色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第21話 見せたいモノ
「それじゃあ三人共、行ってらっしゃい」
そう見送る秋の言葉を背に、アステリ、フェイ、ワンダバの三人(二人と一体?)は天馬が待つ雷門中へ向い、歩きだす。
十五時ちょっと過ぎ。
授業が終わり、大体天馬達が部活に向かうのが夕方の十六時頃……。
天馬と約束していた時間には大分早くて、アステリは不思議そうにフェイに尋ねた。
「ねぇフェイ、どうしてこんなに早く出たの……? 天馬の言っていた時間には大分早いみたいだけれど……」
そう言葉を続けるアステリにフェイはニコッと笑うと、彼の腕を引いて駆け足気味に歩き出した。
不意に前へと引っ張られる身体に戸惑いながら、アステリは声をあげる。
「ちょっ、フェイ……!?」
「アステリに、見せたいモノがあるんだ」
「見せたい……モノ?」
フェイはそれ以上は何も言わず。アステリの腕を引きながら、ただひらすら前を向いたまま歩き続ける。
フェイの隣を歩くワンダバも、先程までのお喋りとは打って変わって大人しい。
(一体どこに行くつもりなんだろう……)
アステリは一人答えの出るはずの無い考えを巡らせながら、黙ってフェイの後ろを着いて行った。
「アステリー、大丈夫ー?」
「う、うん……」
カンカンと金属で出来たハシゴを上りながら、アステリは答えた。
あれからどれ程の距離を歩いただろう。
昨夜、カオス達と戦った河川敷を通り過ぎ、賑やかな商店街の前を通り過ぎ少し歩いた所。
人の手を加え作られた町の片隅に、ソレはあった。
辺り一面を緑で包み込み、この稲妻町をはるか昔から見守り続けたその塔は、この町を象徴する巨大なイナズママークを掲げては、今日も平和な稲妻町を見守っていた。
「よいっ、しょ……と……」
「アステリ、ほら見てごらんよ!」
「うん……」
フェイに促され、アステリは恐る恐る柵の隙間から周りを見る。
「! うわぁ……」
そう言葉を漏らすとアステリはすぐさま立ち上がり、目の前に広がる景色に息を呑んだ。
どの建物よりも高い場所に建設されたこの塔の上では、木枯らし荘も、河川敷も、雷門中だってあんなに小さく見える。
「すごい……」
「ここね。前、天馬に教えてもらったんだ」
「天馬に……?」
この世界に来て初めて見た素晴らしい景色に感動するアステリにフェイはそう言うと、彼の方を見て言葉を続けた。
「不思議だよね。ただ、遠くまで見えるって言うだけなのに……この景色を見るとどうしてか……何でも頑張れる気になるんだ」
「フェイ……」
「今日連れてきたのは、アステリにも一度この景色を見てもらいたくてさ。……ボクが天馬にそうして貰ったみたいに」
そう笑うと、フェイは再度目の前の景色へと視線を移した。
仲間が集まり、準備が揃えばアステリの故郷である【モノクロ世界】に行かねばならない。
その前に、フェイはどうしてもアステリにこの景色を見せたかった。
この世界には素晴らしい物が沢山ある事を、アステリに知っていてもらいたかったのだ。
「そうだぞ。アステリ君!」
「! クマさん……?」
「クマではなぁーいっ!!」
アステリの言葉に興奮気味に叫ぶと、ワンダバは「フンッ」と胸の前で腕を組んで続けた。
「君の事情を深くは知らないが、この世界には良い物が沢山ある! 決して、そのクロトと言う奴の様な悪いモノだらけでは無いと言う事を覚えて置いてほしいのだ!」
「! …………もちろん、分かってるよ。ボクもこの世界が大好きで……ずっと、憧れてたんだから……」
そう嬉しそうに笑うと、アステリはズボンのポケットから何やら二つに折りたたまれた一枚の紙を取り出した。
「それは?」
フェイが不思議そうに尋ねる。
アステリは二つに折りたたまれた紙を開くとフェイに手渡し、その紙に描かれている物を見せてみせた。
「写真……?」
「だいぶ古いモノみたいだな……」
「でも、綺麗な写真だよ」
色あせ、端の方等ボロボロになりかけた古い写真はそれでもハッキリと青く、透き通る様な綺麗な空を映し出していた。
アステリは目を細めながら、懐かしそうにその写真について語り出す。
「その写真……だいぶ前に、アッチの世界で見つけたんだ」
「モノクロ世界で?」
フェイの言葉にコクリと一つ頷く。
アステリ曰く、色の無い世界で読んだ古い本。
この写真は、その本に挟まっていたと言う。
白と黒の濃淡しか見た事がなかった彼にとって、この写真の青空は強く印象に残った事だろう。
「この写真があったから……ボクはキミ等の住むこの世界がとても素晴らしいモノなんだと言う事を知る事が出来た。今、ボクがここにいるのも……全部、この写真のお蔭なんだよ」
「そっか……アステリにとって、この写真はとても大切なモノなんだね」
「はい」とフェイは持っていた写真をアステリに渡す。
アステリは受け取った写真を大事そうに見詰めると、「うん」と呟き、少し照れくさそうな笑顔を浮かべた。
「大切な……ボクの宝物だからね」
アステリの屈託の無い笑顔に、目の前のフェイとワンダバの表情も自然と綻んでいく。
「そっか。じゃあ、大切にしないとね」
「うんっ」
「良いですね~、青春真っ只中って感じで」
「!!」
そう、愉快そうに笑う中性的な声。
突然聞こえた聞きなれぬ声に驚くと、三人は一斉にその方向へと目を向ける。
「やぁ。やっと見つけましたよ…………アステリさん」
三人が聞いた声の先。
そこにいたのは、黒猫の模様が描かれた傘を差す
黒い獣の様な人間の姿だった。
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