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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
1節―超常決戦―
  和洋無双

「危なかったのです」

 熾天使ラファエル、“神の癒し”と自分で名乗るほどなのだから持つ力はどう考えても癒しだろう。
 けれど、あの瞬間――

「“癒されろ”ルリ」

 ――そう言おうとしたであろうラファエルの笑みに、エミアは言いようのない危機感を抱いたのは確かだった。

 とりあえずの危険は去ったかと、エミアはため息をつくと後ろの容態をチラ見する。

「大丈夫なのですか?」
「あぁ、少し休めば動けるようになる…」
「同じく……」

 そこには地面で息を上げて寝転んでいるエレンとルビがいた。
 最初に放った『神技』を、より目立つようにより強力に魔力をかなり込めたので魔力量が切れたのである。

 ―動けるとしても、もう『神技』は使えなさそうなのです。

 “申し子”によって『神技』の特徴は変わるが、全てに通して言えるのが“魔力量を消費する”ということだろう。
 その中でもルビとエレンの『神技』は威力がかなり高い分、消費される魔力量が桁違いに多い。
 しかも本来消費する魔力量が多いにも関わらず、更に魔力を込めたら空になりかけるというものだ。

 逆に、ルリなどの『神技』は非常に消費する魔力量が少ない。
 一撃必殺ではあるが、創り出すのは架空鉱石の鎌のみなので何度も使えるのが利点だろう。

 ―かくいう私の『神技』も消費する魔力量は多いので、余り使えないのです。

 せめて後2,3発と言ったところ、とエミアは自身も魔力量を考えて思う。
 最初からかなり全力で一連の流れを行ってきたエミア達だが、それでもかなり今の流れは上手くいっていると言っていい。

 ―熾天使2人は思惑通りルリさんとナミルさんに。

 対人戦闘能力では“申し子”達の中では随一のナミルに、戦闘能力は他の“申し子”達に引けを取るが継続戦闘ではかなり優秀なルリ。
 どちらも“戦いを長引かせる”ことに関しては仲間の中では最上レベルと言っていい。
 ルリに関しては、ソウヤと戦うことになってもかなりの間長持ち出来る。

 ―あとは、あの“2人”がどれだけ早く終わらせられるか…なのです。

 エミアの仕事は息の上がったルビとエレンの護衛と、仲間の危機的状況に遠距離から手助けを行うこと。
 必要とあれば指示も行う、いわゆる指揮官だ。

 だからこそ、今ここを動けないしあの“2人”に任せるしかない。

 ―お願いするのですよ…!




「ッは…!」

 一振りすれば一人死ぬ。
 二振りすれば二人死ぬ。
 三振りすれば三人死ぬ。

 “一刀一殺”。
 それが今、深春が目標として行っていることだ。

 別に一振りで何人も殺さなくていい、そういうのは“この世界の戦士”が担当すること。
 いつだって、深春が目標とした“武士”は常に一対一での確実な殺戮。
 相手がどれほど強くても構わない、ただ一刀で仕留めるのみ。

 これが深春の『神技』だ。
 どれほど敵が硬くとも、どれほど敵が速くとも“関係なくする”。
 ただお互いに許されるのは一振りのみ。

 それが『偽・全て斬り(偽りの)()く鋼神の一撃(目一刀)』。

 血すら浴びる事なく、ただ美しく舞いながら1人1人斬り抜いていく深春の姿に、レーヌはため息をついた。

 ―あれ、もう人の動きじゃないわね…。

 客観的に見て、あれはただの“変態”である。
 本来、前線で戦う者ではないレーヌにとって見えているのは振り抜く後と振り抜く前のみ。
 故に今レーヌの眼には深春が瞬き毎に“構え”、“振り抜く”を繰り返しているようにしか見えなかった。

「やっぱりこうするのが一番手っ取り早いわ」

 レーヌは杖で地面を叩く。
 それだけで周りの下級天使達は自我を失い、さも当然かのように仲間討ちを始める。

 言ってしまえばレーヌもやることは大概“人道”を離れているが、本人は気付いていない。
 彼女からしてみれば、天使というのはただの“騒ぐ動物”でしかないのだ。
 更に言ってしまうのなら先に虐殺を行い始めたのは天使側なので、容赦する気もさらさらなかったりする。

「…にしても、中々減らないわね」
「っと、仕方ないでござるよ、5万もいるし」

 休憩がてら安全地帯であるレーヌの周りに戻ってきた深春は、溜まっていた息を大きく吐き出すとそう言った。
 その反論できない正論に、レーヌはため息をつくと杖を大きく回す。

「『我は幻実、我は現実」
「あ、ちょっと待つでござる。小生は逃げる故」

 今からやろうとしていることを察した深春は、高速でこの場から離脱。
 また一刀一殺を行い始める。
 けれどレーヌからしてみれば知ったことではない。

 回転力もついた杖で、敵が全然減らないというストレスを込めてかなり強めに地面を叩くレーヌ。
 すると、レーヌの周りが一気に水蒸気で満たされていく。

「我が放つは全て突き殺す幻実の一撃』」

 持っていた杖が三又槍となり、レーヌが左手を右から左へ流せば生まれ出るは心臓。
 水蒸気の中にいる天使達の心臓を、幻で擬似的に創り上げたのだ。

「『偽・全て突き(トリアイナ)()す海神の一撃(フェイクション)』」

 最後に、レーヌは三又槍を空中へ放り出す。
 幻によって生み出されるのは心臓の数だけの三又槍。
 その手を振り下ろすだけで擬似的に作り上げられた心臓へ三又槍は一直線に降下し、その心臓の持ち主は死亡する。

 これがソウヤでさえも「うわぁ」と言わしめた、レーヌの『神技』だった。

 エレンとルビの一撃で目くらましを行い、その間にルリとナミルが熾天使の懐に潜り込み熾天使を釘づけに。
 その間に和の武士と洋の幻魔導士が共同戦線を張り、最初の一撃で混乱している天使に対し無双する。

 これが“神門”防衛用の対天使軍団への策の第一段階。
 ライト名称、“和洋無双”だ。 
 

 
後書き
出てきた『神技』まとめ
 〇偽・全て斬り抜く鋼神の一撃(偽りの天目一刀)
  …”一刀一殺”という概念を突き通すことを可能とする技。
   魔力を分散すれば雑魚散らしに、魔力を集中すればボス狩りできる有能技。

 〇偽・全て突き殺す海神の一撃|(トリアイナ・フェイクション)
  …本来は心臓へ必ず必中する追尾の投げ槍。
   が、幻で疑似的に心臓を創ることで大量殺戮技へと変貌した。レーヌ怖い。
 
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