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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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美保鎮守府NOW-Side B- PART12

 
前書き
 提督はかつて沈めてしまった記憶を持った加賀に刺されたが、一命を取り留めた。美保鎮守府でリハビリをしつつ穏やかな日常を送るが、帰投の日が近付く。 

 
 人生のツケ

~美保鎮守府・敷地内~

「大丈夫?darling」

「あぁ、大分な……まだ少し痺れが残ってるが」

 提督が刺客として放たれた加賀に刺されてから2日が経過していた。加賀が用意していた刃物には、提督達が危惧していた通り致死性の毒物が塗られていたが、加賀の手心によって毒性が弱められ、なおかつ解毒剤が効く種類の毒物だった為に一命を取り留めていた。しかし脇腹の傷が深かったのと、毒の一部がまだ体内に残っており、その影響で身体に痺れが残っていた。明石の診断では後遺症は残らないとの事だったが、今はまだ日常生活を過ごすにも四苦八苦だ。そんな時には甲斐甲斐しく世話してくれる嫁さんの存在が、何より有り難く感じてしまったりする。

『帰ったらたっぷりと相手してやらないとな……』

 そんな事を考えていると、前から歩いてくる2つの人影がやって来る。赤城と加賀だ。

「あ……」

 俺と目が合うと露骨に視線を逸らしてきた。やはり未だに後ろめたい気持ちがあるんだな、こりゃ。

「おはようございます、金嶋提督。提督への復職おめでとうございます」

「あぁ、ありがとよ。当分は無理がききそうにねぇけどな」

 それに比べて赤城の方は切り替えが早い。隣の加賀の一件に絡んで同じく美保に在籍していたもう一人の赤城が沈んだというのに、その表情に影はない。本心から俺の復職をお祝いしてくれているようだ。そんなやり取りを聞いて更に顔を曇らせる加賀。

「なんだよ、気にしすぎだっつのお前は」

 そう言ってコツン、と軽く加賀の額を小突く。

「だってその傷……」

 一生残るかも知れないんでしょ?と言いかけたのだろう。口を開きかける加賀の前に右手を翳し、制止を促す。

「はっきり言うけどな、この程度の傷屁でもねぇわ」

「えっ」

 加賀が目を丸くしている。




「聞いてるかは解らんが、ウチの鎮守府にゃ嫁艦がゴロゴロいる。ざっと50人位か?」

「ご、50人……」

 知識として知っているのと、本人の口から生々しく語られるのでは重みが違うのだろう。傍らで聞いている赤城も若干引いている。

「そりゃ50人も居ると色んな奴がいる。甘えん坊、肉食系、引っ込み思案、バイ……当然独占欲が強いのもいる」

 ぼかして言ってるが、ヤンデレっぽい奴等である。普段は仲良いくせに俺が絡むと途端にハイライトさんが職務放棄する連中の事だ。某ぽいぬとか、その姉妹とか、その辺の奴等である。

「だから知り合いからは常々言われてたんだ。『お前、いつか刺されるぞ』ってな。いや~、まさかその第一号が昔死に別れたと思ってた女だとは思わなかったがな!ハハハハハ……あたたた」

 豪快に笑うと傷に響く。ズキズキと痛みを主張してくる傷口を抑えると、3人が心配そうな顔でこちらを見てくる。やれやれ、過保護すぎるってのも気恥ずかしいモンだ。

「それに、後遺症は残らねぇと聞いてるからな。今更過ぎ去った事は悔やまねぇさ、それに知ってるか?人生のツケって奴は、自分の一番苦しい時にまとめて取り立てに来る物らしいぜ?」

 これはとある漫画の悪役が言っていた台詞なのだが、読んだ当時はふーんとしか思わなかったが、今になって思うと何とも含蓄のある台詞に思えてしまう。

「だから、お前もあんまり悔やむな。そうしないと人生のツケを取り立てられる時がかなりキツくなるからな」

 そう言って頭をポンポンとしてやる。顔がくしゃっと歪んだ加賀は、それを隠すように深々と頭を下げた。地面にはポタポタと水滴の跡が滲む。

「それともお前、ウチに来るか?」

 そう言うと加賀の肩の震えが止まり、赤城は驚愕、金剛はこちらをジト目で睨んでくる。

「ま、冗談だ。でももう一度聞くからそれまでに答え出しといてくれや」

 じゃあな、と言ってすれ違う形でその場を後にする。もう2~3日すれば迎えのニ式大艇がやって来る予定だ。





 等と油断していたら予定は未定、刻々と変化する物だ。とある筋から俺のケータイに連絡があった。美保に向かう中央からの役人の大艇に乗って呉に飛び、そこからブルネイに帰還して欲しいらしい。慌てて金剛達に荷物を纏めさせ、旅支度を整えた。その後も命令は二転三転、最終的に出発は翌日。午後一番の大艇に乗る事になりそうだ。

 翌日。やって来た大艇に乗り込むのはウチの連中と中央からの役人ご一行、それと俺に電話をかけてきたとある筋の要人とそのSP。護衛が居ないように見えて心許ないが、まぁウチの連中がいれば大体どうにかなるだろう。美保鎮守府の連中に見送られ、機内に乗り込むと呉までの道程で酒盛りでもするか、という話で盛り上がっている。発起人は副大臣と呼ばれている軽薄そうな兄ちゃんだ。

「金城提督もどうだい?一杯」

 飲む、と言われて断るような俺じゃない。それと同時に青葉の耳元に顔を近付け、

『おい青葉、データの吸出しはパーフェクトだろうな?』

『勿論ですよ。美保鎮守府の隅から隅まで丸裸です』

 ならばいい。さぁ前祝いだ、パーっと行こうじゃないか。

「おぉ!そりゃドンペリじゃないか!」

 ウチの鎮守府から持ち込んだクーラーボックスから、ガラス瓶が出てくる。本当はデータの拝借が出来たらそのお祝いに、帰り道で飲もうとしていた1本だ。

「グラスは無いんで回し飲みで勘弁してくれよ?」

 そう言ってコルクを抜き、グビグビと喉を鳴らして飲む。高い酒だが、俺にとっちゃあジュースと何ら変わらない味だからなぁ。

「ぷはぁっ!ブルネイのこれからに乾杯だぜ」

 帰ったら忙しくなるぞ、俺も。ブルネイに駐留している米軍との秘密裏の協定だろ?その他の根回しに、美保からパク……ゲフンゲフン、一生借りておくデータからの新兵器開発にと、楽しそうなイベントが目白押しだ。

「しっかし、なんつータイミングで来日してんだよ。坊(ボン)」

 そう言って俺が睨んだのは、ブルネイの皇太子。親父である国王と家族同然の付き合いをしている為、坊と呼んでいる。

「ちょっと、勘弁して下さいよ叔父さん。僕だって今回は被害者みたいな物なんですから……」

「うるせぇ、日本の近代的文化を勉強する為に~とか言って、アキバ通いしてる奴に権利はねぇよ」

 そう、この坊主親日家の国王の影響を受けて日本大好き。そして何をどう拗らせたのか、オタクになってしまったのだ。事ある毎にお忍び来日してアキバに通ってオタクライフを満喫しているらしい。振り回されているSPの皆さんも苦労しているのか、しきりに頷いてるし。

「こうなったら国内に噂流してやろうか?」

「止めてください、死んでしまいます」

 必死に嘆願してくる皇太子の姿にキョトンとしている大臣ご一行を眺めながら、クーラーボックスからビールを取り出して開ける。

「じゃあな、美保提督」

 そう呟いて、缶ビールをグイッと煽った。 
 

 
後書き
くぅ~疲れました!これにてみほちんとのコラボストーリー終了です!最後はちょっとバタバタしましたが、もう本編の方に早いとこ飯テロ爆弾を投下したくてウズウズしてたので駆け足での終了とさせて頂きました。

 さて、明日以降は本編の更新に戻る訳ですが本編復帰一発目の飯テロネタは既に決定しております。キーワードは、『花見』『弁当』『パン祭り』です。勘のいい読者の皆さんならば、何を作るのか大体想像が付く事でしょう。皆様、食パンを用意してお待ち下さいm(_ _)m 
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