八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百十六話 長崎の街その十一
「簡単に言うと」
「そうなのね」
「もっと言うとだ」
「もっと?」
「絶望の様に黒く地獄の様に熱くてな」
「恋の様に甘く天使の様にかぐわしいよね」
「そうしたものだ」
タレーランの言葉も出ていた、フーシェと一緒にあのナポレオンを失脚に追い込んだいい意味でも悪い意味でも怪物みたいな政治家だ。こんな政治家が日本にいたらとも思うけれどいたらいたで怖いと思う。それも二人共だ。
「そこまでわかるにはな」
「大人にならないとなのね」
「わからないからな」
だからだというのだ。
「わかってよかったな」
「そうなるのね」
「御前もな」
笑って裕子さんに言っていた。
「まあ今は美味い位か」
「ええ、ちょっとね」
「黒さと熱さはわかるな」
「かぐわしさもね」
天使のそれもとだ、裕子さんは答えた。けれど三番目になるそれについては。
「甘いものなの」
「ああ、そうだ」
コーヒーはというのだ。
「そうなんだ」
「お砂糖を入れて?」
「違うな、砂糖を入れなくてもだ」
「甘いの」
「そうだ」
見ればこのお店のお砂糖は白砂糖だけじゃなくて黒砂糖も置いている、そこまでこだわっているということか。
「それでもな」
「お砂糖を入れなくても」
「甘いものと一緒に食べているな」
「今みたいに」
「それだ」
まさにという言葉だった。
「甘いというのはな」
「お砂糖を入れるだけじゃなくて」
「そこからも味わえるんだ」
「そうなのね」
「ああ、勉強になるな」
「ええ、確かにね」
裕子さんはお父さんに砕けた口調のまま話した。
「コーヒーの甘さはお砂糖を入れるだけじゃないの」
「甘いものと一緒に口にしてもだ」
「甘さを楽しめるから」
「そういうこともある」
「そうなのね」
裕子さんは納得した顔で頷いた、そして。
お客さんが来た、それも次々とだ。それで裕子さんのご両親も僕達とのお話を止めてそのうえでだった。
僕達は普通のお客さんになってカステラと紅茶を楽しんだ、皆食べ終わってからお勘定を払ってお店を出た。
そしてここでだ、早百合さんが裕子さんにこう尋ねた。
「喫茶店のお話ですが」
「何でしょうか」
お互いに本来の口調でお話をしていた、グラバー園がある丘に向かいながら。
ページ上へ戻る