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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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先輩禁止

 
前書き
いよいよ明日甲子園も決勝ですね。個人的には東海大菅生に頑張ってほしかったから残念ですが、ベスト4と素晴らしい成績を残してくれたのでよかったです。 

 
カキーンッ

「OK!!」

声を出しボールの正面に入ったポニーテールの少女。彼女は華麗なグラブ捌きでボールをキャッチすると、軽やかな動きで一塁へと送球する。

「ナイスフィールディング!!」
「やっぱりうまいです!!絵里先輩!!」

思わず拍手を送るほどの華麗な守備に見惚れている面々。それに対し絵里は恥ずかしそうな顔を見せていた。

「やめてよ、こんなことで」
「あー!!照れてるニャー!!」

サードを守っていた絵里にショートを守っていた凛が飛び付く。それをファーストから、希が微笑ましそうに見つめていた。

「希先輩も絵里先輩もどこを守っても大丈夫ですね!!」
「みんなかなり練習してますし、守備面はいいところまで来てるんじゃないでしょうか」

いつもの練習場でノックやバッティング練習をしている穂乃果たち。グラウンドが使えない時は屋上で素振りやゴロの捕球練習をしているが、その効果もあって皆格段にうまくなってきている。

「甘い!!甘過ぎるわ!!」
「にこ先輩?」

沸き立つメンバーたちを見て、ノックを打っていた少女が声を張り上げる。

「いい!!にこたちは全国制覇しなきゃいけないんでしょ!?だったらこんなもんで喜んでちゃどぁめよどぁめ!!」

妙に発音のいいダメよダメに冷たい視線を送るが彼女はそんなことなどお構い無しに話を続ける。

「いい!!このチームには足りないものが多すぎるわ!!まだポジションだって決まってないし!!打順も固定できない!!これから残りの期間でにこたちが勝ち上がるための形を作らなきゃいけないのよ!!」
「矢澤先輩、すごい気迫ね」
「それだけ本気なのよね」

ノッカーをしているにこにボール渡しをしているヒデコとミカが聞こえないように小さな声でそんな話をしている。本当は一日だけの助っ人のはずだったが、彼女たちはすっかりマネージャーとしてチームに参加してくれるらしく、グラウンドが使える日にはボール拾い等で手伝いに来てくれることが多い。

「天王寺先生がいないからって気を抜いちゃどぁめよ!!わかった!?」
「「「「「はい!!」」」」」

にこの強い口調に思わず返事をしたが、別に誰も気を抜いていたわけではない。皆廃校阻止のために気力は十分、気合いも十分。弱音を吐くこともせず懸命に練習に励んでいた。一人の少女を除いては。

「花陽ちゃん!!あと10秒!!」
「ぴゃああああ!!」

穂乃果たちが練習している野球場の外、そこではストップウォッチを持った少女とその前に倒れ込むようにして走り込む茶髪の少女の姿があった。

「はい、ジョギング。座っちゃダメだよ」
「は・・・はい・・・」

荒くなっている呼吸でストップウォッチを持っているフミコと一緒にゆっくりと走り出す花陽。選手が九人揃ってから、花陽だけは天王寺の指示により別メニューを行っている。長期に渡り孤独な戦いをしている少女の背中は、以前よりも弱々しくなっているように見えた。

「花陽ちゃん大丈夫かな?」

エースとして期待されている花陽は基礎体力が低いこともあり、徹底的な体力強化としてあらゆるランメニューを課せられている。一応ケガをしない程度にと考慮されてはいるが、それでも辛いものは辛い。

「何言ってんの。あれくらい走ってもらわなきゃ困るわ!!」
「そうね。海未はともかく花陽は体力が足りなすぎるわ。大会までに連投できるところまでは持っていかないと」

野球好きであるにこと野球をずっとやって来た絵里は走ることの重要性がよくわかっている。近年ウエイトトレーニングの発達により走ることを疎かにしてしまうこともあるようだが、音ノ木坂のようにトレーニング器具がない学校は、走ることによって能力を向上させることも多い。

「二人とも、集合してくれ」

ジョギングで球場の外周を走っている二人を見ていると、彼女たちを呼び止めながらグラウンドに入ってくる者がいた。

「天王寺先生!!」
「お疲れ様です」

それはこのチームの顧問兼監督である天王寺剛。彼は少女たちの挨拶に返事をすると、全員にベンチ前に集まるように指示する。

「まずはみんなお疲れ様。いくつか連絡事項があるんだが、その前に・・・」

一度言葉を止め、全員の顔を見る。ちなみにマネージャー的役割のヒデコたちは給水用のジャグに飲み物を追加しに行っている。

「メンバーが揃ったところで、一つだけルールを決めたいと思う」
「ルールですか?」

何やら部活動っぽい言葉になぜかテンションが上がっている者もいるが、それを置いておいて話を進めることにする。

「上級生を呼ぶ時、先輩呼び禁止だ」
「「「「「えぇ!?」」」」」

いきなりのルール提示に唖然とする面々。だが、天王寺は全員がわかるようにそのルールの理由を話す。

「このルールを提示した一番の理由は、野球はチームスポーツだと言うことだ。ぶっちゃけこのチームは個の力じゃ到底勝ち上がれない。そうなるとチームワークが何よりも重要になるが、先輩呼びなんかしてたらなんか距離感じるだろ?」
「言われてみると・・・」
「だからもう少し近くなるような・・・さん付けとかでもいいから、とにかく学年ごとの距離感を縮められるような呼び方をしてほしい」

実際どの程度を許容範囲にするのかは穂乃果たちに任せることにした天王寺。だが、そこで一人がとんでもない発言をぶちこんできた。

「要するに仲良くなれればいいってことですよね?」
「まぁ、そうなる・・・かな?」
「だったら、どうせなら・・・」

名案が思い付いたようで、不敵な笑いを浮かべる少女。そして、彼女はこう言い放った。

「上下関係なんか、なくしちゃいましょ」
「「「「「えぇ!?」」」」」

天王寺のルールのさらに上を行く絵里の提案。下級生たちは本当にそんなことしていいのかと不安げだが、三年生たちはわりと乗り気だ。

「ええやん!!その方がみんなと仲良くなれそうやし」
「まぁ天王寺先生が言うなら仕方ないわよねぇ」

チーム合流が遅れたことやそれまでの接し方から後輩たちに怖がられているように感じていた絵里や希はこれを期に仲良くなろうと考え、にこは尊敬している天王寺の言葉とあって、絵里の考えに乗り気な様子。

「じゃあ早速やってみましょう、穂乃果」
「は!!はい!!えっと・・・絵里ちゃん」

ちゃん付けに満足げな表情を浮かべる提案者。それを見て次々に皆相手の名前を呼んでいく。

「凛も!!ことりちゃん・・・」
「はい!!凛ちゃん」
「えっと・・・希先p・・・」
「あれれ?海未ちゃん呼び方が違うよ?」
「/////!!の・・・希!!」
「はい、よろしい」

予想していたものとはかなり異なるが、結果としていい方向に向かっているようなのでとりあえずいいかといった表情の天王寺。だが、この火花が自分にまで降りかかるとは想定していなかった。

「じゃ・・・じゃあ私、先生のこと剛さんって呼んでもいいですか?」
「は?」

緊張しすぎたのか、それとも狙っていたのかはわからないが花陽からそんなことを言われ固まる天王寺。しかし、他の者たちが有無を言わせぬようにどんどん乗っかってくる。

「せやね!!剛っちもチームの仲間なんやし!!」
「そうニャそうニャ!!」
「私は元々剛くんって呼ぶつもりだったし」
「あ!!それいい!!穂乃果もそう呼ぼっと!!」
「じゃあことりも」
「この場合呼び捨てでもいいのでしょうか?」
「偉大な剛さんを呼び捨ては許さないわよ」

どんどん話が進んでいき、自分の意見など言わせてもらえそうにないことにようやく気が付いた。

「・・・言い出したのは俺だしな。それくらいならいいよ」
「「「「「やったぁ!!」」」」」

内心面倒くさいと思っているとは口が裂けても言えない。それに生徒に好かれるのは教師として悪い気がしないので、彼女たちの無茶苦茶な意見も受けることにした。

「あと、剛くんも私たちのこと名前で呼んでくださいね」
「その方が距離感も縮まりますしね」
「わかったわかった」

薄々そうなるだろうとは思っていたし、今まで野球をしてきた中でずっと監督に名前で呼ばれていたので、その方がいいだろうと思っていた剛。彼は期待の眼差しを向けてくる少女たち一人一人に視線を配る。

「穂乃果、海未、ことり、花陽、凛、真姫、にこ、希、絵里。改めてよろしく」
「「「「「はい!!よろしくお願いします!!」」」」」

こうして新体制として突き進んでいくこととなった音ノ木坂学院野球部。そこでようやく、連絡事項へと話が移る。

「これから連絡事項だが、まず、今週の土曜日、練習試合を組ませてもらった」
「おおっ!!」
「ついに初めての実戦ですか!!」
「テンション上がるニャー!!」
「相手はどこですか?」

ようやく九人揃ったところで、実戦を積んでいこうと練習試合を組んできた剛。彼はことりからの問いに、全員を落ち着かせてから答える。

「元々二校でやるところに入れさせてもらったから変則ダブルヘッダーになるんだが、一試合目は福岡の大濠中央。二試合目はグラウンドを提供してくれる埼玉の華崎徳春だ」
「「華崎徳春!?」」

対戦校を聞いた瞬間目玉が飛び出しそうになっているのは野球知識豊富な二人。なぜ彼女たちがこれほどまで驚いているのかわからない穂乃果たちは面を食らっていた。

「どうしたの?にこちゃん、花陽ちゃん」
「どうしたのじゃないわよ!!華崎徳春っていったら今年の選抜大会ベスト8の強豪よ!?」
「なんでそんなところが受けてくれたんですか!?」

どんな部活動でも強い学校とそうでない学校というのは大きく別れている。女子野球でもそれは例外ではなく、いきなりの強豪との対戦に驚愕していた。

「変則ダブルの二、三試合目だから、相手はレギュラーメンバーじゃないかもしれないけど、どっちも全国に出てくるレベルだから実力を知るという意味合いではいい相手だろ。で、今から初戦のポジションを決めて行こうと思う。最初はもちろん花陽が投げるから、花陽と穂乃果以外で好きなポジション着いてくれ」
「「決め方雑!!」」

てっきり投手と同様に各ポジションをテストしていくのかと思っていたら、まさかの投げやり具合に突っ込まずにはいられなかった。

「試合しながらポジションは決めていくし、人数がギリギリだからな。できるポジションはできるだけ多い方がいい」

そう言って早速練習を始めようと守備につかせノックバットを手に取る。明確になった最初の目標に、選手たちの気持ちは昂っていた。

 
 

 
後書き
今回はちょっと短めです。剛が選手を名前呼びすることになったところで表記が天王寺→剛に変化しました。
次は早速練習試合に入っていきます。あまり間延びしすぎないように気を付けたいですね。ちなみに出てくる高校名は何となく出してるので、実在するところが出てきたらごめんなさいm(__)m 
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