提督はBarにいる・外伝
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彼願白書完結記念作品
秘密作戦、発令ス
前書き
熾火さんが何やらステキなコラボストーリーを書いてくれたので、ちょいと参加させてもらいます。実は前フリはしてあったんですがね。フラグ回収の機会に恵まれなかったので、今回で回収したいと思います。
光作戦の裏側に隠された事情を、ちょっとした伝で聞かされた提督。政府の隠蔽した真実、米国の策略、そしてそれを解決せんとやって来たかつての名将。何から何まで蚊帳の外に追いやられた提督は苛立ちを隠す事もせず、徹夜作業で鎮守府にやって来た巡視艇と連合艦隊の艦娘達に補給と整備を受けさせ、翌朝早くに死地へと送り出した。不機嫌そうに顔を歪め、煙草をふかしながら、だったが。
「darling、昨日からずっと不機嫌ダヨ~……」
「ったりめぇだろ。本土のバカ共が現場に何も報せずにこの上ねぇアホな作戦立ててんだ、苛立つなってのが無理な話だ」
吸い殻をペッと海に吐き出し、新しい煙草を出そうとポケットの中の箱をまさぐるが、先程吸っていたのが最後の1本だったらしくポケットの中の箱はクシャクシャになっていた。それが余計に苛立ちを募らせる。……と、不意に提督のスマートフォンが着信を告げる。仕事用の通信であれば執務室の電話に入る筈だが……そもそも、こんな早朝に一体誰が?と更にイラッとしながら電話に出る提督。しかしこの電話こそ、提督の苛立ちと気にくわない日米両政府をギャフンと言わせる逆転の一手に繋がる電話である事を、提督はまだ知らない。
「へいへい、こちら金城ですがコノヤロー」
『あぁ、やっぱり起きてたかレイジ。いや、もしかして今から寝るトコロかな?』
「んだよ、テメェかロリコン親父」
『酷いなぁ、一応歳上の同期だろ?』
電話の相手は金城提督の同期であり、元在日米軍司令にして、現在は帰化して日本人となり、ショートランド泊地で提督をやっているクルツ=波田だった。
「で、こんな朝っぱらから何の用だよ?」
『今、光作戦が発令されてるだろ?その裏事情……キミはどこまで知っている?』
「今ちょうどトラックを壊滅させたって化け物を退治しに行く連中を見送ったトコだ」
『なんだ、じゃあかなり詳しいトコロまで知ってるのか。じゃあ話が早いネ』
「話が見えてこねぇな……こんな早朝に俺に電話してくるなんて、よっぽどの用事か?」
『あぁ。恐らく君にしか頼めない頼み事だ』
「……ほう?詳しく聞こうじゃねぇか」
クルツの遠回しな言い方で、厄介事の臭いを嗅ぎ取った提督。普段から強面の顔に、口を大きく歪ませてニヤリと嗤う。
『実はね……今封鎖されているトラック諸島の島の1つに、米軍の生み出した新型艦娘の日本譲渡用のマスターシップが逃げ込んでいる』
マスターシップとはなんぞや?という話をするには、艦娘の生産方法について語らなければならない。艦娘には第1世代型から第3世代型までが今現在活動している。第1世代型はかつての船の魂である船霊(ふなだま)と適合した女性を改造したものであり、いわゆるサイボーグに近い存在である。
第2・第3世代型は、その第1世代型のDNAを採取し、船霊と適合しやすい素体をクローンで作り出し、そこに艦娘に必要な改造を施す。そこに船霊を定着させて初めて、艦娘として誕生するのである。マスターシップというのは映像や音楽のマスターテープよろしく、その素体の元となる船霊と身体を持った艦娘であり、数が少なく稀少な存在である。
「おい、ちょっと待て。んじゃ何か?アメリカ政府は日本に譲渡する予定のマスターシップがトラックにいる事を知りながら、核攻撃で吹っ飛ばそうとした。そういう事か?」
『……恐らくはね』
金城提督の眉間に皺が寄り、険しい表情になる。それと同時に彼のスマートフォンを持つ手にも力が入りミシミシと悲鳴を上げる。アメリカの思惑は恐らくだが、トラックでのトラブルに託つけて日本に譲渡する予定のマスターシップを消し去り、日本の戦力増強を防ぎたい……そんな所だろう。通常の状況下でそんな事をすれば日米安保は脆くも崩れ去り、日米の立場が逆転しつつある保障上の協力は打ち切られるだろう。しかし今は特殊な状況だ。秘密裏に処理できれば『非常時における不幸な事故』として処理されて闇に葬られるだろう。
「気に食わねぇなぁ。全くもって気に食わねぇ」
『キミならそう言うと思ったよ、レイジ。だからキミと、君の艦隊にお願いしたいんだ。彼女……“サラトガ”の救出をね』
「別に構わねぇが……そいつはちと高くつくぜ?」
『おいおい、金取るのかい?』
「当たり前だ、こちとら慈善事業じゃねぇんだぞ?命張るんだ……それなりの報酬用意してもらわにゃなぁ?」
『報酬……金じゃなくてもいいのかい?』
「おうよ。例えば……そうだな、助けたサラトガ本人がウチへの配属を希望したらタダでウチに提供するとかな?」
金城提督はその強面の顔を、凶悪に歪めてニヤリと嗤った。
『虎の子のサラトガを差し出せ、というのかい?いや流石にそれは……』
「おっと、その虎の子を闇に葬ろうとしたのは米国だろ?だったら俺が“保護”して運用しても、何ら問題はねぇよなぁ?」
自分で口にしておきながら、とんでもない暴論の屁理屈だ。しかし、筋は通っている。昔から敵艦船の拿捕・再利用は行われてきた事だ。日本に渡したくないから、等という酷く子供じみた理由から化け物と一緒に核で焼却しようというのだから、棄てたも同然と捉えても何ら差し支えはない。それに、あの壬生森の狐野郎から話を聞いた時点で、無理矢理にでも介入はする気満々だったのだ。その為の言い訳というか……正統性を持たせるアイディアは既に脳内に浮かんでいる。必要な根回しの手順もOK、後は協力者が頷くか否かだが……恐らくは大丈夫。
『ハァ……止めても無駄そうだし、私は聞かなかった事にするよ』
「おぅ、そうしとけ」
俺が巻き込まなきゃだけど、な!
『じゃあ後は君に任せるよ。協力出来る事はあるかな?』
「あぁ、ブルネイに駐留してる米軍に渡りを付けてくれ。借りたい物がある」
さて、クルツの奴との電話はこれくらいにして、と。非常呼集だ、全員叩き起こせ!鎮守府内にけたたましくサイレンが響く。まだ起きていなかった連中もサイレンの音に叩き起こされてバタバタと起きてくる。集まる場所は食堂……ウチの所属人数的に全員集合出来るのがスペース的にここくらいしか無いからなんだが、何ともウチらしい話じゃねぇか。
「はい注目!」
眠そうな目を擦っている艦娘達の目の前に立ち、声を張り上げる。
「え~、今朝方に護衛艦が1隻ウチで補給を済ませて出ていったのを知っている奴もいると思う。あの船の行き先はトラック……なんでも、姫や鬼以上の化け物をぶっ飛ばしに行ったらしい」
ここでざわつく一同。ここは重要じゃねぇんだよ、どうせ俺達ゃその討伐戦には加われねぇからな。
「だ~ま~れっての。俺達ゃその化け物討伐とは無関係だ……まぁ丸っきり無関係でもねぇんだがな」
シン……と一気に黙る一同。どうやら俺の雰囲気が変わったのを察したらしい。
「んで、その化け物がトラック泊地を文字通り潰しちまったんだが……そん時に逃げ出した住民やら、近くを航行してたアメリカから日本へ輸送されてた艦娘が深海棲艦共に追いかけられて、近くの島に逃げ込んでるらしい……下手すりゃ捕まってる」
黙ったままの艦娘達に尚も続ける。
「そんでな?ショートランドのクルツから頼まれたんだよ。日本へ輸送されてた艦娘……アメリカの空母サラトガなんだが、島から助け出してくれってよ。それが出来るのは白兵戦も海戦もこなせる鎮守府……つまり、ウチだ」
「さぁお前ら……深海棲艦に陸だとどっちが格上か、教えてやりたくはねぇか?」
後書き
ってな訳でアンケートの結果待ちの間、熾火 燐さんの書いていた『彼願白書』でウチとのプチコラボがあったのでその補足編?的なのをお送りします。こんな壮大な話なのにフラグは物凄く小さいです。多分本編の310話辺りを読むと隠れてます。
サラトガの救出(誘拐?)作戦ですが、リアル鎮守府では持ってません。ちょうど半年ほど離れていた時期のイベントだったのです( TДT)
運営さん、何とぞサラトガの大型建造落ちを!武蔵もビス子も大鳳も建造できてないけど!www
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