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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第109話「夏休みが終わって」

 
前書き
細かい話の寄せ集め回。(二本立て)
...なかなか日にちを進められない...。
 

 




       =優輝side=





「....よし、全員リレーの順番は決まったな。」

「何か異存のある人はいないかな?」

 夏休みが明け、少し経った日のHR。
 今、クラスでは体育祭に向けての順番決めなどを行っていた。
 進行役は僕と司だ。...なんでも、先生に適任と言われてな。

「....ないみたいだね。」

「じゃ、これで決定だな。」

 学校に提出する順番決めの紙に、決めた通りの順番を書いていく。
 ちなみに、トップランナーが聡、アンカー手前に司、アンカーが僕だ。
 きっちり速い人を入れておいたから、異論もなかったようだ。

「次は個人種目だ。黒板に種目と参加人数を書くから、希望者がいたら書き込んでくれ。」

「種目は障害物リレー、玉入れ、大縄跳び、二人三脚だね。それぞれ得意だと思う種目に入ってくれるといいかな。」

 ありがちな種目ばかりだが、大繩以外は少し工夫があったりする。
 特に障害物は毎年ごちゃ混ぜってレベルで色々出してくるからな。
 玉入れの場合は籠を誰かが背負うという形にして、入れにくくしてある。

「それぞれ24人、11人、12人、12人の参加だ。玉入れは他クラスの籠背負いが1人と入れるのが10人、大繩は回す係2人、飛ぶのが10人といつも通りだ。障害物は3人で一組の計8組の参加になっている。二人三脚は男女6人ずつだ。全員、どれか一つには出てもらうからなー。」

「それじゃあ、まずは希望者から募るね。少し時間を取るから自由にね。」

 司がそういうと、皆が黒板の方に集まってくる。
 ここでよく希望されるのは玉入れだ。...まぁ、恒例だな。
 で、一部はそれを見越して大縄跳びに書いていたりする。仲がいい女子グループとかはそこに書いているのが多いな。

「...案の定、玉入れが溢れるな。そして、障害物リレーが足りないと。」

「障害物が色々混ざってるからね。仕方ないと思うよ?」

 障害物には平均台やネットの定番の他に、パン食いや借り物も混ざっている。
 既に3組はできているのだが、どうにかして揃えなければな。

「そういう訳で聡、お前はこっちだ。」

「ちょっ、優輝!?そりゃないぜ!?」

「お前、運動神経いいんだから玉入れ行ってちゃ勿体ないだろ。」

 とりあえず聡を引き入れる。
 後はとりあえず玉入れから溢れる人を決めてからでいいだろう。

「玉入れの人は向こうでじゃんけんして、決まったら言いに来てくれ。」

「あぶれてしまった人には悪いけど、障害物か大繩、二人三脚に行ってね。」

 少し待っている間、聡が声を掛けてくる。

「お前なぁ...。」

「別にいいだろ。お前、以前に障害物に出た時早かっただろ?」

「だからって強制はないだろ...。」

 適材適所って奴だ。諦めるんだな。

「で、肝心の優輝はどこ入るんだよ。」

「どこって...そりゃあ...。」

「....ねぇ?」

 司と二人して苦笑いする。ここまで僕らはどこにも書いていない。
 そうなれば、必然的に余った場所に入るのであり、僕らの身体能力を生かすなら...。

「...僕らも障害物リレーに行くしかないだろ?」

「よっし、やる気出てきた。」

「おいこら。」

 現金な奴だな...。司がリレーに参加するからっていきなりやる気出しやがった。
 というか、ほとんどの男子が障害物に参加しようとしやがった。

「よっしゃ!負けて良かったぜ!」

「あ、こらずるいぞ!」

「はっはっはー!勝つのが悪いんだぜ!」

 ...じゃんけんの方もいつの間にか入れない方が喜ばれてるし。

「...さすが司。同じ種目でやろうと盛り上がってるな。」

「あはは...。」

 そして、それぞれ今度は溢れないように希望していき、全員が入った。

「よし。後は二つ目もやりたい人だ。余っているのは障害物と二人三脚だな。大繩も後二人余ってるぞー。」

 クラスの人数は40人。つまり後19人分余っている。
 障害物は男子が一気に希望してきたので後9人分。二人三脚がだいぶ空いてるな。

「息が合ってる二人組が二人三脚に来てくれると助かる。斎藤さんと瀬良さん、小田と藤堂で男女一組ずつはできてるから、後四組だ。」

「別に男女のペアでもいいよ。」

 さて、誰か参加してくれるかなっと...。...うん?

「東郷に佐藤さんが参加か?」

「ああ。」

「せ、せっかくだし...。」

 参加するのは男女のペア。司が言った直後に異性でのペアが来たが...。

「おお!カップルでの参加だ!」

「東郷!恥掻かないようにな!」

 ...と、男子の持て囃す声と、女子の黄色い声が上がる通り、カップルなのだ。
 いつから付き合っているかと言うと、四年の春ぐらいからだと。
 士郎さんのサッカークラブに東郷は入っていて、佐藤さんはマネージャーだったのだ。

「よし、後三組だ。誰かいないか?」

 しばらく待つと、男子と女子で二ペアができた。
 後一組だけど、男女六人ずつとなると男女で組まないといけない。
 ...となると...。

「司、行けるか?」

「えっ?行けるって...。」

「僕とペアを組んでくれ。」

「ふえっ!?」

 司とは親友同士だし、魔法関連で息を合わせたりもしている。
 互いに色々知っているから、これ以上の適役はいないだろう。

「優輝てめぇ!?」

「お、おま、おま、なんて事言い出すんだ!?」

「キャーッ!カップルペアがもう一つよ!」

「やっぱり二人ってそういう関係!?」

 途端にクラス中が沸き立つ。...っておい先生、混じんな。

「...この際からかいの類は無視するが、ちゃんと理由はある。一つ、僕と司は皆の知っての通り運動神経が良い。もう一つは、僕と司なら息を合わせる事ができるからだ。」

 その言葉に、さらにクラス中が沸き立つ。
 そっち方面で捉えんな!いや、そう捉えられるような言い方した僕も悪いけど!

「え、えっと...あ、ぅ....。」

「あー...ダメならダメと言ってくれていいぞ?」

 顔を真っ赤にしながら、言葉を紡ごうとする司。
 正直、口説いているようなものだからな...。親友に何してんだ僕...。

「だ、ダメじゃないよ!え、えっと...私でいいなら...。」

「じゃあ、決まりだな。」

 二人三脚の項目に僕と司の名前を書き込む。

「ふ、不束者だけど、よろしくね...?」

「ちょっと待て、それなんか違うぞ?」

 やばい、司がちょっとおかしくなった。
 野次を飛ばしてくる周りをスルーしながら、何とかして司を戻そうと僕は奔走した。

 ....あ、ちなみに他の種目も無事埋まった。
 組み分けとかはまだだけど。







       =司side=





「........。」

 “ぽけーっ”とした感じで、私は帰りのSHRを聞き流す。
 こんな気が抜けている原因は、つい先ほどまであった体育祭のメンバー決めだ。

「(うぅ...また意識しちゃった...!)」

 慣れてきたつもりではあった。現に、普通に話すならもう平気だ。
 けど、ああいう事言われただけで、私の動悸は激しくなる。

「はふぅ....。」

 帰りの挨拶が終わり、皆が帰る中私はそんな溜め息を吐く。
 意識しすぎて、未だに顔がちょっと熱い。

「(優輝君は....もう帰っちゃったか...。)」

 何やら用事があるようで、優輝君はさっさと帰ってしまっていた。
 どうせなら一緒に....って、何考えてるの私!?

「二人三脚かぁ...。」

 一人で帰る途中、ふと今回やる事に決まった二人三脚に思考を巡らす。
 経験がない訳ではない。前世で一度やった事があるし。

「(そういえば、前世でも優輝君とだったっけ?)」

 前世でも私は優輝君とだった。
 その時は息もぴったりで見事に一位を取ったけど...今回は違う。
 ...私は、優輝君に恋しちゃってるから。

「(意識してしまってペースを乱しそうだなぁ...。)」

 それだけは勘弁だ。私のせいで勝てなくなるも同然だから。
 でも、その反面嬉しいという気持ちも強い。それはもう、舞い上がりたいぐらい。

「........。」

 ふと、私が優輝君と一緒に走っている姿を想像する。
 ...それだけで、顔が熱くなるのがわかった。

「....あれ?」

 そこで、ある存在を見つける。

「優輝君と....帝君?どうしてあの二人が...?」

 優輝君が先を歩き、それに渋々と...だけどやる気のある表情で帝君がついて行く。
 珍しい組み合わせだった。さっさと教室を出たのは彼と待ち合わせしてたのだろう。

「(...ついて行ってみようかな?)」

 見た所、不穏な様子は少しもない。
 それに、優輝君なら信頼できる。

 そういう訳で、私はこっそりと二人の後をつける事にした。







「(ここは....空き地?)」

 ついた場所は国守山の木々がない少し開けた場所。
 確か、アリシアちゃんが弓の特訓を受けてる時に使ってたっけ?

「待ってたわよ。」

「付き合わせて悪いな。」

「いいよー、あたし達も暇だったし。」

 そこには、椿ちゃんと葵ちゃんが待っていた。
 それを事前に話していたのか、帝君はいつものように絡まず大人しかった。
 ...海での一件以降、まただいぶ大人しくなったんだよね。
 優輝君が女の子になった際の姿に一目惚れしたかららしいけど。

「(...また何とも複雑な関係のような...。)」

 “志導優奈”という人物は存在しない。...けど、優輝君はその人格を“創造”した。
 無意識下での創造だったからか、二重人格になってしまったけど...。
 まぁ、つまりは帝君は優輝君のもう一つの人格に惚れたようなものだ。
 ...どう考えても実る気がしない恋なんだけど、それ...。

「それじゃあ、始めるぞ。まず僕が相手するから、全力で掛かってこい。だけど、威力が高すぎる武器は禁止な。結界が持たないし。前回と同じように、無駄な所とかは指摘していくから、随時直しておくように。」

「わーったよ。さっさと始めるぞ!」

「...“せっかちすぎる人は嫌いだよ”。」

「ぐふっ...てめぇ!!」

「あっはっはー。」

 そんな会話と共に、結界が張られて二人の模擬戦が始まる。
 ...というか、優輝君、完全に言葉で手玉に取ってるね。声真似でからかうなんて。

 それにしても、“前回”って事はこれが一回目じゃないんだ。

「(....凄いなぁ...。)」

 雨あられのように飛び交う帝君の武器を、優輝君は的確に相殺する。
 魔力をほとんど無駄にする事なく、身体強化した拳やリヒトで弾いてるのだ。
 偶に包囲される時もあるけど、その時は武器を創造して相殺している。
 さらに凄いのは、その後の近接戦で帝君にアドバイスしながら戦っている事。
 普通、あんな事しながら戦えないと思うんだけど。

「....何やってるのかしら?」

「えっ?...あっ...。」

 ふと気が付けば、椿ちゃんが隠れている私の傍に立っていた。
 ...そうだよね、私なんかじゃ欺ける程気配を消せないもんね。

「あ、あはは...。」

「...まぁ、司なら別に見られて困る訳ではないわね。」

「せっかくだから見ていく?」

 笑って誤魔化すと、椿ちゃんに呆れられた。
 まぁ、せっかくなので、葵ちゃんの言う通り見ていく事にする。

「どうして、帝君と模擬戦を?」

「海に行った時に提案したらしいのよ。ほら、あいつ、“優奈”に一目惚れしちゃったでしょう?それを利用して、あいつの戦闘での無駄をなくす魂胆らしいわよ。」

「あー...帝君、ちょっと...いや、かなり勿体ない戦闘方法だからね...。」

 だからああしてアドバイスしながら模擬戦をしてる訳なんだ。
 それに、優輝君にとってもいい練習相手になるんだろうね。

「あっ、決まった。」

 模擬戦を眺めていると、優輝君のカウンターが綺麗に決まり、帝君は落とされた。

「ふぅ...司?どうしてここに?」

「えっと...ちょっと見かけたから気になって...。」

「あー、だから視線を感じたのか。」

 き、気づかれてた...。さすが優輝君...。

「司!?なんでここに...!?」

「あはは...こんにちは。」

 帝君はやっぱり気づいていなかったようで、驚いていた。

「それはそうと、見ていてどうだった?」

「そうね...。前回と比べれば立ち回りはマシになっていたわ。まぁ、飽くまで前回に比べれば...だけどね。まだまだ無意識下での狙いが甘いし、近接戦との両立もできていないわ。」

「ほとんど同意見だねー。付け加えると、近接戦では全部の攻撃に対して後手に回ってるね。こればっかりは経験がないと難しいけど、もっと先読みできるようにならないと。」

 ...二人共辛口だなぁ...。二人からすれば、私にもまだまだ無駄はあるんだろうなぁ。

「優輝は?」

「そうだな、やっぱり今まで武器射出と魔力のごり押しに頼っていた感じがあるな。椿の言う通り前回よりはマシだが、まだ素人の域だ。...まぁ、並の相手ならそれでも充分通じるんだけどな。」

「...と、いう事らしいわよ。」

「くっ.....。」

 あ、いつもみたいに言い返さない...。
 なんというか、帝君も成長したって感じだなぁ...。

「じゃ、椿、葵。後は任せた。」

「分かったわ。次は遠距離からの攻撃と近距離からの攻撃。そしてその連携に対する対処と、武器の扱い方について教えていくわ。」

「色々と細かいから、気を引き締めてねー。」

 そう言って、あまり休む暇も与えずに二人は帝君を連れていく。
 ...アリシアちゃんよりはマシだけど、厳しいなぁ...。

「よっと、座るか?司。」

「えっ?あ、うん。」

 隣を見れば、優輝君が御札に収納していたらしい椅子を取り出していた。
 お言葉に甘えさせてもらって、私は優輝君の隣に座らせてもらう。

「....ねぇ。」

「ん?どうした?」

「帝君を鍛えるのはいいけど、どうするつもりなの?」

 勿体ない戦い方を直すのは分かる。だけど、直してどうするつもりなんだろうか。
 それが気になって、私は優輝君に尋ねる。

「どうする...か。...なぁ、司。あいつの顔を見てみな。」

「えっ?......えっと...。」

 視力を強化して、特訓を続ける帝君を見てみる。
 ....いつもと違って、真剣...?

「まぁ、あいつの恋心を利用した形になるんだが、あいつの自尊心を叩き直そうと思ってな。こうして、“恋”のために努力させて、それに僕らが付き合ってやれば、あいつの性格もまともに直せるんじゃないかと思ってな。」

「そっか....。」

 皆が...私でさえ、面倒臭いと思った性格の帝君。
 その帝君を、優輝君はただ窘めるだけじゃなく、磨き上げているんだ。
 ...さすがは優輝君。人一人を導くのなんて、朝飯前なんだね。

「...それでも恋心を利用するのは...。」

「あー...僕も罪悪感があるんだよなぁ...。どうするべきか...。」

 帝君は今、優輝君が作り出した架空の人物に惚れている状態。
 そんなのじゃ、いくら帝君が頑張っても報われないという事になる。
 ....私も恋している身として、さすがに気の毒だと思う。

「....振るしかないよなぁ...。」

「それは....。」

「正体をばらすよりはマシだろう。」

 初恋は実らないもの...なんて聞く事はあるけど、それでも精神的にきついと思う。
 でも、一番マシな対処法なんだよね...。

「...優輝君は、振られる人の気持ちを考えた事はある?」

「え、なんだその責められるような質問は...。」

「あ、いやそんなつもりは...。」

「分かってるって。...そうだな、考えてるには考えてるが、理解が及んでいる訳ではない...って言うのが僕の考えかな。」

 考えてるつもりでも、それが正しいとは思っていない...優輝君らしいな。
 そんな優輝君だから、私は....。

「ただ、僕自身、好意を向けられた際にどうすればいいのかよくわかってないんだよ。」

「....そっか...。」

 優輝君は、前世で恋した事があるとはいえ、好意を向けられた時にどうするべきなのかは分からないと言う。...まぁ、私もわからないし、普通だとは思うけど...。

 ......うん...。

「ねぇ、優輝君....もし、私が今ここで告白したら、受けてくれる?」

「...えっ?」

 椿ちゃんと葵ちゃんは未だに帝君と模擬戦をしてる...今がチャンス...!

「...私、優輝君の事....!」

「っ...ま、待ってくれ司。」

「っ.....。」

 顔が赤くなるのを自覚しながら、想いを打ち明けようとして、止められる。

「...うん、司が僕にどんな想いを抱いているのかは、漠然とだけど分かってる。....でも、僕はそれに応える事はできない。」

「ぇ.....。」

「さっきも言った通り、どうすればいいか分からないんだ。」

「そ、そっ...か....。」

 きっと、誰から見ても私はショックを受けて落ち込んでいるように見えるだろう。
 何とか平静を保とうとしているけど、やっぱりショックが大きい...。

「...でも、受け入れる事はできる。」

「えっ....。」

「...な?」

「っ~~....!」

 まるで、私の気持ちを汲み取ってくれるかのような言葉に、私は何とも言えない高揚感に見舞われる。

「っ、優輝君...!」

「わっ、っとと...。やっぱりか?」

「うん...!ごめんね、気持ちが抑えられなくて...!」

 気持ちの赴くまま、優輝君に縋りつくように体を預ける。

「...そっか...。その様子だと、色々葛藤はあったみたいだな...。」

「...うん、ありがとう、受け入れてくれて...。」

 直接は言っていないけど、優輝君は私の想いを理解したのだろう。
 ...でも、“好き”はきっちりと言いたい。

 ...けど、それは...。

「(...今じゃなくても、いいかな...。)」

 元々、偶然見かけてついてきただけ。
 雰囲気もあったものじゃないし、ここで直接言うのはダメだと、今更ながら思った。

「....いいのか?」

 優輝君は、それ以上何も言おうとしない私を気にして聞いてくる。
 それに対し、私は優輝君の肩に体を預けながら答える。

「...うん。今は、いいよ。今は、これで満足だから...。」

「....そうか...。」

 やっぱり、好きになってもこういった“親友”らしい関係が気に入ってるのだろう。
 体を肩に預ける...それだけでも、私は満足だった。

 いつかは、ちゃんと告白するだろう。
 でも、その時は優輝君を振り向かせるようにしたい。
 ...だから、今はこのままで....。







       =優輝side=





「人によっては、甲斐性なしとか言われるんだろうな。」

 肩にもたれかかる司から目を離し、遠くの方で特訓を続けている三人を眺める。
 ...結局、司に想いを告げられそうになっても、僕は応える事ができなかった。

 受け入れると言ったが、それは“保留”に近いものだ。
 ...やっぱり、甲斐性ないな。僕。

「(やっぱり、少しおかしいな...。)」

 導王の時は、ちゃんとシュネーの事を愛していた。
 前世だって、片想いした時はちゃんと“好き”だと自覚していた。
 ...だけど、今はそんな想いを一切抱く事ができない。

「(大事には思っている。だけど、恋愛に発展する訳でもない。)」

 家族とか、親友とか、そっちの方面でしか好意を持ってくる相手を見れない。
 どうしても、僕自身が恋愛感情として“好き”だと思えないのだ。

「(...考えても、仕方ないか。)」

 きっと、今まで色々あったからなのだろう。
 日常の中にいれば、いつかは以前のように“好き”だと思えるようになるだろう。

「(どんな形であれ、僕が司や皆の事が“好き”だと言うのには変わりないしな。)」

 だから、きっと今はこれでもいいと思っている。

「えっと...優ちゃん?」

「っと、終ったのか?」

「ええ、そうね。....で、“それ”は一体何なのかしら?」

 ふと司に向けていた視線を戻すと、椿と葵が目の前に立っていた。

「....って、あれ?司?」

「....すぅ....すぅ...。」

 反応がないとは思っていたが、いつの間にか司は眠っていた。
 ちょうど木漏れ日が少し当たって暖かい場所だったからだろうか?
 ...それとも、僕に体を預けてる事による安心感からだろうか?

「どうして、そんな羨ま...そんな状況になっているのかしら?」

「(言い直した...。)どうしてって言われてもなぁ....成り行き?」

 司から始まった会話を続けていたら、こうなっただけなのは確かだ。
 その過程で告白に近い状況になったりはしたが、そこはまぁご愛嬌って事で。

「ふ、ふーん...。」

「羨ましいよねぇ...。」

「ばっ...!?な、なに言ってるのよ!?そ、そんな訳...!」

 椿と葵による毎度恒例の会話が繰り広げられる。
 相変わらず、口元が引き攣っていたりと分かりやすいな椿。
 褒めたりするとすぐに花を発生させたり...まぁ、そういう所がいいんだけどね。

「...所で、王牙は?」

「えっとねー、優ちゃんと司ちゃんがこうなってるのに気づいて、それで動揺しちゃってその隙で....ほら。」

「あちゃぁ....。」

 どうやら、動揺した際に攻撃をモロに食らって気絶してしまったらしい。
 ...まぁ、見られたら見られたで面倒臭い事になってそうだが。

「悪いけど気つけを頼む。」

「了解だよー。それ。」

 だとしても、気絶させっぱなしはダメという事で、起こす。
 それに、今日の特訓はもう終わりだしな。

「いつつつ...って、てめぇ!?」

「目が覚めたかー?次からは動揺で動きを乱さないようになー。」

「そうじゃねぇ!なんで司に...!」

 起きるとやっぱり司がもたれかかっているのに突っ込んできた。
 椿や葵も羨ましそうに見てたからなぁ...。

「成り行きだ成り行き。...それと、起こす訳にも行かないから静かに。」

「ぐ...!...くそっ!」

 僕の言葉に、王牙は渋々大人しくなる。
 最近はある程度素直に言う事を聞いてくれて助かる。

「じゃあ、僕が連れて帰るし、王牙も帰っていいぞ。」

「変な事したらぜってぇ許さねぇからな!」

「しないっての。椿と葵もいるし。」

 そう言いながら、王牙は帰って行った。
 それを見て、僕らも司を背負って帰る事にする。もちろん、起こさないようにだ。





「...知り合いに見られたら噂になりそうだな...。」

「そうね。」

 司を送り届けるために、背負いながら街を歩く。
 幸い、そこまで人通りが多くないから、見かけられても微笑ましく見られるだけだ。

「ん.....。」

「っ....。」

 背負っているため、司の寝息が僕の首辺りに掛かる。
 それに、発育中とはいえ、背中に女性特有の...これ以上はよそう。
 椿の視線が怖いくらいに鋭い。

「....優輝、君....。」

「...まったく、世話が焼ける親友だ。」

 僕を求めるように呟かれたその声に、僕はそう反応を示すしかなかった。
 僕を慕ってくれてるのは分かるのに、それに応えられないのがもどかしい。

「よし、着いたな。」

「インターホン鳴らすねー。」

 葵にインターホンを鳴らしてもらい、司の母親が出てくる。

「あら?貴方は....。」

「友人の優輝です。司と一緒にいたんですけど、眠っちゃったので...。」

「遅くなるとは聞いていたけど....あらあら...。」

 なぜか微笑ましそうに僕と司を見る司のお母さん。

「ふふ、幸せそうに眠っちゃって...。」

「後はお願いします。それじゃあ、僕らはこれで。」

 そういって、僕らも家に帰る事にした。







 しばらく後、司が目を覚まし、母親から僕に背負われて来たと聞いて恥ずかしい反面、嬉しそうにずっと赤面していたのはまた別の話...。









 
 

 
後書き
苗字だけ出していくクラスメイト。出番なんてあってないようなものです。
ちなみに本編で出たカップル、一応原作キャラです。分かる人にはわかります。

...おかしい、後半はただの王牙の修行パートだったはずなのに、いつの間にか司の恋模様を描写していた...。...ヒロインだしいいか。
そういう訳で、告白一歩手前まで行きました。優輝も気づいてはいますが、正式な告白はまたの機会という事になった感じです。 
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