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太陽は、いつか―――

作者:biwanosin
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「ではこちら、フリーパス二枚になります」
「ありがとうございます」
「では、いってらっしゃいませ」

受け付けで一日のフリーパスを二枚買い、笑顔で手を振られたので会釈を返す。考えてみれば遊園地に来るなんて小学校の頃学校の友人と行ったきりだ。そう思うと俺もワクワクしてきた。

「はい、マルガ。これがあれば園内のアトラクションは全部遊べるから」
「本当に全力で遊ぶつもりなのね」
「どうせなら全力全開で、ってね。デートスポットを全部回るんだったら、遊園地は一日で遊びつくさないと」

これについては本気で言ってるのもあるけど、二日連続で遊園地というのも体力的に耐えられる気がしなかったのもある。結構体力使うよね、遊園地って。

「さて、ここからは本格的に体力勝負なわけなんだけど」
「私は関係ないわよ?」

そう言えば、マルガはサーヴァントでした。こうして遊ぶ程度で体力が切れるわけがない。というわけで一つ目の問題は俺が個人的に頑張ればいいということで解決である。

「よーし、ではいきますか。まずは何に乗る?」
「そうねぇ……ジェットコースターっていうの、乗ってみたいわ」
「では、レッツゴー!」
「おー!」

二人そろって拳を突き上げて。いざ、園内へ!



 ☆



スタート・ジェットコースター

「おいおい、高い、高いな、結構高いな、こんなに高かったっけ!?」
「眺めはいいけれど、ここから一気に下るって考えると、ちょーっと怖いものが」
「「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」


セカンド・フリーフォール

「よくよく考えてみたら垂直降下じゃんジェットコースターいけたから大丈夫とか何の参考にもならないじゃん」
「というか生々しい話飛び降りとあんまり変わらない気がするわね。……あ、でもあれは体の向き変わるって言うし」
「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


サード・ジェットコースター(背面)

「何か乗る直前テンションおかしいから行ける行けるってなってたけど冷静になってみれば何だよ背面って」
「さっきまでのと違って行く先が見えない、って言うのも怖いわね。人の発想ってどのジャンルでも不可思議よねぇ」
「「イエェェェェェェェェイ!」」


フォース・メリーゴーランド

「あー、この乗ってればいい感じ、平和だなぁ……」
「平和だけど、なんだか、うーん……」


フィフス・コーヒーカップ

「これもこれで、平和な遊具だよなぁ」
「ねえカズヤ、これってどうやって遊ぶの?」
「や、こうして真ん中の円盤を回して自分たちも回る感じで」
「イッエーイ!」
「あ、ちょ、マルガ速い速い速すg……サーヴァントの全力でやったら壊れるから自重してね!?」



 ☆



「し、死ぬかと思った……」

コーヒーカップの後、割と足元がおぼつかなくなったのでマルガの肩を借りて移動し、時間も丁度いいということで昼食タイムとなった。現在は注文した品が届くのを待っている段階である。

「大げさねぇ。……って言いたいんだけど、そうでも無かったり?」
「自分がサーヴァント化したことで生前よりもパワフルになってる自覚を持っていただきたい限りです」
「はーい、自重します」

すっごく楽しそうな笑顔で言われてもちょっと説得力に欠ける気がするんだけど、笑顔に見とれてしまったので気にしないことにする。マルガに自販機で買ってきてもらったスポドリをもう一口飲んで渡し、体を起こして伸びを一つ。

「まあそんなことは置いといて、絶叫系が気に入った感じで?」
「ええ。とっても刺激的でいいと思うわ」
「正直、マルガのイメージとは違って意外なんだけど」
「あら、だったら私のイメージで遊園地で遊ぶものは何なのかしら?」

俺の飲みさしを口に含みながら問われたので、意識を逸らして考えてみる。マルガが遊園地にいる様子をイメージして、さて何に乗るのかと考える。ふむ……

「そもそも遊園地のイメージがなかった。こう、高級ショッピングみたいなイメージが強い」
「でしょう?だったら遊園地でどう遊んでいたとしても、全く問題ないのよ」

何と言う超理論。しかしまあ、本人がそれで楽しいのならそれでいいのかもしれない。そんな結論に至ったところで注文したホッとドックが届いた。そろって手を合わせて、かぶりつく。

「そう言えば、本当にいいものは何でもない平凡なものだ、みたいなこと言ってたっけ」
「……ええ、言ったわね、そんなことも」

ふと思い出したので口に出してみたが、やはり、あまり心地よい話題ではないらしい。だとすれば、根掘り葉掘り聞く気にはならない。これが今を生きる人間相手であれば話は違うんだろうけど、そうではないのだ。だとすれば、そこに口を出すのは野暮というものであろう。

「だとすると、やっぱりこうして選択肢が遊園地だったのは間違ってなかったわけだ」
「……ふふっ、ええ、そうね。買い物は買い物で楽しいでしょうけど、こっちの方が絶対に楽しいと思うもの」

そのまま話を逸らす方針でよさそうなので、続行する。そもそも今日は、というかこれから先全部、全力で遊びに来ているのだ。暗い話題を出すとか、俺は本格的にバカなんじゃなかろうか。

「さて、マルガが絶叫系を気に入ったとなると、次はどんなところに行くのがいいだろうか……」
「あんまりこう言うものはないのかしら?」
「そりゃ、ガチのところに行けばバンジーとか色々とあるだろうけど、この辺りにはないかなぁ」
「そう、残念ね」

眉の下がった笑顔でそう言ったと思えば、しかしすぐに復活する。

「でも、大丈夫よ。私としては私の時代にはなかった、私の時代とは変わった娯楽を楽しみたいんだもの。あ、デートスポットで、ね?」
「その条件が人生で彼女無しの男子にはキツいんですけどねー」

現代の恋人同士で行く場所と言われて某宿泊施設が浮かんだけど、即座に却下する。そういう目的ではないと初対面の時に断言しただろう、俺。こんな状況で、マルガ相手にそれを反故(ほご)にってのは、最高にカッコ悪いだろう。
……まあ、デートで行きそうな場所をイメージすればいいんだろうし、大丈夫大丈夫。

「じゃあ、次は体を動かす系ってことでボーリングかな?カラオケ……は、曲が分からないからキツいか」
「からおけ?」
「あー……曲の伴奏が流れて、それに合わせて歌う娯楽施設、かな?」
「確かにそれは、曲が分からないと難しそうねぇ。たっぷり時間があれば色々と聞いて覚えていくのだけれど」

まあ、無理なことをいくら言っても仕方ない。というわけでカラオケは除外して、他には……プリクラとかなのだろうか?うーむ、分からん。
今日の夜にでも、恋人持ちの知り合いに片っ端からメールしてみよう。

「まあ、その辺りの話はまた追々家ですることにして。この後はどうします?」
「そうねぇ……もう少し絶叫系を回りたいかしら?」
「マジっすか」

マルガさん、結構タフ?体力あり余ってるの?
……よーし、気合入れて全力で付き合おう!



 ☆



「はふぅ……まさか、マジで最期まで徹底して絶叫系に行くとは……」
「とっても楽しかったじゃない、全部、最後まで」
「確かに楽しかったですけど、やっぱり、サーヴァントの体力についていくのは難しかったですね……」

昼食の後、テンションを上げに上げた上でちょっと魔力強化(ズル)もして一緒に回ったのだが、やっぱり疲れて観覧車の中でこのざまである。あ、コーヒーカップだけは全力で懇願してやめてもらった。もう一回あれをやったら間違いなく吐いて倒れる。目が覚めたらマルガの膝枕で視界にお胸様とか起こりそうだ。あれ、むしろありだったんじゃないか?
……いや、デートとしては失敗になっただろうし大丈夫、これであってる。でもそれはそれとして膝枕をするならホットパンツかミニスカでお願いします。
いや違う、だからそうじゃない。

「はぁ……まあ、いい景色だし、最後はこうでもいいんじゃないですか?」
「ええ、そうね。日が沈んでいって、夕焼けに染まった景色は、とってもきれい」

正直これ以上絶叫系に乗れないから頑張って説得した面はあるんだけど、夕焼けの観覧車って想像以上に素晴らしい景色でびっくりしてる。まさかここまでとは思ってなかったよ。

「見下ろす街中がどこもかしこも茜色に染まっていて、キラキラ輝いて見えるわね」
「とってもロマンチックな上にとってもリーズナブルですなぁ」
「こーら、デートの最中にそんなロマンの欠片もないことを言わないの」

叱られてしまったので、気を付けることにする。確かに女性と二人きりで言う話題ではなかったかもしれない。

「……ありがとう、カズヤ」

と、今後のために経験値を重ねていたら唐突にお礼を言われた。

「どうしたのさ、急に」
「カズヤのおかげで、私今、とっても楽しいもの」
「今回の件については、俺のわがままから始まったと思うんだけど」
「それでも、本当に、楽しいの」

その言葉と共に向けられた笑みが、夕焼けに映えて美しくて。
俺は、視線を逸らすことができなかった。

「……俺は、聖杯への願いの可能性を奪っちゃったかな、って思ってたんだけど」
「そんなことはないわ。確かに、聖杯へ願いを託す機会は失われてしまったけど、元々無理だろうとは思っていたし、それに……半分くらい、願いがかなったようなものだもの」

この状況が、半分くらい願いの叶った状況である、と。それが本心からなのか、お世辞なのかはわからない。そも、英雄の願いがこんなことで叶うとは思えないんだけど……それでも、そう思っていても。
何故か、その言葉を信じることができた。

「……だったら、良かったよ。俺なんかで役に立てたってなると、すっごくうれしい」

自然と、そんな言葉が漏れた。そして、続く言葉も。

「いつか、終わりが来ることではあるんだけどさ。それでも、最後の瞬間まで、一緒に楽しもう」
「あら、そんな約束をしてもいいのかしら?これは聖杯戦争、本当に何が起こるか分からないのよ?」
「だとしても……ううん、だからこそ、だよ。だからこそ、約束」
「そう。じゃあ……」

と、マルガが体を乗り出して、こちらへ手を伸ばす。ただ伸ばしたのではなく、小指だけを立てた、ちょっと特殊な形で。

「約束、してくれる?」
「もちろん」

その指の形は知っている。同じ形を作って伸ばし、小指同士を絡めた。合図もなく決まり文句を告げて、それから小指同士が離れるのが、ちょっと寂しく感じる。

「……ありがとね、マルガ」

今朝見た夢のことは、まだ忘れていないけど。それでも、もう気にならない。

「あら、なんでカズヤがお礼を言うのかしら?」
「なんとなく、言いたくなったから」

と、そういって。二人で顔を見合わせて、同時に吹きだして、一緒に笑う。声を出して、ちょっと目尻に涙がたまるくらい、しっかり笑った。



 ☆



二人がそうしている間に観覧車は一周を終え、キャストに変な目で見られながら観覧車を降りる。閉園間近、最後にと乗ったためにこれ以上園内で何かできるはずもなく、つかず離れず、これまでのマタ・ハリが腕を組んでいた時と比べれば距離が開いた、しかし心的距離は縮まった二人が、そのまま道を行く。

既に日は沈んでいる。後はこのまま駅に向かい電車に乗って帰るだけなのだが、酷く遠いわけではないために、二人は歩いて帰るという選択肢を取った。
深い理由はない。ただ、まだ今日という日を終えたくなかっただけ。ギリギリまでその余韻に浸るために、なにか語らうわけでもなく、ただ歩いていた。

既に、語ることは終えた。一緒にいるだけで最大に幸福というわけではなく、しかし無言が苦しくないような、そんな心地の良い距離感。そろって抱くのは、明日以降への羨望。

男は、一日家でのんびりして、またどこかへ行こうと考える。
女は、生前得られなかった全てに感謝し、希望を抱いている。

さあ、次はどこに行こうか。体を動かしたいならボウリングとか?と。そう伝えようとしたところで……しかし、運命(Fate)はそれを許さなかった。

忘れてはならない。これは、日常ではない。
忘れてはならない。ここに、平和などない。
忘れてはならない。相手は、こちらの都合など考慮しない。
忘れてはならない。運命は、希望の欠片をこそ蹂躙する。
忘れてはならない。これは、ここは―――――――







「よう、お二人さん。サーヴァントとマスターであってるよな?」







今、行われているのは。人間と英霊の欲望が入り混じる、聖杯戦争なのだと。
 
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