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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
1節―超常決戦―
  堕ちた果ての輝き

「これで、残り二翼ッ!」

 ソウヤはこちらを追尾し続ける魔剣を、強引に雪無で砕く。
 すでにルシファーの黄金の翼は二翼を残すのみで、あらゆる魔剣、魔槍、魔杖で追い詰めようとしていた天使は笑った。

「……お見事、流石は世界神を殺そうとしている生命、か」

 あらゆる魔剣をも打ち砕き、すでに“武器”としての極致に至っている雪無を片手に、ソウヤはルシファーへと油断なく構える。

 ―使わせまいと突撃してこなくなったな。それだけ学んだということか……。

 何度かルシファーの翼を使わせまいと武器を対処したのち突撃したソウヤだったが、1度逆に誘い出されてからはしていない。
 同じ戦闘の中で、いつまでも成長し続けるソウヤの存在にルシファーは寒気を感じる。

 油断していないからこそ、常に成長し続けているのだ。
 相手の攻撃手段や対処方法を逐一確認し、その動きの細部まで頭の中に叩き込む。
 そうすることで、2度と同じ手が通用しないよう予防している。

 ―……あまりに戦闘方法が分からない相手の対処が、上手すぎだ。

 それだけ、様々なパターンの強敵と相対してきたことはルシファーにも否応なく分かった。
 だからこそ、見える“希望”。

「――第十一翼、第十二翼……展開」

 ルシファーが最後の十一翼と十二翼を引き千切り、全ての翼が漆黒に染まる。
 天使の両手に姿を現したのは、一見ただの鋼の剣と杖にも見える剣。

「“破滅導く害なす剣(レーヴァテイン)”」

 左手に持つ剣は、柄の部分が異常に長くその柄先には宝玉が埋め込まれていた。
 そして刀身全体に埋め込まれたルーン文字。

「“堕ちた選定の剣(グラム)”」

 あぁ、何故ただの剣と思ってしまったのだろう、とソウヤは思う。
 あの剣こそ全ての魔剣の終局点であり、全ての魔剣の始局点。
 始まりの剣であり、終わりの剣であり、最果ての名に相応しい剣だった。

「――とんでもないのを出してきたな」
「とっておきだ」

 右手にグラム、左手にレーヴァテインを手にルシファーはソウヤへ接近する。
 その両方もが魔剣の中でも最高位に属する者であり、かすり傷を入れられることすら危うい。

 振るわれたレーヴァテインをソウヤは雪無で防ぐとすぐさま、突き出されるグラムにストレージから取り出した薙沙で対処する。
 グラムは“FTW”でいうところの王剣に属するので、ただの将軍剣である薙沙が耐えきれるはずも無く、無残に砕け散った。

 ―すまない、薙沙。

 砕ける刀身を見ながらソウヤは心の中で薙沙に謝ると、一瞬で来た隙を突いて力任せに雪無を振るう。
 圧倒的馬鹿力で吹き飛ばされたルシファーは、この世界でただ確かに存在する“地面”に脚を擦り付けて衝撃を殺した。

「……確かに最初は防がれた、なら次はどう防ぐつもりだ?」

 ただ1度、接近しただけで対処にこの始末。
 巨剣である雪無はその巨大さ故に器用に扱うことが至難の業だ。
 だから手数で迫れた場合、ソウヤは圧倒的不利に陥る。

 ―今ルシファーが持っているのはグラムとレーヴァテイン。先ほどのようには行かない……!

 第三、第四、第五翼を使った時、同時に3刀相手にしたときは雪無の全力の一振りで吹き飛ばすことができた。
 自立して動く、という能力故か耐久値が低かったのが幸いしその時は一撃で自立して動く剣は壊れた。

 だが、今ルシファーが持つ2振りの剣はどう考えても雪無の一撃で対処できるようなものではない。

 ―なら、無理矢理増やすまで……!

 ソウヤがストレージから取り出したのは、『黒鏡破』。
 中級魔剣という、圧倒的に武器としての能力が足りていない武器を今……ソウヤは取り出した。

 ―今俺に必要なのは手数のみ、武器の能力は必要としていない。

 雪無を片手剣ほどに短くし、右手に雪無、左手に黒鏡破を持ち二刀流にする。
 武器としての能力が低ければ薙沙のように簡単に壊れてしまうが、唯一黒鏡破だけは破壊されることは無い。
 中級魔剣としては破格の能力……『不壊』の能力を黒鏡破は持っているのだから。

 先ほどより、遅めの速度でルシファーに近づいたソウヤは黒鏡破を振るう。
 武器の性能を無理矢理ステータスで底上げした攻撃力が、天使に向かって突き進んだ。

 その攻撃をグラムでルシファーは防ぐと、レーヴァテインをソウヤに向けて突き出そうと腕を伸ばす。
 普通の剣ではありえない柄を活かし、まるで槍のように突かれた刃をソウヤは顔を少し横に傾けることで回避した。

 振るわれるが雪無の刃。
 けれどその攻撃を予想していたルシファーは、大きく体を仰け反らせることで回避し――

「……!?」

 ――気付く。

 振るわれた雪無の刃は決してルシファーを狙ったものではなく、“グラムを狙ったもの”だと。
 儚い音がして、無残にもグラムは砕け散る。

 ―やはり、耐久値が異常に低いのは変わらずかッ!

 近衛剣、または王剣を幾つも所持していると言っても過言ではないルシファーの能力だが、それでも短所はあった。
 1つ1つの性能が高すぎるが故に、耐久値が普通の武器よりも低かったのである。
 だから雪無の一振りで壊すことができた。

 けれど、それで終わるルシファーではない。

「ぐっ……!!」

 腹がえぐられる感触がして、ソウヤは地面を大きく滑る。
 仰け反る態勢を利用し、そのままソウヤに蹴りを放ったのだ。

「ラスト、一翼」

 口から流れる血を腕で拭いてソウヤは笑う。
 この流れからして、もうソウヤの勝ちは確定したと思っていた――

「まだだ」

 ――儚い音を立てて砕け散るレーヴァテインを見るまでは。

 自らの最後の武器を、“自ら破壊した”ルシファーはソウヤに笑いかける。

「まさか、これで終わるとでも?」
「――――」

 ルシファーの翼は全て漆黒に堕ち、堕ちた先で得た力も全て失った。
 ならば、この先に何があるというのか。
 堕ちた果てには、何があるというのか。

「君に見せると言ったじゃないか」

 全て見せたはずだ。
 堕ちていく過程を、堕ちた故の闇を。
 それでも、まだ在るというのか。

 ――堕ちた先にも、何かあるというのか。

「私が見せるのは“最果て”だよ」

 そう言ってルシファーは両手を天に掲げる。
 いや、違う。
 あれは天に掲げているのではなく、“剣を握っている”のだ。

第十二翼(ガレス)第十一翼(ギャラハット)第十翼(パーシヴァル)第九翼(カドール)第八翼(エレック)第七翼(トリスタン)、復元」
「――――」

 ルシファーが持つ十二翼。
 それが黄金を発していたのは、何故だったのか。
 ――ようやく、ソウヤはその理由を理解する。

第六翼(モルドレッド)第五翼(ヴェディヴィエール)第四翼(マーリン)第三翼(ランスロット)第二翼(ガウェイン)、復元」
「円卓の……騎士」

 円卓の騎士、それは12人だという文献がある。
 それが本当ならば、それが間違っていないのならば、黄金の数だけ騎士がいたのなら。
 今、ソウヤが行ったことは“封印を解く”こと。

 枷を外していたのだ。

「お前は、ルシファーじゃないのかッ!」
「そうだ、私はルシファーであり……天使の冠位は全て円卓の騎士のもの」

 理想郷を目指した騎士たち、そしてその王。
 確かに、天使としての輝きとするのならば円卓の騎士ほど得やすいものはない。

 ルシファーの宿す闇を封じるため、捧げられた天使の冠位が円卓の騎士。
 そして今、その天使の冠位をソウヤが全て破壊した。
 ――ルシファーの宿した闇をソウヤが全て破壊した。

 ならば、その輝きが集結したのならばその光が宿すのは――

第一翼(アーサー)、復元、認証、集結、構造、創造……完了」
「――“アーサー王の剣”!!」

 今、長い闇を縛り続けた光が姿を現す。
 それは最もソウヤの住む世界で有名だった物語の剣。
 聖剣の代名詞であり、元の世界で最強と謳われる伝説の剣。

「顕現せよ、“最果ての輝き(エクスカリバー)”」

 アーサー王がその手に持つ限り、彼に敗北は無く彼に死はない。
 彼以外が使えるはずもない黄金の輝きが今……ルシファーの手によって甦る。

「私の力不足でな、振るえるのはたった一撃のみだ」

 そう言って、ルシファーはエクスカリバーを上段に構えた。
 彼は誘っているのだろう、彼は煽っているのだろう。
 この光に屈するのか、この光に対抗しようと思わないのか……と。

「――挑むのか?王剣からも外れ、神剣に片足踏み込んでいる聖剣に」
「――当然だろう、それにすら負けたら俺は神に挑めない」

 黒鏡破をストレージに仕舞い、ソウヤは雪無を巨剣化する。
 振るえるのが一撃のみならばソウヤも一撃に全力を込めるのみだ。

「“肉体強化”“亡霊解放・Ⅱ(エレメンタルバースト・セカンド)”」

 ギリギリまでステータスを増加させて、ソウヤは雪無を構える。
 あとは振るうのを待つだけだ。

「行くぞ、“ソウヤ”」
「あぁ来い、“ルシファー”」

 そうして、初めて両者は互いを名前で言い合う。
 互いに認め合い、互いに競い合い、互いに殺し合うに値する者だと理解したからだ。

「――――ッ!」
「――――ッ!」

 始まりは唐突に、その全力の一振り同士はぶつかり合い―― 
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