Re:ゼロから始める士郎の生活
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四話 迷子の子猫ちゃん
前書き
士郎らしくない士郎。書いててそれもアリだと思い始めた。読んでる最中、「これ……士郎じゃなくね?」と思われても仕方ない。だって、書いてる本人ですら「あれ?……これ、士郎じゃなくね?」と悟ってしまったのだから。
ここは、何処?
気付けば、フェルトとシロウは居なくなっていた。少し、ほんのちょっとよそ見をしていたら見失ってしまった。
「これって……私、迷子なのかな?」
エミリアは周囲を見渡し呟いた。
周りは似たような建物ばかりで、元の道に戻ろうにも何処から来て、どうやってここまで来たのか解らない。
なら、進んでみようか?
とエミリアは勇気を出し前進しようと試みるが。
「どうしよ……どっちに進めばいいの?」
目の前には二本の別れ道。
右と左に別れており、どっちに進もうか悩まされる。
エミリアは「うーん」と数秒悩み。
「よし、こっちにしよっと」
左の別れ道を進んだ。
そして、左の別れ道を進むと、またもや二本の別れ道。エミリアはまたもや悩まされる。
「さっきは左に進んだから……今度は右かな?」
っとなんとなくの直感でエミリアは右の別れ道を選択し進んだ。
*ここで左を選択していればフェルトと士郎に追いつけていた*
進めど進めど景色は変わらず、相変わらず、同じで道を歩かされているみたいな感覚。でも、ちょっと楽しいかも。とエミリアは思っていた。
貧民街の街並みは似たような通り道が多く、初めて訪れた者は必ず迷うように作られている。
その理由は単純で、迷ってしまった人を恐喝する為だ。
手口は簡単「ここから出たけりゃ、手持ちの金と食いモン全部、置いていきな」と脅迫し無理矢理、お金と食糧を提供させてもらう。そうすることで、貧民街の一部の住民は生計を立てている。
ということは。
「ニッヒヒニヒ」
エミリアのその標的になることは必然的に決まっていた。
突然、エミリアの周りを囲むように四人の男が現れた。
四人の男達全員はマントで全身を覆っていて顔は見えない。だが、鍛え抜かれた筋肉と生々しい傷跡、それに手に持ったナイフを見てエミリアはこの状況は異常だと判断した。
「貴方達、私に何か用?」
エミリアは声のトーンを落とし、四人の男達を警戒する。
「うぉ、今回の獲物は上物じゃん♪」
「へへっ。久しぶりの女だな」
「あの身なりは相当、上物だぁ。こりゃあ高く売れるぜぇ」
「早く、やっちまおうぜ。オイラ、我慢の限界だよぉ」
男達はエミリアを見て下衆な笑みを浮かべる。
「そこをどいて、」
「ァっ?」
「聴こえなかったの?
そこをどいて、」
エミリアは目の前の男を睨み付ける。すると男の足は数歩ずつ引いていった。
「ありぃ?」
男は自然と引く、自分の足を見て変な声を出す。
「なーに、ビビってんだよ」
「い、いや。足が勝手に、」
「ガタガタ震えてんじゃん」
「ち、違う。足が、勝手に!?」
「冗談は顔だけにしとけよ」
「いや、ホントだって!?」
そして、男はその場に倒れた。
「ギャハハっ。ダセェの!」
「んなので、ビビんなよ」
「つっかえねぇな」
三人の男達は一人の男を罵倒する。
倒れた男は立ち上がろうと必死になるが、足がガクガクと震えており、まともに立つことすら出来なかった。
エミリアは「はぁ、」と溜め息を付き、前に進んだ。
「なぁに、勝手に進もうとしてんだよ」
一人の男はナイフを前に突き付け、エミリアの進行を邪魔する。
その時だった。
男の足は止まった。
「は?」
男は動かなくなった自分の足を見る。そこには普通では有り得ない現象が起きていた。
「あ、あ、あ、足が!?」
男の両足は凍っていた。
「な、は!?」
「どうなってんだ!」
「まさか、この女────」
その言葉を言い終える前に、男達全員は凍り付いた。
死んではいない。身体の表面を凍らせただけだ。一時間もすれば自由になるだろう。だが、その間は体全身は氷で覆われ、動くことも話す事も出来ない。
ちょっかいを出してきた男達の罰だ。
「大丈夫、氷は直に溶けるから」
エミリアはそう言い残し、この場を去った。
何事も無かったように。ただ、道に迷った迷子の子猫のように。
数分後。
「うわぁ。なんだ、これ?」
目の前には凍り付いた男達のオブジェクト。触れてみると氷は異様なほど冷たく、俺はすぐに手を離した。
「生きてる、よな?」
凍り付いた男達の目を見ると眼球は動いている。ということは生きているのだろうか?
試しに、凍った男の目元近くに指を出し、それをくるくると動かした。丸い円を作り、それを何回も繰り返すと。
男の目は俺の指の動きを追っていた。
どうやら生きているようだ。
「こりゃ……どうなってんだ?」
「魔法、だよな?」
「生きてる、よな?」
俺の背後で、ビクビクと震えている三人の男達。
この驚きようだと、この現象はこの世界でも珍しい分類に入っているという事だろう。
「こういうって珍しいの?」
「はッ?お前、これ見てコレを普通だと思えんのか?」
「いや、思えないけどさ」
凍り付いた四人の男達、それも生きたまま。
どうすれば、こんな事が出来るようになるのだろうか。これも、この世界特有の魔法による現象なのか?
恐らく、そうなんだろうけど……この男達はなんで凍り付いたのか?
「うーん……よっし、コイツら本人に聞いてみよう」
「「「は?」」」
間抜けた三人の男達の声。そういえば、名前を聞いてなかったな。後で聞いとかないと。
────トレース・オン。
対の双剣を頭の中でイメージし、それを具現化する。
「まぁ、こんなものかな」
俺の手元には二本の剣が握られていた。
「お、お前……その剣……どっから?」
「オメェ……もしかして、魔道士か?」
「それとも……手品師?」
投影魔術の一部始終を見ていた男達の反応は何とも言えないものだった。
「どれも外れ。俺は、魔道士?じゃない。普通の流れ者だよ」
「普通の……流れ者?」
「普通の流れ者が……こんなの出来る訳ねぇだろ」
「うさんくせぇー」
「うるさい。俺は、普通の流れ者。お前等はその普通の流れ者に雇われた案内人、それでいいだろ?」
そう言うと三人の男達は黙り込んだ。余計な詮索はするな、という意味を理解してくれたらしい。
「じゃ、まずはこの人からっと」
凍り付いた男を二本の剣で斬り裂いた。
氷はパキパキっと砕け、自由を取り戻した男は「た、助かったァ……」と言いながら倒れ込んだ。
よし、この調子でどんどんやっていこう。
……。
………。
……。
男達は震えていた。
まぁ、氷漬けにされてたんだ。当然と言えば当然か。
「大丈夫か?」
「ぁぁ……助けて、くれて、あっ、りが、とう」
ガクガクと震えながら、なんとか声を発する男。他の男達はガクガクと震えていて喋れない様子だった。
「何が、あったんだ?」
「お、女っ」
「女?」
「銀、髪の、女だっ。アイツが、」
銀髪の女?もしかして、いや、まさか。
「その女の人って長髪で、全身白色の服だったか?」
「ぁあ、」
これは……どうや、これをやった張本人はエミリアのようだ。
「OK解った。で、その娘はどっちに進んだ?」
男は震えながらも目の前の別れ道に指をさす。その方向は左。エミリアはこの別れ道を左に進んだという事だろう。
「ありがと。これ、冷めてるけど皆で食べてくれ」
買い物袋から大判焼きを四つ取り出し、四人の男達に手渡していく。
「教えてくれてありがとう。じゃあ、」
そう言い残し、俺は目の前の別れ道を左に進んでいく。
すると。
「お、おい」
三人の男達の内の一人は。
「なんで、コイツらを助けたんだ?」
と意味の解らない質問をしてきた。
「なんでって……普通、人が困ってたら助けるだろ」
普通の質問を普通に返すと男達は俺の顔を見て。
「コイツらは、お前の探してる知り合いを襲ったんだぜ?」
「やられて、当然だ」
「アイツらは殺されても文句は言えねぇぞ」
男達は必死になって言ってくる。
「いや、それはそうかも知れないけどさ。アレはやり過ぎだろ。あとで叱ってやらねば」
「「「……」」」
男達は黙り込んだ。
あれ。また、俺は変な事を言ったかな?
そんな変な事は言ってないと思うが……あっ。そういや、名前を聞くんだった。
「なぁ、お前達の名前を教えてくれないか?」
「名前?」
「あぁ、一緒に友達を探してくれてるお前らの名前を知らないなのは変だろ」
そう言うと男達は順番に。
「……ガストン」
「ラチンス……」
「カン……バリー」
大柄で、恐そうな顔のガストン。
細身で、ビジュアル系のラチンス。
小柄でマッシュルームヘアーのカンバリー。
よし、覚えた。
「ガストン、ラチンス、カンバリー。
俺の名前は衛宮 士郎。よろしくな」
男達は俺の名前を聞くと「エミヤシロウ?」「変な名前だな……」「どっかの貴族か?」と首を傾げた。この異世界の人は俺の名前を聞いて変な名前だと言ってくるが、こうも何度も変な名前だなと言われると流石に心が折れそうだ。
「貴族でも無ければ変な名前でもない。あと、俺の名前は衛宮・士郎だ。士郎って呼んでくれ。頼むから」
「おぉ、解った」
「シロウ、シロウ、」
「やっぱ、変な、名前だな」
変な……名前じゃない。俺は普通の名前だ。俺からすればお前らの名前の方が変だからな、と言いたい気持ちをぐっと抑え。
「はい、自己紹介終了。
道案内を頼む」
「「「逃げた」」」
「なんに逃げたんだよ!?」
こうして、俺達の距離感は最初に比べれば少し縮まった。
でも、話してて思う。価値観のズレを感じる。
コイツらにとっての当たり前は俺の常識と違う。そして、俺の当たり前はコイツらの常識には当てはまらない。なかなか共通の答えを得られないのだ。
あの氷のオブジェクトは流石に非常識と互いに認識していたが、それ以外はどうも合わない。
見慣れない身なりと、聞き慣れない言葉と名前。
それは互いに存在するし、互いに疑問に思っている。でも、それをどうやって相互理解できるか……これが悩みどころだ。
「なぁ、シロウ。さっきの剣はどっから出したんだ?」
カンバリーは俺の頭から爪先を見て言った。
「見る限りだと、隠してるようには見えねぇな」
ジーッとカンバリーは俺の顔を見つめてくる。いや、そんなに見つめられても答えは出ないぞ。
「企業秘密だ。黙秘権を行使する」
「黙秘権?」
反応からするに、黙秘権も初めて聞く言葉らしい。この調子だと人権も無さそうだ。
「要するに、応えなくないって事だ」
「えぇー。いいじゃん、教えてくれよぉ」
「駄々をこねても言わないぞ。お前にも言いたくないことがあるだろ」
「じゃあ、俺の秘密を教えたらシロウの秘密を教えてくれるか?」
「いや、なんでさ」
なんか無茶苦茶な事、言ってませんかね?
「カンバリー、あんまシロウと仲良くするんじゃあねぇ」
そう言ったのはラチンスだった。
「なんでたよ?」
「今は、ソイツは俺達を雇う形で手を組んでいるが、それが終われば赤の他人だ。赤の他人と仲良くしても得する事は何もねぇ」
「でもよぉ、」
「まぁ、いいじゃねぇかラチンス」
大柄な身体を揺らしガストンは。
「仕事が終われば赤の他人かも知れねぇが、今は雇われの身だ。雇い主と仲良くしても問題はねぇだろ」
っと何処か楽しげに言った。
「……テメェらなぁ。
チッ、勝手にしやがれ」
ラチンスはそっぽ向き、早歩きで先に進んだ。
「なぁなぁ、シロウ。あの剣もう一回見せてくれよ!」
カンバリーは無邪気な笑顔でコチラを見つめてくる。
やめろ。そういう視線は苦手だ。
「シロウ。俺からも頼む」
今度はガストンも言ってきた。
「なっ。お前も見たいのか?」
「おぉ、あんな摩訶不思議な魔法は見た事ねぇ」
「アレは魔法じゃない」
「魔法じゃねぇのか?
じゃあ、なんかの『加護』の力か?」
加護?
またしても聞き慣れない言葉だ。
「なぁ、その、さっき言ってた『加護』ってなんだ?」
そう言うとガストン、ラチンス、カンバリーは立ち止まった。
え……?まさか、これも一般常識的な感じですか?
「い、いやぁ。俺って凄く遠くの土地からここに来てさ。色々と解んないことばっかなんだよ!」
誤魔化そうと適当に言葉を並べるが。
「加護を知らない?」
「遠くからとか関係なくね?」
「えっ?加護を知らねぇ所とかあんの?」
こんな返し方をされると、どう言葉を返せばいいのか困る。
取り敢えず、加護の存在は一般常識という事は解った。だが、そんな事よりもこの状況をどうにかしないと……。そうだ!
「よしっ。じゃあ、さっきの剣を見せてやるから代わりに加護について教えてくれ!」
ガストン、ラチンス、カンバリーはそれぞれの顔を見合わせた。そして、「まぁ、いいか」という結論になり。
「こんな当たり前、教える気になんねぇが。まぁ、教えてやるよ。だが、その代わりに」
「分かった。見せてやるよ」
俺は瞬時に先程の双剣を投影し、カンバリーに差し出した。
「スゲェ……何にもねぇ所から剣を出した」
「出した……ってより、創り出したようにも見えるが、」
「どっちにしろ、スゲェーことに代わりはねぇ!スゲェよ!シロウ!」
カンバリーはとても嬉しそうに言ってくる。
そんなに凄いものでも無いんだけど、喜ばれるとなんか嬉しいな。
「大したことじゃない。俺にはこれしか出来ないから」
「これしか出来ないって……これって、結構スゲェぜ?」
「そうでもない。俺はフェイカー(贋作者)だ。偽物しか造れない。本物を創る才能は無いんだ」
俺が創り出す物は全て贋作。
本物に近い。だが、決して本物にはなれない贋作しか俺は生み出せないんだ。
「って事は、これって偽物なのか?」
「本物に近い贋作。言わば、限りなく本物に近い模造品って所かな」
本物に比べれば質は劣るが、本物を造るよりコストは抑えられるし使い勝手もいい。
だが、決して本物には勝てない。
これは絶対だ。
「へぇ……これが、偽物ねぇ」
「偽物と言っても剣は剣だ。無闇に人に向けるなよ。普通に刺さるし、普通に斬れるからな」
ヒュンヒュンと軽く素振りをしているカンバリーに忠告しておく。
「おいっ!それを早く言えよ!
あともうちょっとで、ガストンの頭をかち割ってたぞ!?」
「いや、そうなりそうと思ったから言ったんだよ」
「カンバリー!テメェな!」
「いや、シロウが言うのが遅せぇ!俺は悪くねぇ!てか、未遂で終わったんだからいいだろ!」
「シロウの忠告が無かったら俺の頭は綺麗に真っ二つだったぞ!」
ゴチャゴチャと口論するカンバリーとガストン。なんか、微笑ましい光景だ。
やっぱ、異世界でもこういう光景は見られるもんなんだな。
あと少し、遅かったら殺人事件になってたが。
「はい、次は俺の番だ。
加護について詳しく教えてくれ」
パンパンっと両手で二人の争いを止める。
カンバリーとガストンはしぶしぶ拳を収め、ラチンスは溜め息を付きながら。
「テメェら、一旦落ち着け」
「よぉし、こうなったら戦争だ!」
「テメェみてぇなチビが、俺に勝てると思ってるのか!?」
「タッパは関係ねぇ。重要なのは腕だよ!腕!」
「テメェら……」
「よっしゃ。なら、まずはお財布の中身勝負だ!」
「おおよ!」
「俺の全財産は────0!」
「俺も────0!」
なんと、虚しい勝負。見てるだけで痛々しい。ていうか、勝負の内容地味過ぎませんかね?
「はぁ、コイツらは置いといて。
加護に付いては俺から説明してやるよ」
「おぉ、なんかお前も大変そうだな」
「コイツらは俺よりも短気だからな。救いようのねぇバカだよ」
と言いつつもラチンスは笑顔だった。
「まぁ、どっから話せばいいか。すまねぇが、俺は口下手でな。分かりにきぃかも知んねぇが、そこは想像力で補ってくれ」
「え?あ、うん?」
「加護ってのは、世界から与えられる祝福だ」
「祝福?」
「詳しくは俺も知らねぇ。まぁ、加護つうのはこの世に生まれた時から持ってる能力みてぇなもんだ。その加護を持って奴の事を加護持ちって言うんだよ」
生まれた時から持ってる能力?
加護を持っている者=加護持ち?
「ちょっと待て。さっきのお前の説明からすると加護は生まれつき持ってる能力って事でいいのか?
それだと皆、加護持ちって事になるけど?」
「んっ。あぁ、悪ぃ。そういう意味じゃねぇんだ。加護ってのは生まれた時から自覚してんだよ」
……余計、解らくなってきた。
「そんなあからさまに変な顔すんなよ。俺だって一応、分かり易いに努力してるんだぜ?」
「す、すまん」
ラチンスは自分を口下手だと言っていた。その口下手を改めて理解し、ラチンスの言葉を聞く。
「加護はさっきも言ったが、世界から与えられる祝福だ。だが、その祝福は全ての人間に与えられるとは限らない」
「という事は、加護ってのは選ばれし者しか持ちえない才能って事か?」
「まぁ、そんな所だ。で、加護を持ってこの世に生まれ落ちると同時に、その加護の存在を自覚する」
「じゃあ。赤ん坊の時から、加護持ちか、そうじゃないのかは自分で解るのか?」
「俺は加護持ちじゃねぇから詳しい事は分かんねぇ。聞く話によれば、ガキンチョの頃から加護の能力と名前はある程度、理解は出来てるらしいが、使いこなせるとは限らねぇらしい」
「どういう事だ?」
「生まれた時から加護の存在を理解出来ても、その加護の使い方を知ってるとか普通有り得ねぇだろ」
「そうなのか?」
「何度も言うが、俺は加護持ちじゃねぇから詳しい事は知らねぇ。どうしても詳しく知りたいなら加護持ちに聞いてみな」
「なら聞くけど、あの二人は?」
猿みたいにじゃれあっているカンバリーとガストンを見て……いや、あの二人は持ってなさそうだな。
「見ての通り、アイツらは加護持ちじゃねぇ。あと、さっきも似たような事を言ったと思うが、加護は才能はに近い。それも一握りの者しか与えられない天性のものだ」
なんとも言えない説明で、理解出来たような?全然、解らないような複雑な心境で説明は終わってしまった。
「んん……まぁ、分かったような解らないような感じなんだけど。お前らはさっきの俺の剣を見て、加護だと思ったんだよな?」
「魔法には見えなかった。なら、加護の能力だと思った。でも、違うんだろ?」
「あぁ、加護じゃない。言うなら魔法に近いものだと思う?」
「なんで、言ってる本人が、そんな不安そうなんだよ」
ラチンスは疑問を抱いている様子だった。
なんと説明すればいいのか解らない状況で、下手に変な事を言うと余計に話がややこしくなりそうだし……どう説明すればいいのやら。と頭を悩ましていると。
「まぁ、別に詮索はしねぇよ」
そう言って、ラチンスは足を進めた。
「今のアンタは俺の雇い主だ。雇い主の事情を詮索するのは雇われの身からすればマナー違反みてぇなもんだからな。気になっても詳しく話を聞こうとは思わねぇから安心しろ」
そう言ってラチンスは「テメェらはいつまでバカやってんだ!早くしねぇと日が暮れちまうぞ!」ガストンとカンバリーの間に入り喧嘩を止める。
その後ろ姿は、ちょっとかっこよかった。そして、その三人の姿は見てて眩しかった。
「シロウも、さっさと動け。ここらは夜になると真っ暗闇で何も見えねぇぜ」
「暗闇の中での人探しはめんどいな」
「そうなる前に、探すんだよ」
三人の言う通り、夜の暗闇の中でエミリアを探すのは困難そうだ。
そうなる前にエミリアを探し出さないと。
……ん?なんか、忘れてるような。
「あっ!?」
「なんだぁ、急に変な声出して?」
「すまん。一つ忘れてた。俺達以外にエミ……アルトリアって女の子を探してる娘がいるんだ」
「アルトリア……ソイツが、シロウの探してるヤツの名前だな」
「そうそう。で、アルトリアを一緒に探してくれてる娘と約束してるんだ。見付かっても見つからなくても合流地点で落ち合うって」
色んなことがあって忘れてた。
もしかしたら、フェルトはずっとあそこで待ちづけてるかも知れない。女の子をあんな所で一人で居させるのは危険だ。
「もしかしたら、フェルトはエミリアを見付けて合流してるかも」
小声でフェルトがエミリアを見つけているかも知れない可能性を口に出す。
それなら、それでいい。でも、どっちにせよ女の子だけで居るのは────いや、大丈夫かも。
脳裏に、氷漬けになっていた男達の事を思い出す。アレがエミリアによって起きた現象なら、エミリアとフェルトは安心だよな?いや、待て待て。安心じゃない。安全じゃない。エミリアはアレを平然とやってのけたならまずいぞ。
「もしかしなくても、これは……」
そう考えると、エミリアは急速に探し出さねばならない気がしてきた。
「一旦、戻るぞ!」
急いでフェルトと約束していた場所に戻ろうと走る。だが────。
「走るのは構わねぇけどよ、シロウ。オメェはその合流地点の場所まで行けんのか?」
「……」
「解ってたら、俺達に道案内なんて頼まねぇよな」
「だな、」
「シロウって結構、バカだなぁー」
何も言い返せない。
三人の言う通りだ。慌てるな、冷静になれ。
「……落ち着け、落ち着け。大丈夫、エミリアは心優しい女の子。誰しも構わず人間を氷漬けにする野蛮人なんかじゃない。そうそう。エミリアは優しい女の子なんだ。そんな事するはずない」
「おい、シロウ?」
「なんかブツブツ言ってっけど」
「おーい、シローウ」
うん。大丈夫、エミリアはそんな事しない。だから早く、戻ろう。いや、ホントにエミリアは心優しい女の子だから氷のオブジェクトを量産しまくる野蛮人じゃないから。
「取り敢えず、戻ろう」
「何処に?」
「俺とお前達が会った場所。あそこなら約束してた合流場所に近いはずだ」
「あそこか……よし、それならこっちから行けば近道だぜ」
「いや、こっちの方が近道だろ?」
「は?ここを真っ直ぐ行ったところの別れ道から行ったほうが近けぇよ」
「どっちでもいいから早くしてくれ!」
その頃、フェルトは。
「アルトリアの姉ちゃん……一体、何処にいんだよ」
探しても探しても見付からないエミリアに必死に探し続けていた。
……。
………。
……。
「うーん。ここ、さっき通ったような」
一方、その頃のエミリアは絶賛迷子中だった。
同じ道をぐるぐると回り続け、それをループする。ある意味これは才能だ。迷子のプロとも言えるエミリアの迷子の仕方(なりかた)は単純で。
「さっきは右に進んだから今度は左にしよっと」
これの繰り返しである。
二本の別れ道を前にするとエミリアは何処と無く感で道を選ぶ。
そして、それが積み重なり本来なら有り得ない同じ道に戻り続けるを繰り返しているのだ。*ちなまみに、先程の別れ道を左に進んでいればシロウ達と合流できた。*
「まるで、迷路ね」
エミリアは笑顔でそう言った。
いや、普通はそんなに迷わないから。とシロウが居ればツッコミを入れていた所だが、ツッコミを入れる人は居ない。
「この道はさっき通った……ような。確か、その時は右だったから今度は左っと」
その選択は、この無限のループから抜け出す選択だった。
左の道を進むと、広い道に出た。大通りだろうとエミリアは判断し、周りを見渡す。
繰り返しのループは終わったが、この道は通ったことない。下手に進んだら、また迷子になってしまう。そんな不安感が、エミリアの判断を鈍らせる。
「どうしよう……戻るべきなのかな。それとも進むべきかな」
大通りは一本道なので前に進んでも迷子になる事はないだろう。それなら前に進んでみようか?
早く、決断しないと。
「周りはどんどん暗くなってるし、シロウとフェルトちゃん達はきっと迷子になった私を探そうとしてくれてる」
これ以上、迷惑は掛けられない。
エミリアは思い切って大通りを進んだ。この一本道なら迷子になることはない。それに、この大きな一本道なら迷子になった自分を探しやすいだろうとエミリアは判断した。
「二人に会ったら謝らないと」
迷惑かけてごめんね。
迷惑かけてごめんなさい。
迷子になっちゃってごめん。
どう謝ろうか、どうお詫びするべきか考える。
そんな時だった。
「なんじゃ?お主、エルフか?」
大柄な巨体、巨人族のお爺ちゃんとエミリアは出会った。
後書き
一向に進まない物語。でも、いいの。だって、書いてて楽しいから。それでも読んでくれる読者にありがとう。感想くれると嬉しいです!
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