グランドソード~巨剣使いの青年~
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最終章
1節―超常決戦―
あらゆる神話、あらゆる逸話
――決着は一瞬でつく。
「あぁ、私の負けだ」
手に持つ”最果ての輝き”が儚げに砕け散るのを、ルシファーは見つめながら負けを認める。
剣の強さは同じだった。
何か決定的な差があったのだとしたら、それは”所有者”だろう。
ルシファーは溢れ落としながら、そして手に残った僅かな力をかき集めて放った。
ソウヤは努力し続け、その力の積み重ねをただ放った。
きっと、それだけの差。
「……ソウヤ、君の勝ちだ。誇るが良い、神を除き最も高みに上り詰めた私を倒したことを」
最上位の天使を打ち砕き、最上位の闇を打ち砕き、最上位の剣を打ち砕いた。
あらゆる試練を乗り越え今ここに、ソウヤは至る。
「――約束だ、ルシファー。“良いこと”を教えろ」
「あぁ、良いだろう。君にはその“資格”が……いや、“希望”がある」
敵であるはずのソウヤを、今ルシファーは何といったのか。
“希望”と、そう言ったのか。
まさかそんな風に言われると思っていなかったため、ソウヤは多少なりとも驚く。
ルシファーはソウヤが驚くのを見て、「当然だろう」と微笑んだ。
「私の力は『円卓の騎士』、その12人の力を天使として昇華させることで封印された。だから私は“知っている”んだ、当時の地球の記録を」
「――――」
確かに可笑しいところはない。
きっとルシファーに流れ込んだのは、力に引っ付いていた記憶の残留。
そうして、ようやくソウヤは気付く。
ルシファーを彩る表情が、あまりに“人間臭い”ことに。
「記憶を見たからか、私はいつの間にか人を……生命を愛するようになった」
記憶にあったのは、常に明るく笑う民たち。
記憶に存在するは、敬い敬われる騎士たち。
記憶にこびり付く、前を見続ける騎士の王。
記憶に残ったのは、血に濡れ続けた戦場跡。
人は、生命は時に明るく、時に尊く、時に正しく、時に醜い。
その1つ1つは確かに意志を持って存在して、決して上位の存在が穢してはならないものだった。
――玩具にすることなど、あってはならなかった。
「だから私は君に“希望”を見る。記憶にこびり付く、“王”に君は良く似ているから」
アーサー王は常に前を見て、常に人が死ぬのを怒り、常に強く生きる人々を護ってきた。
ソウヤは常に後ろを振り向かず、常に人が生きることを肯定し、常に弱き人々を護ってきた。
確かに2人は全然違うだろう。
アーサー王は王であり、ソウヤは戦士。
それでも彼らは同じところを目指し、同じところを夢見ていた。
「君が私に立ち向かうことで、あらゆる神話やあらゆる逸話の武器と刃を交わすことで、君が大きく成長することを私は望んでいた」
―あぁ、確かにルシファーとの戦いは俺を成長させた。
ステータスを見なくても解かる。
今、ソウヤを取り巻く力は先ほどよりも膨れ上がっていることに。
熾天使と戦ってもその先へ進むことが無かったソウヤは、今ルシファーとの戦いによって大きく脚を進めた。
「私が出来る最大限は、君の成長と君に知識を植え付けることだけだ」
「知識……?」
どうして今になって知識が必要となるのか、ソウヤには分からない。
ウィレスクラはもう手の届く範囲に居て、奴を倒せば全てが元通りになる……そうではなかったのか。
「分からなくても良い、ただ記憶の底に置いていて欲しい。必ず君の、力になるはずだ」
そう言ってルシファーはソウヤの頭に手を乗せ、何かを流し込む。
―血、剣、盾、槍、弓、矢……光?
脳裏に焼き付くのは、円卓の騎士が体験したであろう戦いの軌跡。
血が流れ、剣と盾がぶつかり合い、槍によって人が貫かれ、弓から放たれた矢によって人が死ぬ。
ソウヤにとってそれは想像し得る“昔の戦い”ではあったが、“別の何か”が在った。
飛び交う光。
爆発する光。
貫いてく光。
癒しゆく光。
絶望と希望の光が、戦場を飛び交っていた。
光は燃え、光は流れ、光を踏み、光は飛び、光は固く、光は創る。
あらゆる場所に炎が燃え、水が流れ、土が盛り、風が舞い、鋼が在り、木が生まれる。
―これは、一体。まるで……。
ふと、光景が消えソウヤの意識が本来あるべき場所に戻った。
先ほどの戦い、特に光が何だったのか……戻ってきたソウヤの脳裏にはそればかりが溢れている。
「神話も、逸話も君の世界には“存在した”」
「――――」
「30に増える槍が在り、血を吸うまで鞘に戻らない剣が在り、自我で動く剣が在り――」
けれどあの魔の武器たちは、性能的に片足を近衛剣に突っ込んでいると言っていい。
ならば何故、神話や逸話では“魔力”などを持たない人間が持てたのか。
使用者が自身に釣り合わない武器……しかも近衛剣レベルを使うことは、イコール使用者の死に繋がる。
使われるのを武器が嫌がり、使用者を拒絶してしまうからだ。
その際にあふれ出る力に生半端な使用者では耐え切れず、そのまま死に至ってしまう。
普通に考えるならば、強くはなりにくい筈の人間が魔剣や魔槍を扱うことなど不可能に近いはず。
最果ての輝きに限っては、他の世界でも“鎖”が邪魔で扱うことは無理だろう。
―唯一、在り得るとするなら“人間が持ちえるだけの力があった”と言うことになる。
それに神話も、逸話も存在したのなら竜はどうなる?
幻想の中に描かれている竜や龍、ユニコーンは存在したというのか。
一振りで海を裂き、地を割る……そんな芸当が出来ていたというのか!
「――そして、君の世界の誰もが知る“エクスカリバー”さえ存在した」
「誰が、扱えるんだ」
人間は“鎖”が無い分、魔力を持たない。
だからこそ誰も強くは成り得なかったし、確かにソウヤの記憶にある元の世界と妖精の世界との戦闘レベルの差は凄まじかった。
今、その根底をルシファーによって崩されつつある。
「昔の人間だ、少なくとも昔の人間には魔剣や魔槍、そしてエクスカリバーを扱うだけの力が在った」
可笑しい、とソウヤは思う。
在り得ない、とソウヤは憤慨する。
信じられない、とソウヤは動揺する。
だって、ルシファーの話が本当ならアルティマースの言っていたことが嘘になる。
ソウヤの目にはアルティマースの想いは、確かに存在した。
疑うなんて端から在り得ない。
―けれど、アルティマースが言っていたことが嘘ならどうなる……?
そこまで強く成りえてしまうのなら、神をも脅かす存在になりかねない。
“鎖”が無いのだから際限なく強くなれる訳だし、エクスカリバーを持てるほどの人間が居たのだから可笑しくなかった。
考えがまとまらないソウヤに、ルシファーは口元を緩め溜め息をつく。
「今、君がすることは何だ?そうやって考え続けることか?」
「……違う、よな」
ソウヤ自身、泥沼にハマっていることを自覚していたのか、ルシファーの問いに即座に答えた。
顔を上げてソウヤは改めてルシファーを見る。
闇が強すぎるが為に天上に上り詰めた天使。
闇が強すぎるが為に人間を愛している天使。
醜くも美しく、そして正しく“生命”であった天使に、ソウヤは1つだけ言いたいことがあった。
「安心しろよ」
「――――」
お前が愛する人間は、人は、生命はここまで来られるのだと。
お前が愛する生命は神でさえ、打ち破ることが出来るのだと。
お前が敬う神様なんかに、俺たち生命は負ける訳ないのだと。
全身全霊の笑顔で、不敵な笑みで、調子付いて嗤ってソウヤはルシファーにそう告げる。
「それじゃあな、ルシファー」
告げるだけ告げて、ソウヤはルシファーの横を通り奥へ進んでいく。
その後ろ姿を見ることなく、ルシファーもまたソウヤと反対方向へ歩み始めた。
「君は、本当に“彼”に良く似ている」
―全てを救おうとする、救世主を目指すところがな。
闇を宿す天上の天使は願う、ソウヤが理不尽な卓上を引っ繰り返すことを。
後書き
最終章1節 ―超常決戦― 閉幕
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