終末なにしてますか?忙しいですか?救ってもらっていいですか?赤き英雄
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太陽の傾いたこの世界で
走る黒猫と灰色の少女
「どこの浮遊島から来たのかは知らねぇが、このへんはあまり徴無しの居心地ちのいい場所じゃねぇ。さっさと用件を済ませて帰りな。
港湾区画は向こうのほうだ」
道の彼方のほうを指し示して、
「治安が不安なら、引っ張ってってやろうか?」
「えと、その、そういうわけじゃない、けど」
カイトはそれなりに背が高くて、少女は小柄で、ついでにいまそこに載せたばかりの帽子のつばは大きくて、つまるところ少女の表情はあまりよく見えない。変装としては完璧だが、互いの顔が見えないのでは、いまこの場におけるコミュニケーションには少々の問題がある。
「徴無しなの?」
「まあそんな感じだな」
フードの下で、うなずく。
「なんで徴無しが獣人の街にいるの? ここって浮遊大陸群(レグレ・エレ)西南部で一番風当たりが強い浮遊島なんでしょう?」
「知り合いいるからかな……むしろ、それを知っているお前は何でここに来た?」
「それは……その」
口ごもる。
そこで黙り込まれると、まるで自分が責めているかのような気になってしまう。聞こえないように小さく舌を打つと、「こっちだ」と先に歩き出す。
少女は、ついてこない。
「どうした、置いていくぞ?」
「あ、あのっ」
表情を半分帽子に隠したまま、少女は必死な声で、
「いろいろしてくれて、ありがとう。
それと、いろいろ迷惑をかけたこととか、ごめんなさい。
それから、その、こういうのって言えた立場じゃないとは思うんだけど、えと、」
「……あー」
がり、と頭を掻く。
「行きたいところがある、とかか?言ってみろ」
少女の表情が輝いたと思う。下半分しか見えないから、よくわからない。
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