八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百十八話 大浦天主堂その九
「歌手には」
「そのモーツァルトからですか」
「若い歌手が歌うに適した声域の役も多いですし」
「そうなんですね」
「非常に有名な技量を要求される役もありまして」
「技量を上げることにもですね」
「適しています、非常に困難な技術が必要でも」
それでもというのだ。
「歌えます」
「そうですか」
「そしてです」
僕にさらに話してくれた。
「私もそうした役を歌いたいと思っています」
「モーツァルトから」
「そう思っています、そして」
「ドイツオペラの作品もですか」
「やがては」
こう僕に話してくれた。
「そうも考えています」
「じゃあワーグナーは」
「多分私の声域ではワーグナーの重要な役は歌えないでしょうが」
「あれっ、そうなんですか」
「イゾルデやブリュンヒルテはあまりにも強烈な役で」
僕も知っている役だった、どちらも。イゾルデはトリスタンとイゾルデのヒロインでブリュンヒルテはニーベルングの指環のヒロインだ。
「声域もです」
「それもですか」
「非常に独特で」
「裕子さんが歌われるには」
「非常に難しいです」
ワーグナーの役でメインのそれはというのだ。
「とかくワーグナーの作品は独特でして」
「声もですか」
「テノールが有名ですが」
「ジークフリートとか」
「そうです、普通のテノールではありません」
裕子さんはこのことを話してくれた。
「ヘルデン=テノールといいまして」
「ヘルデン、ですか」
「日本語で言うと英雄的となります」
ヒーローがドイツ語になったものかとだ、僕は聞いていて思った。英語とドイツ語が近いということから思った。
「ワーグナーの主人公達、テノールのそれは全てと言っていい位そうですが」
「独特なんですか」
「声域が低いですが輝かしい声を出さないといけません」
「低いんですね」
「それでいて輝かしい歌ばかりなのです」
「何かそれは」
「矛盾していますね、しかしです」
その矛盾をというのだ。
「ワーグナーは実現したのです」
「歌で」
「テノールのそれに」
「そうなんですか」
「しかも主役ですから常に舞台にいて歌っています」
一曲や二曲ではなく、というのだ。
「しかも普通の歌劇よりも長いので」
「ああ、ワーグナーは確かに長いですね」
僕も学園の歌劇場で驚いた、三時間四時間とかが普通だからだ。
「マイスタージンガーなんか特に」
「あれは特にですね」
「はい、普通の歌劇二作分ありますから」
本当にそれだけあるから凄い、観る前に長いと聞いていたけれど実際に観てその長さに驚いた。出て来る歌手の多さと合唱にもだけれど。
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