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DOREAM BASEBALL ~ラブライブ~

作者:山神
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9人の女神

 
前書き
野球やりながら野球小説を更新する図々しさ(笑)
一日で三試合もやるって・・・明日からの仕事動けるかなorz 

 
前日のミーティングでのこと。

「これが生徒会長なんですか?」
「えぇ。知り合いに頼んでビデオを貸してもらったわ」

真姫の家に上がり込み、ミーティングを行っている穂乃果たち(天王寺は残業でいません)今彼女たちが見ているテレビに映っているのは、シニア時代の絢瀬絵里のビデオである。

カキーンッ

「打った!!」
「うわっ!!外野の頭越えていっちゃった!!」
「男の子相手にあんなに飛ばせるなんて」

打球はレフトの頭を飛び越え絵里は悠々二塁に到達する。そのあまりの打棒に全員言葉を失っていた。

「確かにこれほどの打撃を持っていれば、私たちが野球をするのを面白くなく感じるのも無理がありません」
「この大東シニアは強豪として知られてるわ。何年か前には全国でベスト4に入ったこともあるし」
「そこで、体力的に厳しい女の子がレギュラーに入るなんて相当な実力がなければありえません」

ビデオを見ているだけですごいのは十分わかるが、話を聞けば聞くほどその凄さに驚かされる。

「そんな人を抑えられるのかニャ?」
「そうだよ!!負けたら廃部なんだよ!?」
「まだ部活にもなってませんよ」

廃校の未来を食い止めるために設立した野球部が、その夢を叶えることなく廃部になってしまっては意味がない。それゆえに不安が押し寄せてくるが、にこは冷静だった。

「その辺は天王寺先生もわかっているだろうし、大丈夫よ」
「天王寺先生は生徒会長のことを知っているのですか?」

海未のその不安ににこは首を振る。それはメンバーの不安を駆り立てるのには十分だった。

「それじゃあ!!対策は昨日言ってたあれだけなの!?」
「それだけで抑えられるわけないニャ!!」
「静かにしなさい、凛」

実はこの前日、天王寺からおおよその作戦は授けられていたため、今日はそれで抑えられるかをイメージするためのビデオ観賞だったりする。だが、相手の能力を見て決めた作戦じゃないとわかると、騒がずにはいられなかった。

「本当に天王寺先生はこれを見ないで考えたのかな?」
「「「「「え?」」」」」

すると、突然穂乃果がそんなことを口走り、皆顔を見合わせる。

「にこ先輩、このビデオっていつ借りたんですか?」
「昨日のぞ・・・友達から貸してもらったわ」
「それだと先生が見る時間があったとは思えませんね」

やっぱり不安な気持ちを駆り立てる結果になったが、穂乃果は全然そんな雰囲気を見せない。

「でも、にこ先輩に教えてくれた攻め方も海未ちゃんに教えてくれた攻め方も、生徒会長は苦手そうに見えるよ」
「そうかな?」

にこが提供してくれた中学三年時の全国大会のビデオをいくつか見ているが、確かに体に向かってくるカーブに避けるシーンや内角のストレートに詰まらされるシーンが見受けられる。皆、長打や鋭い打球に気を取られてしまい、敵の能力を正確に把握できていなかったのだ。

「敵を私たちの中で大きくしちゃダメだよ!!相手も同じ高校生だもん!!やってみなくちゃわからない!!」
「穂乃果ちゃん」

ポジティブな主将の言葉に全員が勇気付けられた。先程までの暗い雰囲気が一変し、皆笑顔が垣間見える。

「となる一番重要なのは・・・」

気持ちが高ぶったところで、全員の視線がある人物に注がれる。一斉に向けられたそれにビックリした少女は、体をビクッとさせた。

「花陽!!あんたが頑張らなきゃいけないのよ」
「そうね。なんと言ってもエースなんだから」

一打席目で登板するにこ、二打席目で登板する海未はすでに天王寺から投球の指示が出ている。だが、エースに指名された花陽だけは別の指示が出されていた。

『決め球を使うタイミングはこっちで指示する。だが、あとはお前たちに任せようと思う』

花陽と穂乃果、エースと正捕手とが初めて行う共同作業。憧れの人物から信頼され、託された彼女は嬉しさと緊張でいっぱいだった。

「本当に大丈夫かな?」
「大丈夫だよ!!穂乃果も頑張るから!!」

不安で顔をうつ向かせかけたエースの手を取りギュッと握り締める相方。他の面々も彼女に笑みを見せており、それにより花陽の緊張が解れていく。

「はい!!精一杯頑張ります!!」


















パシッ

「軟投派、速球派と来て最後は技巧派。継投で緩急を付けて来てるわね」

最後のマウンドに上がった眼鏡の少女を見てタイミングを合わせるためにバットを振っている絵里。その人物に、後ろから希が声をかける。

「絵里ち、わかってる?」
「何が?」
「向こう、ここまでボール球一球も使ってへんよ」

希の指摘した通り、にこ、海未双方ともにすべてのボールをゾーンで勝負してきている。それを指摘された絵里は、相手の投手を観察しつつ、一つの推測を立てる。

「先に追い込んでこちらに狙いを絞らせないつもりね」
「せやね。しかも、ここまで絵里ちは初球を振れてない。たぶん初球から振っていかんとまたやられるよ」
「了解」

相方からの注意を心に刻み、再三打席へと向かう絵里。

「絵里ち!!」

だが、二、三歩歩いたところで声をかけられ、彼女の方へ向き直る。

「カードの意味、わかるよね?」

彼女の手に握られているのは、タロットカードの正位置の星。それに対し、絵里は何も答えず、打席へと向かった。

「よーし!!頑張ろう!!花陽ちゃん!!」
「は!!はい!!」

緊張のあまり返事をする声が裏返っている花陽に、バックからも優しく声をかける。

(球速は100kmちょっとくらいかしら。矢澤さんと同じくらいね)

打席に立ち、鋭い眼光で敵を見据える。それを向けられた花陽は、ビクッと恐怖に体を震わせていた。

「花陽ちゃん!!」
「は!!はい!!」

怯えている様子のエースの名前を前に座っている主将が呼ぶ。それで冷静さを取り戻した花陽は、眼鏡の奥の目を細め、集中力を高める。

「似てる・・・」
「ん?亜里沙ちゃん何か言うた?」
「いえ・・・」

マウンド上の小さな姿を見て亜里沙が何かを呟いたが、それはすぐそばにいた少女にもきちんと聞こえなかった。

(さて、初球は・・・)

穂乃果から花陽へとサインを送る。それに少女はうなずくと、セットポジションから投球へと入っていく。

(この子もセットポジションからなのね)

最初に投げたにこは振りかぶって投げていたが、海未と花陽はそうじゃなく、セットポジションからの投球を行っている。この手の投手は比較的制球力に優れていることもあり、絵里はストライクを叩いていこうとボールを見つめる。

ビシュッ

軸がブレることなく足を上げ、ムダのない投球フォームからボールを繰り出す。絵里もそのボールに積極的にバットを出す。

キンッ

乾いた金属音が聞こえたが、打球は前ではなく後ろにあるバックネットへとぶつかる。穂乃果はミカから替えのボールを受け取ると、花陽に声をかけながら返球する。

「ナイスボール!!」
「はい!!」

帽子を脱ぎながら額の汗を拭う。着帽した少女は再びセットポジションに入り、キャッチャーからのサインを受ける。

(外角にストレート、無難な攻め方ね。コースが良すぎて捉えきれなかったわ)

一球目の攻め方を冷静に分析する絵里。その表情を見ながら、穂乃果が次のサインを出し、花陽がうなずき、投球動作に入る。

ビシュッ

(内角!!いや、このスピードは!!)

ボール気味の内角球だが、絵里は果敢に振りに出る。すると、ボールたと思われたボールが打者から逃げるように変化する。

(やっぱり!!)
(ウソッ!?読まれた!?)

カキーンッ

快音を残した打球。しかし、それは希と亜里沙のいるベンチに吸い込まれるように飛び込んでいった。

「ファール!!」

結果的に追い込む形になったが、未知数であるはずの敵のボールを確実にミートする能力の高さに守備陣の心拍数が跳ね上がる。

(どうしよう・・・次はどう攻めれば・・・)

前の打席でのホームラン性の当たりを見たこともあり、不安な気持ちに駆り立てられた穂乃果が天王寺に視線を送る。

(まだ任せるには早かったか)

捕手を始めてまだ一週間にもなってない。経験を積ませる意味も込めてここは任せてみたかったが、それで負けてしまっては元も子もない。
天王寺はベンチから立ち上がると、ゆっくりと、間違えが起こらないようにサインを送る。それを受けた穂乃果がうなずき、花陽へとサインを伝達する。

(外角ストレート、内角からストライクに入ってくるスライダー。次もストライクで来るかしら)

構えに入りつつ、チラリと捕手の位置を確認する。すると、視野に入った捕手が、中腰に構えていることに気が付く。

(高めの釣り球?でも、このスピードじゃボール球は振らないわよ)

どんな狙いがあるのかわからないが、念のため高い球を気にしつつ次なる投球を待つスラッガー。花陽は一つ息を吐き、大きく足を上げる。

ビシュッ パシッ

「ボール」

フェイクをかけているのかとも思ったが、予想通りの高めのストレートに絵里は余裕を持って見送る。これでカウントは1ボール2ストライク。これを見て天王寺から再度サインが送られる。

(セオリーなら低めにワンバウンドする変化球。でも、このスライダーの変化量なら、見極めることはできるわ)

何事にも定石と言われる攻め方がある。だがそれは経験値の高い者の方がよくわかっており、この場合打者の方がそれに対する準備をできる。その状況の中で、新米バッテリーは意思疏通をし、投球に入った。

ピュッ

「!?」

リリースされた瞬間、予期せぬボールに絵里の体勢が崩れた。
今までの球種よりも高い軌道で放物線を描きながら、わずかに揺れながら打者へ向かってくるボール。

(ナックル!!)

ガッ

前のめりになりながら必死に食らい付き、一塁側へフラッとした打球を上げる。ファーストを守る真姫がそれを追い掛けるが、打球はフェンスの向こう側へと落ちる。

「フーッ」

想定外のボールになんとか対応できたことに安堵の息を漏らす。もちろん変化球でタイミングをずらすことは想定してはいたが、そのボールがナックルだったことで慌ててしまったのも確かだ。

(ストレートにスライダーにナックル・・・まだあるかしら?あるなら一体・・・)

次は一体何が来るのかわからず、敵のサインを出す監督を見る。天王寺はカットされたことに動揺することなく、迷いなくサインを送る。

(カットされるのも想定済みだったわけね)

次にどうなるのかを常に予測しているその姿勢に感心しつつ、意識を投手へと映す。例によって花陽は速いテンポで投球に入る。

(際どい球はカット!!半端なスイングだけはダメ!!)

迷いは運動能力を低下させる。余計なことは一切斬り捨て、来た球を打つことにして投手を見据える。

ビシュッ

(!?高・・・)

放たれた瞬間、三球目の見せ球と同じボールだと思った。ただそのボールよりも遅いことから、変化球が抜けたのだと絵里はこれまでの経験から特定してしまった。

クッ

パシッ

「あ・・・」

高めに抜けたボール球。そう思い見送ったボールは打者の手元で大きく落ち、キャッチャーミットに吸い込まれる。

「ストライク!!バッターアウト!!」

バットを下し、信じられないといった表情を浮かべる彼女に対し右手を高々と挙げてコールをする球審。それはこの対戦を終幕を意味していた。

「やったー!!やったよ花陽ちゃん!!」
「はい!!やりました!!」

嬉しさのあまりマスクを放り投げ花陽に向かって駆け出す穂乃果。花陽は駆けてきた彼女に抱き締められて正気に戻り、大喜びで抱き締め返す。

「ナイスピッチングです!!」
「よくやったわ!!花陽」
「スッゴいニャー!!」
「よくやったわ!!」
「すごいよ花陽ちゃん!!」

感動の絶頂にいるバッテリーの元に遅れてやって来るチームメイトたち。その姿をバッターボックスから見つめる少女の元に、二人の少女が歩み寄る。

「完敗やったね、絵里ち」
「えぇ。まさか最後にあんなボールを選択するなんて・・・」

通常高めに浮いてくる変化球は長打になりやすいため避けるべき球種とされている。しかし、それゆえに打者もそこを警戒しなくなるため、ハイリスクハイリターンとして攻めるのも一種の策である。

「生徒会長!!いや、絵里先輩!!」

ガッカリと来ているその人物の元に、駆け寄ってくる穂乃果。その嬉しそうな表情を見て、彼女は約束を思い出しつつ、タメ息をついた。

「約束だもんね。いいわ、野球部を認め―――」
「絵里先輩!!すごいバッティングでした!!」

自身の言葉を遮られたことよりも、敵からの賛辞の声に驚愕の表情を浮かべる絵里。穂乃果はそんな彼女の姿が見えていないかのように、次々に感想を述べていく。

「打球がびっくりするくらい速くて、あんなに飛ぶなんて思ってませんでした!!やっぱり絵里先輩ってすごい人だったんですね!!」

一気に捲し立てた後、さっと右手を差し出す穂乃果。その手の意味がわからなかった絵里は、彼女の顔を見つめる。

「絵里先輩!!これから私たちと一緒に野球をやりましょう!!」
「私は・・・」

確かにそう約束していた。しかし、彼女は妹にケガをさせた罪悪感からその手を取ることができず、固まってしまう。

「お姉ちゃん!!」

そんな少女に、小さな少女が声をかける。

「私、お姉ちゃんが野球やってる姿がすごい好きだった。お姉ちゃんみたいになりたくて、ずっと野球をやって来れたの」
「亜里沙・・・」
「お姉ちゃんがまた野球をしてくれたら、亜里沙、すごい嬉しい!!またお姉ちゃんと野球やれるって思ったら、もっともっと頑張れると思うの!!」

キラキラとした瞳で自身にまた野球をやってもらいたいと懇願するその姿に、彼女は心を動かされた。
目の前に差し出されたその手を取り、ギュッと握り返す。

「よし!!これで八人」
「いいえ、九人よ」
「「「「「え?」」」」」

ついに正式な部活動になるまであと一人となったと思った途端、後ろにいたにこがそんなことを言い出し、全員がそちらに振り返る。

「そうよね、希」
「えぇ!?にこっちってば本気なん!?」

指名されたのは絵里の右腕とも言える生徒会副会長。ビックリしている彼女に、小さな少女が詰め寄る。

「何よ、『絵里ちが野球やるんやったらうちもまたやろうかなぁ』とか言ってたじゃない!!」
「いや、あれは言葉の彩と言うか・・・」

目が泳ぎにこと視線を合わそうとしないその姿を全員が怪しげな目付きで見ている。その話を聞いていたところで、海未が気が付いた。

「もしかして、希先輩も野球をやっていたんですか?」
「「「「「えぇぇぇ!?」」」」」
「ちょっとだけや、絵里ちみたいにレギュラーやった訳じゃないし」

先日穂乃果たちが見たビデオは希から提供されたものだったのだが、彼女は絵里が出場していた全国大会に同じように参加していた。対戦こそ叶わなかったものの、情報戦とも言われる現代野球では、どこかで当たるかもしれない相手のデータを取るなど当たり前のため、以前撮影していたものを希がチームにお願いしコピーさせてもらっていたのだ。

「希・・・」
「そんな睨まんでよ・・・」

まさかの裏切り行為に怒りの眼差しを向ける絵里。希はそれから逃れようと必死だったが、穂乃果が駆け寄ってきて抱き付いてきたため、動きが封じられる。

「これからよろしくお願いします!!希先輩!!」

何とかしてなかったことにしようとしていた希だったが、屈託のないその笑顔を向けられてしまっては、もう誰も抵抗することなどできない。

「もう!!どうなっても知らんからね!!」

投げやり気味の声でそう叫ぶ姿を見て、全員が歓喜に包まれる。
ようやく揃った九人の女神たち。彼女たちが廃校を阻止することができるのかは、名捕手と言われた天才の手に掛かっていた。


 
 

 
後書き
やっと九人揃いました、長かった・・・
しかも設定がなかなかグタグタですが、それなりに経験者もいないと勝てるわけないですからね、大目に見てください。
次からはいよいよ本格的に動き出していきます。さぁ、楽しいbaseballの幕開けだぁ!! 
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