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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百十六話 長崎の街その十五

「実際に」
「愛していましたが」
「自分だけが愛していた」
「弄ばれたと言えるでしょうか」
 結果としてだ、少なくとも相手の中尉、ピンカートン氏は深くは考えていなかった。劇中でも軽薄な人物として描かれている。悪意の人物ではないにしても。
「結果として」
「そして誇りを以てですね」
「自決しました」
 武家の娘らしくだ。
「そうなりました」
「そうでしたね」
「蝶々さんは奇麗な人です」
 劇で蝶々さんがピンカートン中尉、そして二人の間の子供と共に暮らしていたその場所を観ながらだ、早百合さんは僕に話してくれた。
「お心が」
「本当にそうですね」
 僕もこう答えた。
「誰よりも何よりも」
「純粋で芯が強くて」
「素晴らしい方です」
「何ていいますか」
 僕はふとこんなことも言った。
「プッチーニってそうですよね」
「あの人の作品の女性はですね」
「奇麗な心の人が多いですね」
「確かにそうですね」
「ミミもそうですし」
 代表作ラ=ボエームのヒロインだ。パリでお針子を営んでいるが胸を病んでいて最期に世を去ってしまう。
「トスカも」
「歌姫ですね」
「あの人もミニーもリューも」
 それぞれトスカ、西部の娘、トゥーランドットに出て来る。どの作品も学園の歌劇場で観た。今の劇場の責任者の人がプッチーニ好きらしい。
「皆そうですね」
「決して高貴な立場ではないですが」
「はい、どの人も」
 蝶々さんにしても同じだ、芸者さんだった。
「そうでしたね」
「ですがそれでもです」
「どの人もお心が奇麗で」
「素晴らしいです」
 そうだとだ、早百合さんは僕に答えてくれた。
「ですから私もどの方も好きです」
「プッチーニの」
「そうです」
 まさにというのだ。
「好きです」
「だから蝶々さんも好きで」
「時々でも曲を聴いています」
「そうだったんですね」
「実は他の曲も聴いています」
 プッチーニのそれをというのだ。
「トスカ、西部の娘、トゥーランドットも」
「ラ=ボエームもですね」
「はい、全て」
「早百合さんもプッチーニがお好きなんですね」
「そうです、ですが問題がありまして」
「問題?」
「どの作品も歌劇なので」
 そのジャンルだからだというのだ、同じクラシックでもだ。 
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