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とある3年4組の卑怯者

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10 土産

 
前書き
 みどりをいじめる男子2名をエアホッケーで打ち負かした藤木。彼は卑怯者を超えてみどりの最高の友人で英雄(ヒーロー)となったのだった・・・。
 

 
 一行は6階の飲食店のフロアに到着した。
「実はな、この日にデパートに行きたかった理由がここのレストランなのじゃよ!のお、吉川さん」
「はい、このレストランではいま日本各地の料理を扱った定食が期間限定で食べられるからね」
「へえ~すごいね!」
「はい!」
 こうして一行は期間限定メニューを取り扱ったレストランに入った。

 ウエイトレスに席を案内され、静岡の街並みが見える窓側のテーブルに5人は着いた。 
 メニューを見てみると、いろいろなメニューがあった。北海道定食、東北定食、関東定食、甲信越定食、東海定食、北陸定食、近畿定食、中国定食、四国定食、九州定食、沖縄定食・・・。どれも日本各地の名物を地方別に楽しめる献立となっている。
「どれにするか迷うな・・・」
 藤木は迷っていた。
「藤木さんはどれになさいますか?」
 みどりが聞いてきた。
「そうだなあ・・・、この東北定食にしてみようかな」
「そうですか、私も藤木さんと同じものにします!」
「いや、無理して同じものにしなくても・・・」
「いえ、私藤木さんが選んだものならきっと美味しいと思いまして、それに私はなかなか選べませんでしたから・・・」
 みどりが照れながら言った。
(みどりちゃん、そこまで藤木と合わせなくても・・・)
 まる子がみどりの藤木への好きだらけに少し苦い顔をした。
 まる子は近畿定食、まる子の祖父は沖縄定食、みどりの祖父は北海道定食に決めた。

 東北定食は宮城県のはらこ飯、青森県のねりこみ、秋田県のいぶりがっこ、福島県のウニの貝焼き、そして山形県の柚餅子(ゆべし)、岩手県の江刺りんごから搾り取ったジュースであった。
「こりゃどれも美味しいや!」
「本当です。私もこれを選んで本当に良かったです!」
「近畿も美味いよ~、大阪のたこ焼きなんかついてるし、鮒寿司も結構いけるよ~」
「沖縄もええぞ。ゴーヤーチャンプル、ソーキそば、シークワーサーのジュースも美味いぞい!」
「北海道だって、石狩汁、室蘭やきとり、美味しいよ。このホオノキの茶はアイヌ民族の飲み物だとさ」
 こうして5人は食事を楽しんだ。
 その後はまた5階のゲームセンターで遊んだ。みどりをからかった男子たちはいなかったので、楽しく遊ぶことができた。負けるとすぐに泣いてしまうみどりを藤木とまる子はかなり気を使わなければならなかったが。

 こうして夕方になり、一行は清水へと戻ってきた。藤木たちがみどりとその祖父の別れの挨拶の時だった。
「まる子さん、藤木さん、今日は本当にありがとうございました」
「うん、気を付けて帰ってね、みどりちゃん」
「みどりちゃん、バイバイ~」
「ええ、またお会いしましょう」
 みどりは礼儀正しくお辞儀をして祖父と共に帰った。そして途中でまる子たちとも別れ、藤木は家に着いた。

「ただいま」 
「お帰り、茂」
 母が出迎えた。
「あ、お土産にこれ買ってきたんだ」
「どれどれ、へえ、どら焼きじゃない、いいの買ったわね、父さんもきっと喜ぶわ」
 そして父も、「こりゃ美味そうじゃないか」と言ってくれた。
 藤木家は夕食の後、そのどら焼きを食べることにした。父は粒餡、母と息子は漉し餡を食べ、その味はかなりのモノだった。

 翌日、藤木は学校へ行く準備をした。笹山とリリィに渡すお土産をランドセルに入れて。
「行ってきます」
 藤木は張り切って学校に行った。
 教室に入ったときにはまだ二人とも来ていなかった。藤木は例のモノは机の中にしまった。
 その時、永沢が教室に入ってきた。
「やあ、藤木君、おはよう」
「あ、永沢君、おはよう」
 藤木は挨拶を返した。永沢に自分がプレゼントをあげる姿を見られると何か冷やかされるかもしれない、と不安を感じた。
「藤木君、君もしかして、僕に何か見つかるとまずいものがあるんじゃないのかい?」
「え!?!」
 あっさりと感づかれた。
「そんなことないよ!」
「ふうん」
 そんな時、笹山が入ってきた。
(笹山さんが来た!)
 藤木は永沢を気にせず、机の中からお土産を持って思い切って笹山のところへ向かった。
「笹山さん!」
「あ、藤木君、おはよう、どうしたの?」
「あの、昨日デパートに行って来てね、これ買ってきたんだ」
 藤木は紙袋の中からあの消しゴムセットを取り出し、笹山に差し出した。
「うわあ、これケーキの形をした消しゴム!?」
「うん、笹山さん、お菓子好きかなって思って・・・」
「ありがとう、嬉しいわ」
 笹山は笑顔でお礼を言った。と、その時・・・。
「何!?ケーキだって!?おい、藤木、俺にも食わせてくれよ!!」
 小杉がいきなり飛び込んできた。
「違うよ、ケーキじゃないよ、小杉君!」
「そうよ、これはケーキの形の消しゴムよ!」
「ちぇ、ケーキが食えると思ったのになあ。でも上手そうだな、くれよ」
「これは君にじゃなくて、笹山さんにあげたものだよ」
「そうよ、折角藤木君がくれたんだもん」
「そういうこと言わずにさあ」
 図々しい態度に永沢が出てきた。
「小杉君、そんなに欲しかったら君も同じのを買えばいいじゃないか。横取りしたら君は泥棒だぞ。藤木君よりもずっと卑怯だぞ」
 永沢が小杉を睨む。
「ちぇ、分かったよ」
 小杉は残念そうに去った。
「あ、ありがとう、永沢君」
 藤木が永沢に礼を言った。
「別に僕は君を助けようと思ったんじゃないよ」
「え・・・?」
 永沢はそう言って去った。
「藤木君、ありがとうね」
「うん・・・」
(笹山さんが喜んでくれている・・・。良かったなあ)
 藤木は1人への土産渡しを完了させた。
 藤木は自分の席に戻り、リリィを待った。その時、永沢がまた声をかけた。
「藤木君、君はもしかしてリリィを待っているんじゃないのかい!?」
「え、いや、そんなことないよ!!」
 その時、リリィが学校に入ってきた。途中で合流したのか、まる子にたまえと一緒だった。
「あ、リリィ・・・」
「藤木君、おはよう、どうしたの?」
 リリィが挨拶と共に聞いてきた。
「あの、これ・・・、昨日デパートに行って買ってきたんだ。そしたらおまけに図書券も貰えてね」
 藤木はリリィに蛍光ペンと図書券を差し出した。
「私に?いいの?」
「もちろんさ・・・」
「ありがとう、是非使わせてもらうわね!」
 リリィは喜んでいた。藤木はリリィの笑顔をみて自分も嬉しく思えたのだった。
「藤木君・・・、君、プレゼントをあげたからっていい気になっているんじゃないのかい?」
「な、永沢君!」
「もしかしたら、しばらくしたらこのことを忘れて使ってもらえずに終わるかもしれないよ」
「そんなことないわよ!永沢君、その言い方ちょっとひどいわよ!」
 リリィが真剣な顔で永沢に言い返した。
「う・・・」
 永沢は何も言えなかった。
(リリィが僕を庇ってくれた・・・?)
 藤木は自分のことを庇ってくれたリリィに対して嬉しくもちょっと自分が情けないと感じた。

 下校時、藤木は誰かに声をかけられた。まる子だった。
「藤木、アンタ昨日文房具で買ったのは笹山さんとリリィへのプレゼントだったんだねえ」
「な、なんでさくらが知ってんだよ!?」
「だって二人から聞いたもん」
「そ、そうなんだ・・・」
「そしたらアンタのこと他の男子と違って気持ちがこもってるって言ってたよ」
「え、へえ~」
 藤木は嬉しくなり、顔がどんどん赤くなった。
「あ、そうそう、笹山さんが気になってたよ。どうしてリリィが好きなのに私にあげたんだって」
「う・・・」
「まあ、難しいだろうけど、アンタもどちらにするかそろそろ決めたほうがいいよ」
 そういってまる子はさっさと行ってしまった。
(はあ、どっちも捨てきれないんだよな・・・)
 
 そして翌日、藤木は帰宅した時、ポストの中に自分宛の手紙が入っていた。
 みどりからだった。
 藤木は部屋に入り、封を切り、中を読んだ。すると、こう書いてあった。

 藤木さん

 先日はどうもありがとうございました。私は藤木さんとデパートでお買い物ができて、一緒にエアホッケーをして、さらに食事ができてとてもうれしかったです。また、私をいじめから助けていただいて藤木さんは私を大切にしてくださっているという事が理解できました。いつかまた、藤木さんと今度は遊園地とか博物館とか、旅行にでも行きたいと思います。ではまたいつの日か。

 みどり

 藤木は頭が真っ白になった。
(もう勘弁してくれよ・・・みどりちゃん) 
 

 
後書き
次回:「学級文庫係」
 藤木と永沢は学級文庫係として、リリィに皆に読んでもらいたい本があれば学校に持ってきて欲しいと依頼する。そしてリリィと本を探しに本屋へ行くことになる・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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