰し合いに入ってくれるのなら、皆感謝せずにはいられない。
「この真姫ちゃんを舐めるなんて、許せないわね」
「えぇ。その態度、後悔させてあげるわ」
それを聞きスイッチが入った主砲二人。他の面々も気落ちすることなど一切ない。
「この組み合わせは俺たちに“運が向いてる”ってことかもしれないな」
気合いが入っていく選手たちに告げるように口を開く監督。その言葉を聞くために、全員が彼の方を向く。
「相手は初戦、ノーデータのうちと戦わなくてはならない。情報戦となる現代野球ではそれは致命傷になりかねない。
しかも次の華崎徳春は強豪を倒して勢いのついているうちを相手にしなければならない。先に強いとこを潰せるなんて、あとが楽になるな」
顔がいつもと違い完全に悪人になっているため思わず息を飲むが、彼も負けるつもりなど毛頭ないことに安心し、笑みを浮かべる。
「まずは横濱だ、名前負けだけは絶対するなよ」
「「「「「はい!!」」」」」
最悪の抽選会だったにも関わらず選手たちの心は一つになった。いよいよ開幕する夏の大会、果たして栄冠はどこが手に入れるのか。
後書き
いよいよ大会に入っていけそうです。
初戦圧倒的に勝って注目を浴びるか迷いましたが、いきなり強豪とのほうが盛り上がりそうなので今回の形にしました。
次から大会です。盛り上がっていくぜぇぇ!!
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